更新日:2025/12/9
最近は犬猫も長生きになり、この子は20歳!という驚きも少なくありません。
そんな長生きの猫ちゃんは稀にお目めがまんまるで真っ黒な子を見かけます。
加齢による変化であることもあれば、
視力が失われている病気のサインであることもあります。
では、その見分け方、疑われる病気のことをご存知でしょうか?
猫の高血圧(高血圧症)は、
腎臓病・甲状腺機能亢進症・心臓病などで起こりやすい病気 です。
特にシニア期の猫では発生率が高く、
放置すると 網膜剥離による失明、脳障害、発作、心不全 など深刻な臓器障害を引き起こすことがあります。
しかし高血圧は 初期症状がほとんどない“サイレントキラー”。
早期発見と治療が、将来の生活の質(QOL)を大きく左右します。
この記事では、
症状・原因・治療・家庭で注意すべきポイント を獣医師がわかりやすく解説します。
加齢か病気か?
加齢でお目めがまんまるになっている子は、
虹彩と呼ばれる黒目の大きさを決めている部分が動きづらくなり、
大きなお目めのままになっています。
これを虹彩萎縮といいます。
この場合は病気ではないので、視力も問題ありません。
しかし、病気の場合は視力がなくなります。
その理由は全身性の高血圧に起因します。
高血圧性網膜剥離
猫ちゃんは高齢になると、高血圧になることがよくあります。
高血圧になると、身体のなかの細い血管、つまり毛細血管が破綻し出血を起こします。
その出血を起こしやすいのがお目めの眼底と呼ばれる部分の毛細血管なのです。
高血圧➡️眼底の毛細血管出血➡️網膜剥離➡️視力喪失=お目めまんまる
なのです。
高血圧は放置するとお目め以外にも腎臓や脳血管などの毛細血管も破綻し身体にさまざまな悪影響を与えます。
そのため早期の治療を必要とします。
治療は降圧薬と原因となる病気の治療になります。
高齢の猫ちゃんが、高血圧になる多くの理由に
甲状腺機能亢進症とよばれる病気があります。
甲状腺機能亢進症と高血圧
猫の高血圧とは?
収縮期血圧(上の血圧)が160mmHg以上 の状態が続くと、
高血圧と診断されることが多いです。
猫は人よりストレスの影響を受けやすく、
測定時に一時的に高く出ることもあるため、複数回の測定が重要です。
高齢猫で高血圧が多い理由
高齢になると以下の病気が増え、その影響で血圧が上がります。
- 慢性腎臓病(最も多い)
- 甲状腺機能亢進症
- 心臓病
- 糖尿病
- 加齢による血管の変化
特に 腎臓病の猫の20〜40%が高血圧を併発 すると言われています。
高血圧で起こる症状(初期〜重度)
■ 初期(無症状が多い)
- いつも通り見える
- 食欲・元気あり
- 行動の変化はほぼなし
高血圧の怖いところは 初期症状がほぼないこと です。
■ 中期
- よく鳴く
- 落ち着きがない
- 視線が合いにくい
- 階段や段差でつまずく
■ 重度
臓器の血管がダメージを受け、急激な症状が出ることがあります。
- 突然の失明(網膜剥離)
- ふらつき・旋回行動
- 発作
- ぐったりして動かない
- 高度の高血圧による脳障害
突然の失明は、猫の高血圧で最も多い合併症のひとつです。
放置すると起こる危険な合併症
高血圧を放置すると、以下の臓器がダメージを受けます。
- 目:網膜剥離・失明
- 脳:脳出血・発作・混乱
- 腎臓:腎機能の悪化
- 心臓:心肥大・心不全
特に 目と脳のトラブルは発症が突然で、早期発見がとても重要 です。
高血圧の原因になる病気
■ ① 慢性腎臓病(CKD)
もっとも多い原因。
腎臓が悪化するほど血圧が上がりやすくなります。
■ ② 甲状腺機能亢進症
代謝が上がりすぎ、心拍数増加 → 血圧上昇へ。
■ ③ 心臓病
血圧調整に影響が出ることがあります。
■ ④ その他
- 糖尿病
- アドレナリン系のホルモン異常
- 脳疾患
動物病院で行う検査
- 血圧測定
- 眼科検査(網膜の状態)
- 血液検査(腎臓・甲状腺)
- 超音波(腎臓・心臓の状態)
- 尿検査(タンパク尿)
血圧は、静かで落ち着ける環境で複数回測定することが推奨されています。
降圧剤による治療
高齢の猫ちゃんの高血圧を治療する場合は注意が必要です。
なぜなら高血圧によって身体が慣れており、急に血圧を下げてしまうと身体のバランスを崩してしまうためです。
そのため、血圧や腎臓の血液検査など身体のケアをしっかりし、慎重に低用量から降圧剤を使用します。
よく使用する薬剤は、
・アムロジピン
・フォルテコール(ACE阻害剤)
などの薬剤です。
内服を初めて数日で必ず身体のチェックをするための通院をする必要があります。
そのくらい初期の降圧治療には注意をしてください。
■ 第一選択薬:アムロジピン(Ca拮抗薬)
最も使用される薬で、1〜2日で効果が出ることが多いです。
■ 原因疾患の治療
- 腎臓病:点滴・食事療法
- 甲状腺機能亢進症:内服薬・食事・放射性ヨウ素治療
- 心臓病:心臓薬
高血圧単独ではなく “背景の病気ごと治療する” のが基本です。
■ 定期的なフォロー
- 血圧チェック(月1〜2回)
- 眼科再検査
- 血液検査
- 家庭でできる管理
- 飲水量の確保
- 腎臓病食の継続
- 急な行動を避ける(段差・ジャンプ)
- 必要なら部屋の照明を明るめに
- 見えにくい猫の場合は家具配置を変えない
- 薬の飲み忘れに注意
- 失明した場合も、猫は環境に慣れれば生活できます。
- 家具の位置を変えないことが特に重要です。
- よくある質問(FAQ)
- Q. どのくらいの血圧で治療が必要?
- → 一般的には 160mmHg 以上で治療を検討します。
- Q. 高血圧は治る?
- → 原因疾患の改善で良くなることもありますが、多くは長期管理が必要です。
- Q. 投薬は一生続きますか?
- → 腎臓病が原因の高血圧は継続が必要なことが多いです。
- Q. 視力は戻りますか?
- → 網膜剥離がごく初期なら回復する可能性がありますが、進行すると元に戻らないことがあります。
まとめ
- 高齢猫では高血圧が非常に多い
- 初期症状はほとんどなく“サイレントキラー”
- 放置すると失明・脳障害・腎臓悪化など重大な合併症
- 最多原因は 腎臓病 と 甲状腺機能亢進症
- 治療はアムロジピンが中心
- 血圧測定と眼科検査が早期発見のポイント
- 早期治療で生活の質(QOL)を大きく守ることができる
高齢の猫ちゃんは高血圧や甲状腺機能亢進症がとても多いです。
しかし、また、高齢になる必要条件と考えることもできます。
つまり、甲状腺機能亢進症や高血圧によって腎血流量が保たれることで猫ちゃんに多い腎不全になりにくかったと考えられるからです。
高齢で高血圧や甲状腺機能亢進症が見つかっても落胆せず、
本人のバランスを保ちながらしっかり付き合うことで更なる長生きを目指すことができると思います。
