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獣医師が伝える犬猫の病気や治療の考え方

猫の胸腺腫(Thymoma)|症状・診断・治療(ステロイド・外科手術・放射線)・予後を腫瘍科獣医が徹底解説

更新日:2025/11/24

猫の胸腺腫(Thymoma)は、胸の前側(胸骨の裏あたり)にある
胸腺という免疫器官から発生する腫瘍 です。

胸腺腫は猫では多くありませんが、
見つかった時には

  • 呼吸が苦しい
  • 胸水がたまる
  • 食欲低下
  • 元気がない
  • 前足の浮腫、チアノーゼ(呼吸不全)

といった明確な症状を起こしやすいのが特徴です。

この記事では、腫瘍科獣医師として
胸腺腫の症状・診断(レントゲン/CT)・胸水・治療法(手術/放射線)・予後(生存期間)
わかりやすくまとめます。

年齢を重ねることでさまざまな腫瘍が発生しますが、

胸の中に腫瘍ができると呼吸が苦しくなるので、

とても辛い状態で見つかることが多いです。

胸のなかにできる猫の腫瘍のひとつに胸腺腫があります。

どんな腫瘍でしょうか?

どんな治療ができるでしょうか??

長生きできるでしょうか???

胸腺腫とは?

胸腺腫は
胸腺の“上皮細胞”が腫瘍化してできる種類 の腫瘍です。

  • 発生場所:胸腔の前方(前縦隔)
  • 形:大きな“かたまり”として映る
  • 増え方:ゆっくり〜中等度
  • 転移:まれ(リンパ節/肺)

胸腺腫は “巨大な塊になりやすい” ため、
肺を圧迫して呼吸が苦しくなる → 胸水がたまる
という状態で見つかることが多い。

犬猫では比較的稀ですが、胸のなかに大きな腫瘍ができるので、

急に呼吸が苦しくなり緊急状態になることが多い腫瘍です。

その胸の中とは肺ではなく「前縦隔」と呼ばれる部位で、

その部位に出来る腫瘍では最も発生が多い良性の腫瘍です。

基本的には被膜で覆われており非浸潤性ですが、時に周囲の臓器へ浸潤を示すことがあります。
良性腫瘍ではありますが、非常に稀に遠隔転移を認めることがあります。

同じ部位に2番目に発生が多い腫瘍に前縦隔型リンパ腫と呼ばれる腫瘍があり、

ときに鑑別が困難ですが治療が大きく異なるので注意が必要です。

胸腺腫の症状

胸腺腫による症状は、無症状から非常に重度な呼吸困難まで様々です。

胸腺腫が大きくなり周囲の臓器を圧迫することで、

・元気消失

・発咳

・頻呼吸、呼吸困難

を呈します。

よくある症状としては

🟥 呼吸が早い・苦しそう

→ 最も多い症状

🟥 胸水がたまる

→ X線で“肺が押されている”ように見える

🟧 元気がない

🟧 食欲不振

🟧 咳(少数例)

🟩 比較的多いサイン

  • 前足がむくむ
  • うずくまる
  • 動くとすぐ息が上がる

胸腺腫は“血管を圧迫”しやすいので、前足の浮腫が出ることもある。


胸水が貯留すると、重度の呼吸困難などで致命的になることがあります。

また、胸腺腫は特徴的な腫瘍随伴症候群と呼ばれる症状を呈することもあります。

胸腺腫で起きやすい合併症(猫特有)

🟥 ① 胸水(大量)

一番多い。

胸腺腫 → 血管圧迫 → 胸水が増える
→ 呼吸が苦しくなる → 緊急処置が必要

🟥 ② 重症筋無力症(Myasthenia gravis)

猫では少ないが有名な合併症。

  • 立てない
  • ふらつく
  • すぐ疲れる
  • 食道拡張(Megaesophagus)で吐きやすい

🟧 ③ 心臓への圧迫

脈が弱くなることもある。

胸腺腫の腫瘍随伴症候群

胸腺腫に起こりうる腫瘍随伴症候群には、

・重症筋無力症(GM)

・剥奪性皮膚炎

・高カルシウム血症

・リンパ球増加症

・貧血

などがあります。

高カルシウム血症

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胸腺腫の診断

胸腺腫は前述の症状で疑いますが、診断には画像検査が必要です。

画像検査としては、胸のレントゲンにて胸の前に大きな白い影が見つかります。

前縦隔に発生する腫瘍は、リンパ腫等、胸腺腫以外にもありますので、

胸腺腫なのかどうか細胞診検査、もしくは組織検査が必要となります。

この検査には全身麻酔が必要となることが多いですので、

血液検査で全身のチェックをしたのち、

細胞の検査と併せてCT検査にて胸のできものが切除可能かどうか確認します。

多くの場合は、大きいですが転移等は少なく、どこまで広がっているか、

周りの臓器に影響与えているかを確認します。

✔ ① レントゲン

  • 前縦隔に大きな塊
  • 肺が後ろへ押しつぶされる
  • 胸水の有無

✔ ② エコー(胸腔内)

胸腺腫は“境界が比較的はっきり”して映りやすい。

✔ ③ CT検査(最も重要)

手術前に必須。

CTでわかること

  • 大きさ
  • 血管との位置関係
  • 肺・心臓・血管への浸潤
  • 手術できるか判断
  • 転移の有無

✔ ④ 胸水検査

胸水を抜いて性質を判断
※胸水自体から腫瘍の診断は難しい

胸腺腫の治療

胸腺腫の治療には、外科手術、放射線療法、化学療法があります。

まず、切除可能な場合の第一選択は、外科切除です。

外科治療がこの3つの治療法の中で唯一の根治的な治療法です。

あまりに腫瘍が大きすぎてとれさそうな場合は、

まずステロイドによって腫瘍が小さくならないか治療を試みます。

ここで大切なのは、ステロイドで小さくなったからそのまま治療を終わりにしないこと。

ステロイドはいつまでも効きませんので、必ず小さくなったあとしっかり外科で切除します。

また、どうしても切除が不可能な場合は放射線治療を行います。

放射線療法の反応率(完全に消失または部分的に縮小する率)は75%です。

手術が難しい場合の選択肢(放射線)

以下の猫では 放射線治療 が選択肢になる。

  • 心臓・大血管に浸潤
  • 極端に大きくて摘出困難
  • 高齢・基礎疾患で麻酔がリスク
  • 飼い主が手術を希望しない

🟦 放射線治療の特徴

  • 腫瘍を縮小できる
  • 呼吸改善が期待できる
  • 胸水が減ることもある
  • 完治ではなく“コントロール”目的

胸腺腫の予後/余命

巨大食道による誤嚥性肺炎のない切除可能な胸腺腫の予後は非常に良好です。
外科切除が困難な理由として、胸腺腫が周囲へ浸潤している(特に前大静脈への腫瘍栓の浸潤)ことが挙げられます。

その場合、前述のように先にステロイドや放射線で縮小を試みて外科切除することで長生きが可能です。

生存中央値(平均のような数値)は犬で790日猫で1825日

1年生きれる確率は犬で64%猫で89%です。

研究データでは:

🟩 手術できた猫

平均生存:1〜3年以上
状態よく過ごす子が多い。
再発も少なめ。

🟦 放射線治療のみ

生存:半年〜1年程度
(腫瘍縮小→呼吸改善あり)

🟥 放置した場合

  • 胸水が増える
  • 呼吸不全
  • 数週間〜数ヶ月で悪化
  • 放置した場合に起こること
  • 呼吸困難
  • 胸水が繰り返す
  • 食欲低下
  • チアノーゼ
  • 失神
  • 最終的に呼吸不全
  • 胸腺腫は 放置は絶対に危険な腫瘍

頑張って治療することで長生きが可能であり、根治治療も可能です。

ぜひ、正しい診断治療を行い腫瘍をやつけましょう。

飼い主が気づきやすいサイン

  • 呼吸が早い
  • お腹で息している
  • 音を立てて呼吸
  • 前足がむくむ
  • ぐったり
  • 食欲がない
  • 横になると苦しそう
  • 咳が出ることも

1つでも当てはまれば早めの受診を。

よくある質問(FAQ)

Q. 胸腺腫とリンパ腫の違いは?

→ CTで“形が違う”。胸腺腫は塊、リンパ腫は広がりやすい。

Q. 手術は高齢でも可能?

→ 心臓・腎臓の状態によるが、高齢でも成功例は多い。

Q. 再発は多い?

→ 完全切除できれば再発は少なめ。

Q. 胸水はすぐ治る?

→ 摘出後すぐ改善することが多い。

まとめ

  • 猫の胸腺腫は 前縦隔にできる腫瘍
  • 呼吸が苦しい・胸水が多い時に疑う
  • 診断には CTが必須
  • 根治を目指すなら 手術が第一選択
  • 手術できない場合は放射線
  • 放置は危険(呼吸不全)
  • 早期の判断が予後を大きく変える

胸腺腫は
“治療すれば長生きできる腫瘍”
やから、早期発見・早期治療が大切。


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