更新日:2025/11/22
犬のメラノーマ(悪性黒色腫)は、高齢犬に最も多い「口の中のがん」 で、進行が早く転移しやすい腫瘍です。
「治療すべき?」「手術できる?」「どのくらい生きられるの?」
そんな不安に寄り添いながら、検査・治療の選択肢・余命の目安・末期の様子・家庭でのケア を獣医師としてわかりやすく説明します。
まず初めに、高齢のわんちゃんがつぎの症状を示している場合は、
よく口の中を覗いてみてください。
・よだれが増えた
・生臭い口臭がする
・血混じりのよだれ
これらを認める場合は、口の中に腫瘍ができている可能性があります。
犬の悪性の口腔内腫瘍の発生が多いトップ2は、
ひとつは有名なメラノーマ(悪性黒色腫)で、
もうひとつは扁平上皮癌です。
今回は高齢のわんちゃんで最も多い口の中の腫瘍であるメラノーマについて、以下の悩みをお持ちの飼い主様に向けてお話しします。
・メラノーマどんながんか詳しく知りたい
・うちの子の診断が正しいか知りたい
・CT検査が必要と言われた
・うちの子の進行具合を知りたい(ステージ)
・治療選択肢を知りたい
・最終的な転帰を知っておきたい
以上の実際の診察でお伝えしていることを順序だってまとめます。
メラノーマ=悪性黒色腫とは?
メラノーマ(悪性黒色腫)は、メラニン色素を作る「メラノサイト」から発生する腫瘍です。
特徴としては
- 中〜高齢犬にとても多い
- 口腔内(口の中) に最も多く発生
- 進行が早く、肺やリンパ節へ転移しやすい
- 外見が黒くない「無色素性メラノーマ」もある(見た目で判断しにくい)
発生部位は
- 口腔内(舌、歯茎、頬粘膜)
- 皮膚
- 眼
- 爪床(指先)
口腔内メラノーマは悪性度が高く、診断後は早めの治療検討が推奨されます。
見た目と症状
見た目は多くの場合は真っ黒のできもので、発見時は数センチ以上の大きさであることがほとんどです。

腫瘍以外の可能性としては、歯肉過形成重度の歯周炎、口内炎骨髄炎根尖周囲膿瘍歯原性嚢胞肉芽腫性炎などがあります。
初期症状
- 口臭がひどくなる
- よだれが増える
- 口の中の黒い塊
- 歯がぐらつく
進行すると
- 食べにくい、痛そうにする
- 腫瘍が出血する
- 顔が腫れてくる
- 体重減少
末期段階では
- 息がしにくい(腫瘍が大きくなって気道圧迫)
- 食欲が大きく落ちる
- 水すら飲みにくくなる
- 腫瘍が壊れて悪臭や出血を繰り返す
診断
上記のような見た目のできものを見つけた場合は、
まず細胞診検査と呼ばれる針吸引の検査を行います。
ほとんどの場合はこの検査によって診断がつきます。
ただし、メラノーマは全身への転移が多い腫瘍ですので、
全身精査を行います。
リンパ節転移の有無を領域リンパ節の触診および細胞診にて、
肺転移の有無を胸部レントゲン検査にて確認します。
一般的には外科手術が第一選択になることが多いため、全身状態の把握のために血液検査、腹部超音波検査が必要です。
口腔内の病変の詳細や周囲組織への浸潤の程度は視診や触診のみでは分からないため、CT検査を実施することもあります。CT検査については後述します。
さらに、組織検査を同時に実施しメラノーマを確定診断します。
このCT検査と組織生検検査は全身麻酔下にて行います。
診断まとめ
診断は以下の手順で進める。
① 視診・触診
腫瘍の大きさ、色、浸潤範囲を評価。
② 細胞診(FNA)
最も簡易で負担の少ない検査。
黒い顆粒=メラニンが見えることも多い。
ただし、無色素性メラノーマは細胞診で判別しにくいため、生検を追加することも。
③ 画像検査
- 胸部レントゲン:肺転移を確認
- CT検査:手術できるかの判断に必須
- 腹部超音波:他の臓器への転移確認
④ ステージ分類(TNM分類)
- T(腫瘍の大きさ・浸潤)
- N(リンパ節転移)
- M(遠隔転移)
このステージで 治療方針と余命が大きく変わります。
CT検査の考え方
まずCT検査をとりましょう、麻酔かけて、と言われてもその具体的な目的や必要性が知らなければ進めないと思います。それについては以下をご覧ください。
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ステージ
ステージとは、人と同様に、がんがどれだけ進行しているかを示します。各腫瘍ごとにステージの分け方や仕組みは異なります。
ステージを決める、評価する目的は、治療方針や選択肢を明らかにするためです。つまり、根治を目指せるのか、緩和的にケアしていくのかを決めること。
ステージを決める際には、口の中の腫瘍の大きさをもとに原発腫瘍の評価をまず行います。
つぎに、リンパ節転移の有無を領域リンパ節の触診および細胞診にて行い、
肺転移の有無を胸部レントゲン検査にて確認します。
口腔内の病変の詳細や周囲組織への浸潤の程度は視診や触診のみでは分からないため、CT検査を実施します。
それぞれの検査所見を基に、臨床ステージ分類を下記のように行います。
原発腫瘍(T)
- Tis 浸潤前癌
- T1 2cm未満の腫瘍(最大直径)
- T2 2-4cmの腫瘍
- T3 4cm以上の腫瘍
領域リンパ節(N)
- N0 領域リンパ節に浸潤を認めない
- N1 患側リンパ節が可動性
- N2 対側または両側のリンパ節が可動性
- N3 固着リンパ節
a:リンパ節に腫瘍がない
b:リンパ節に腫瘍がある
遠隔転移(M)
- M0 遠隔転移は認めない
- M1 遠隔転移が認められる
最も進行しているステージは4であり、
肺に転移している(M1)の場合です。
それ以外の場合はステージ3以下であり、外科手術の適応になります。
治療と余命
ステージが2以下の場合は根治を目指して、
3の場合は緩和的な治療も目的として、
①外科的な摘出手術を行うのが第一選択になります。
手術は多くの場合は顎の骨ごとの摘出を余儀なくされ大きな侵襲を伴います。
しかし、手術が最もその後のメラノーマを制御することができ、制御されない場合はみるみる大きくなり、
ごはんも食べれなくなるので、先を見据えて考える必要があります。
しかし、実施可能なら 最も寿命を延ばせる治療 です。
◆ メリット
- 腫瘍を物理的に取り除く
- 痛みや出血などの症状が大幅改善
- 転移がなければ長期生存も期待
◆ デメリット
- 頭蓋や顎骨への浸潤が深いと手術困難
- 全身麻酔が必要(高齢・心臓病があると要相談)
- 顎の部分切除が必要になることも
実際のイメージについては、以下を参考にしてください。
手術を行わない場合の選択肢としては、
②内科治療として、抗がん剤(カルボプラチン、トセラニブ、メラノーマワクチン)やNSAIDsがありますが、
肉眼的に大きくなっている場合は副作用を上回る十分な効果は期待できません。
ステロイド(内服)は痛みや炎症を抑え、食欲や元気が戻るケースもある。ただし腫瘍には根治効果なし。末期ケアとしては有効。
そのほかには③放射線治療があり、この治療は可能な施設は限られていますが効果を認められ、手術の侵襲が気になる場合は選択肢になります。
ただし、週に1回×4~5回以上の全身麻酔は避けられません。
いずれの治療も、早期の根治的な治療でなければ、
最終的には転移をして半分の子は1年以内に命に関わってしまいます。
③放射線治療
放射線治療は局所のコントロールには有効な治療法です。外科手術と組み合わせて根治を目的とした照射や腫瘍の縮小を目的とした緩和照射など利用方法は様々です。
手術できないケースの“次の選択肢”。
適応例
- 腫瘍が大きくて切れない
- 顎骨に広く浸潤している
- 超高齢で麻酔リスクが高い
- 効果
- 多くのケースで 痛みや出血が改善
- 腫瘍縮小 → 数ヶ月のQOL改善が期待できる
※施設が限られ、週1〜2回の通院が必要。
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治療選択で大事なポイント
飼い主さんが迷いやすい部分に焦点を当ててまとめる。
●切れるなら手術” は基本
根治を目指すなら手術が最も効果的。
● 手術ができない場合
放射線治療がQOL改善に最も役立つ。
● 抗がん剤は補助
単独治療では効果は限られる → 他治療と併用が理想。
● 生活環境や犬の性格も重要
通院ストレスが大きい子は治療内容を慎重に。
犬のメラノーマの余命
治療内容によって大きく変化します。
| 治療内容 | 期待できる平均余命 |
|---|---|
| 手術 + 放射線 + 補助療法 | 1年以上も可能 |
| 手術のみ | 数ヶ月〜1年 |
| 放射線治療のみ | 約3〜6ヶ月 |
| 抗がん剤のみ | 1〜3ヶ月程度 |
| 無治療 | 数週間〜1ヶ月 |
※腫瘍の場所、大きさ、転移の有無で変動。
末期症状と自宅ケア
進行すると次のような症状が出やすいです。
◆ 末期症状
- 強い痛み
- 食欲不振
- 出血・壊死
- 口臭の悪化
- 呼吸が苦しい
- 体重減少
- 倦怠感が強く動けない
◆ 自宅ケアで最も大事なこと
- 痛みのコントロールが最優先
- 栄養管理(好きなもの、柔らかいもの)
- 出血や臭いへの処置
- 水分補給
- 排泄の補助
- 呼吸が苦しくなる時間帯を記録
◆ 緩和ケアで使うことが多い薬
- NSAIDs
- ステロイド
- オピオイド(必要に応じて)
- 抗生剤(腫瘍の感染予防)
末期症状(治療した場合)
治療を行った場合は、口のできものが制御されているので、
痛みや不快感から解放され、
最後までごはんを食べることができます。
転移する場合、最終的に多くの場合は肺に転移を起こして、呼吸が苦しくなってしまいます。
なるべくお家で苦しくなく過ごすために自宅酸素室を早めに準備することをおすすめします。
肺転移について詳しくは下記にまとめています。

末期症状(無治療の場合)
無治療の場合は、さまざまな治療の負担やリスクを回避することはできますが、
口の中の腫瘍がみるみる大きくなってしまいます。
その結果、転移よりも前に口のできものの不快感や痛みでごはんが食べれなくなり、
痛々しく衰弱してしまいます。
それでもできることはあります。
このときのポイントは2つ。
1つは痛みをとってあげること。
2つ目は栄養管理をしてあげること。
この2点に尽きます。
メラノーマが発生した場合は、
1日でも早く、できるだけ早期からこの2つの治療をぜひ始めてあげてください。
最期まで必ずできることはあります。
腫瘍の鎮痛管理
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腫瘍の栄養管理
がん治療の初期段階から栄養管理の重要性をしっかり認識することは非常に大切です。
がんを患った動物は各種栄養素の代謝の変化が起こります。
炭水化物、蛋白質、脂質の代謝が健康な動物と異なるため、きちんと食べているのに痩せてきてしまうというような現象(がん性悪液質)が起こります。
がん性悪液質に患者を陥らせないためには、食事の成分に気をつけるだけでなく積極的な栄養管理を行っていく必要があります。
具体的には、食事を温めるなどの工夫や食欲増進剤などの使用を検討します。
それでも十分な効果が得られない場合は、チューブ(鼻、咽頭、食道、胃、腸カテーテル)を用いた栄養補給法を検討する必要があります。
患者が‘飢え’から解放されるだけでなく、がん治療の副作用の軽減効果、生活の質の向上につながります。
詳しくは以下をご覧ください。
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よくある質問(FAQ)
Q. 手術は高齢犬でもできますか?
→ 全身状態が保たれていれば可能。
心臓・腎臓・肺の検査をして判断します。
Q. 放射線治療はどのくらいの回数ですか?
→ 1〜2週間に1回 × 数回が一般的。
施設によって回数が変わります。
Q. 根治は難しいが治療したほうがいい?
→ 生活の質を大きく改善できる ケースが多いです。
痛みのコントロールは特に重要。
9. まとめ
- メラノーマは非常に悪性度の高い腫瘍
- 切除できる場合は手術が最優先
- 放射線治療はQOL改善に大きく貢献
- 抗がん剤単独の効果は限定的
- 治療なしの場合は進行が早い
- 末期は痛み管理・生活環境の整備が最重要
飼い主さんが不安でいっぱいの時期だからこそ、
正しい情報と、納得できる治療選択 を一緒に考えてほしいと思っています。
「うちの子も当てはまるかも…」と不安になったり、さらに知りたいことがあったら
ごんた先生AI相談室 で気になることをぜひ直接聞いてみて🐾