更新日:2025/12/7
犬や猫では「吐く」「下痢する」「食欲が落ちる」など、消化器のトラブルはとてもよく起こります。
そのときに処方されることが多いのが 消化器(胃腸)のお薬。
でも、
- どの薬がどんな作用をするのか
- 危険な副作用はないのか
- どんなタイミングで飲ませると良いのか
- 人の薬をあげても大丈夫なのか
こんな疑問を抱える飼い主さんも多いと思います。
犬や猫が下痢や吐き気を起こしたとき、
「何の薬が効くの?」「市販薬を使っても大丈夫?」
と悩む方は多いと思います。
しかし、犬猫の胃腸薬は 症状・原因・年齢・既往歴によって使い分けが必要 で、
人の市販薬を安易に使うと悪化する危険があります。
この記事では、動物病院で使用される胃腸薬を、
目的別にわかりやすく分類しながら、効果・注意点・受診の目安 をまとめました。
今回は犬猫の胃腸薬でよく使用する薬について上記をお答えしていきます。
犬猫でよく使われる胃腸薬の種類
犬猫の胃腸薬は、大きく以下に分類されます。
- 整腸剤(乳酸菌)
- 制吐剤(吐き気止め)
- 制酸薬(胃酸を抑える)
- 下痢止め
- 腸の動きを整える薬
- 消化を助ける薬
- 抗生剤(必要な場合のみ)
症状だけでなく、
原因(感染、膵炎、肝臓、腎臓、誤食など)を見極めて薬を選ぶ必要 があります。
犬猫の下痢/嘔吐
まず、犬猫が下痢や嘔吐をした際の考え方や様子見て良いかの判断はとても重要です。
少しの様子見の判断が時として命を左右することは少なくありません。
まず正しく判断するための知識を別のコラムでまとめていますので一度目を通して頂いてからのほうが、
消化器薬についてご理解しやすいと思います。
消化器症状はなぜ多い?まず確認すべきポイント
犬猫にとって 吐き気・下痢・胃腸の不調は最も多い来院理由のひとつ です。
● よくある原因
- 食べ過ぎ・早食い
- フードの切り替え
- 誤食
- ウイルス・細菌
- 寄生虫
- 膵炎
- 慢性胃腸炎
- ストレス
- 腎臓・肝臓などの全身病からの二次症状
● まず確認してほしいポイント
- 元気はある?
- 水は飲めている?
- 何回吐いた?
- 血便は?
- 腹痛が強くない?
- 誤食の可能性は?
これらのチェックは「様子をみてよいか・受診すべきか」の判断に役立ちます。
また、フードが原因のことが最も多いです。お悩みの場合以下を参考にしてみてください。
※本記事は獣医師の視点から、毎日安心して与えられるドッグフードを厳選して紹介します。病気の治療ではなく、将来の健康を守るための食事選びを目的としています。普段我々は病気の療法食としてロイヤルカナンやヒルズなどの療法食を処方しますが[…]
犬猫に使う胃薬の分類と特徴
消化器薬は大きく以下の5種類に分けられます。
- 吐き気止め(制吐剤)
- 胃酸分泌抑制薬(H2ブロッカー・PPI)
- 胃粘膜保護薬
- 腸の動きを改善する薬(消化管運動改善薬)
- 下痢止め・整腸剤・抗生剤
それぞれ役割が違うため、「嘔吐の原因」「症状の程度」に合わせて使い分けます。
下痢に使われる薬
■ 整腸剤(乳酸菌・ビフィズス菌など)
腸内環境を整える作用があります。
- 乳酸菌製剤
- ビフィズス菌
- 酪酸菌
副作用が少なく、軽度の下痢で使われることが多い薬です。
■ 下痢止め(腸の動きを抑える薬)
動きを無理に止める薬は基本的にあまり使いません。
理由:毒素や病原体が腸に留まり悪化する可能性があるため。
動物病院では、安全性と原因に合わせて慎重に使用します。
■ 吸着剤
腸内の毒素を吸着する薬です。
- 活性炭
- 天然由来の吸着剤
食べ物が原因の軽度の下痢に使われることがあります。
吐き気に使われる薬(制吐剤)
吐き気止めは 原因によって使い分けが必須。
- 胃腸炎
- 膵炎
- 腎臓病
- 肝臓病
- 乗り物酔い
- 抗がん剤副作用
- 誤食
によって薬が変わります。
動物病院でよく使用する制吐剤の作用は以下。
- 胃の動きを整える
- 吐き気を抑える
- 胃酸逆流を改善する
※誤食(骨・紐・異物)が疑われるときは 絶対に吐き気止めを使ってはいけません。
腸閉塞のサインが隠れてしまいます。
胃酸を抑える薬(制酸薬)
胃酸が多くて胃粘膜が荒れているときに使用します。
- 胃炎
- 逆流性食道炎
- 空腹嘔吐
- 薬剤性の胃荒れ
などが適応です。
胃酸を抑えることでムカムカ感や吐き気が改善します。
整腸剤・乳酸菌
安全性が高く、胃腸の弱い子に日常的に使用されます。
期待できる効果:
- 下痢の改善
- 便の質を整える
- 腸内バランスを正常化
- 免疫サポート
ただし、重度の下痢や血便には整腸剤だけでは不十分 です。
腸の動きを整える薬
- 胃や腸の動きを正常化
- 吐き気の改善
- 消化不良の改善
胃腸が弱っているときに使用されます。
※腸閉塞が疑われる場合には使用できません。
犬猫によく用いる消化器薬一覧
吐き気止め
・セレニア(マロピタント)
胃粘膜保護
・ガスター(ファモチジン)
・オメ(ランソ)プラゾール
・スクラルファート
消化管運動改善薬
・プロナミド(モサプリド/ガスモチン)
・プリンペラン(メトクロプラミド)
下痢止め
・フラジール(メトロニダゾール)
それぞれについて用法用量を簡単にまとめます。
セレニア
成分名:マロピタント
用法:1日1回の経口投与または皮下注射で連続投与は5日間まで安全性確認されている。
作用:脳の嘔吐中枢をブロック
効果:ほとんどの嘔吐に有効
投与回数:1日1回
副作用:ごくまれに皮下注時の痛み・眠気
「吐き気のコントロール=回復の第一歩」なので、動物の負担が大きい嘔吐には最優先で使われます。
・特に副作用は認めないが、皮下注射は刺激性があるのでしみて悲鳴を上げる子が多い
成分名:ファモチジン
ガスター
用法:1日2回の経口投与または皮下注射
・制吐作用はない
・胃酸分泌を抑え、連続する嘔吐に伴う食道炎や胃炎を予防、改善する
特徴:即効性がある、短期向け
注意点:長期連用で効きづらくなる(耐性)
・安全性も高く、比較的飲みやすい
オメ(ランソ)プラゾール
成分名:オメプラゾール(プロトンポンプ阻害薬)
用法:1日1回の経口投与(または静脈注射)
・ガスターと似た効能であるが、胃酸分泌抑制作用はガスターより強力で、1日1回なので使いやすい
・腸溶錠なので分割してはいけない
ランソプラゾールは粉々にしなければ多少の分割OK
スクラルファート
成分名:スクラルファート
用法:1日2~3回の経口投与で、食前30分以上前など空腹時に投与する
・粘膜保護作用が極めて強く、胃粘膜の炎症/潰瘍を保護する
・副作用はないが、必ず食事やその他の薬とは別々に投与する
プロナミド(モサプリド/ガスモチン)
成分名:モサプリド(セロトニン5HT4作動薬)
用法:1日2回の経口投与
用量:1kgあたり0.25mg~1mg
・胃~小腸の消化管運動を促進する
・制吐作用はない(吐き気止めではない)
・プリンペランよりも効果が高い
・犬猫ともに副作用は特になく安全性高い
・併用できない薬はない
プリンペラン
成分名:メトクロプラミド
用法:1日1回の経口投与または皮下(点滴)注射
・胃運動促進作用と吐き気止めの作用を併せもつ
・胃を休ませるべき際(消化管出血など)には使用しない
フラジール
成分名:メトロニダゾール
用法:1日2回の経口投与
・消化管に用いる抗生剤で、下痢の原因や結果としてみられる腸内細菌叢の乱れを改善する
・ジアルジア症などの消化管寄生虫にも有効で治療可能な下痢は多く、臨床医が最もよく使う治療薬のひとつ
・副作用は少なく安全な薬ですが、用量や投与期間が多いと稀に神経症状を認める場合がある
・一番の難点は苦くて投薬が難しいこと
胃腸の病気を治療するためには、継続的な内服が不可欠なのでなんとか内服させなければいけません。
家での上手な投薬方法
投薬は苦手な子が多いので、飼い主さんのストレスも大きいところ。
ここではシンプルに成功率が高い方法だけ紹介します。
◆ ① おやつに包む(チュール・投薬ちゅ〜る等)
嗜好性が高く、ほとんどの子が成功する方法。
◆ ② 砕ける薬は細かくして混ぜる
ただし PPI(オメプラゾール等)は砕かない。
スクラルファートと同時投与は避ける。
◆ ③ シリンジで液状にして飲ませる
粉+少量の水やヤギミルクで溶かすとスムーズ。
◆ ④ どうしても無理なとき
- 病院で注射に切り替え
- 別剤形(粉 → 液体)に変更
- 投薬補助グッズを活用
その際に使える秘技をまとめていますので、悩まれている場合は参考にしてください。
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胃薬の副作用と注意点
薬は安全性が高いものが多いですが、副作用はゼロではありません。
◆ 吐き気止め
- 眠気
- まれに注射部位の痛み
◆ 胃酸抑制薬(H2ブロッカー、PPI)
- 下痢
- 食欲が落ちること
- 長期連用は避けたい(特にファモチジン)
◆ 胃粘膜保護薬
- 便秘
- 他の薬の吸収阻害
◆ 下痢止め・抗生剤
- 長期使用で腸内細菌の乱れ
- 神経症状(メトロニダゾールの過量時)
◆ 注意すべき併用
- スクラルファート × 他薬 → 吸収邪魔
- PPI × 一部抗生剤 → 作用変化
- 発作持ちの子 × メトクロプラミド → 禁忌
受診が必要な危険サイン
以下に当てはまる場合は、早めの受診をおすすめします。
- 1日に5回以上吐く
- 血便・黒い便
- 水も飲めない
- 元気がない
- 下痢が2〜3日続く
- 発熱
- 繰り返す嘔吐(慢性化)
- 誤食の疑い・異物の可能性
自己判断で市販薬を使ってはいけない理由
人間用の胃腸薬は犬猫に適さない成分が含まれています。
市販薬を使うと危険な理由:
- 成分が強すぎる
- 犬猫では副作用が出やすい
- 腸の動きを止める薬で病気が悪化することがある
- 膵炎・腎臓病・誤食を見逃す
- 正しい治療が遅れる
市販の下痢止めは特に危険です。
病院へ行くべき症状
次の症状がある場合は、早期受診がおすすめです。
- 吐き気と下痢が同時にある
- 血便・黒い便
- ぐったりしている
- 食欲がない
- 水を飲めない
- 1日以上下痢が続く
- 子犬・子猫の下痢
- 高齢の犬猫
- 異物誤食の疑い
- 何度も吐く
特に 嘔吐+元気消失 は緊急度が高いサインです。
よくある質問(FAQ)
Q. 整腸剤だけで下痢は治りますか?
→ 軽度なら改善することがありますが、重度では検査が必要です。
Q. 吐き気止めだけ飲めば治りますか?
→ 原因が異物や膵炎の場合、薬では治りません。
Q. 食事は控えたほうが良いですか?
→ 長時間の絶食は推奨しません。少量の消化の良い食事を与えることが多いです。
Q. 水は飲ませても良いですか?
→ 嘔吐がひどくなければ必要です。脱水防止のため少量ずつ。
まとめ
犬猫の胃腸薬は症状と原因により使い分けが必要
下痢・嘔吐・胃酸過多・腸の動きの低下など目的別に薬がある
市販薬の自己判断使用は危険
重度症状・子犬/高齢・誤食疑いは早期受診が必要
胃腸薬は“治す薬”ではなく、正しい診断が最も重要
今回は犬猫でよく処方する薬の効能と注意点をまとめました。
その目的は、処方している理由と注意点をわかった上でしっかり内服していただきたいためです。
また、セカンドオピニオンに行かれる際にも、
過去や現在の投薬内容を把握され、伺えることでお話しがとてもしやすくなるためです。
犬猫は言葉が話せないので、さまざまな知識を飼い主様が理解いただければと思っています。
- 犬猫には消化器症状がとても多い
- 症状によって使う薬は大きく異なる
- 目的に合った薬を選び、副作用にも注意
- 飲ませ方の工夫で成功率UP
- 異変や長引く症状は早期受診が重要
飼い主さんが正しい知識を持つことで、
犬猫の不調を早く改善させ、重症化を防げます。
以下に獣医師の視点から、
治療中の犬猫に現実的に選ばれているフードをまとめまています。
▶︎ 犬猫に配慮したフードの考え方を見る
※本記事は獣医師の視点から、毎日安心して与えられるドッグフードを厳選して紹介します。病気の治療ではなく、将来の健康を守るための食事選びを目的としています。普段我々は病気の療法食としてロイヤルカナンやヒルズなどの療法食を処方しますが[…]
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