更新日:2025/12/5
血管肉腫(HSA)は、犬の腫瘍の中でもっとも突然訪れることの多い病気です。
昨日まで散歩を楽しんでいた子が、ある日急にぐったりして倒れてしまう——
そんな状況で病院に運ばれ、検査の結果「血管肉腫」と診断されるケースは少なくありません。
しかし、この病気が「突然」だからこそ、
診断後の1日1日には意味があります。
治療で延ばせる時間には限りがあっても、
その時間の中には、
「また一緒に散歩できた日」
「食べてくれた日」
「大好きな場所でゆっくり過ごせた日」
——そうした、小さくてもかけがえのない瞬間が積み重なります。
この記事では、血管肉腫と向き合う飼い主の方に向け、
“医学的に正確” かつ “心に寄り添う視点” で、
症状・診断・治療・予後・ケアのポイントをまとめています。
また、そんな中で、最善の治療を行い1年以上生存闘病したロットワイラーのお話をします。

エコーで脾臓に影!
その子は9歳の健康診断でお腹のエコー検査を実施しました。
その際にたまたま1cmほどの小さな影が脾臓にみつかりました。
血液検査を含めたその他の検査ではなにも異常はありませんでした。
大きなロットワイラーにとって1cmの影は決して大きなものでもなく、焦る必要はないようにも思えます。
しかし、ロットワイラーとゆう犬種は腫瘍好発犬種であり、9歳とゆう年齢も加味して、
すぐに脾臓の摘出手術を行いました。
手術~病理検査
手術は無事に終わり、一泊二日の入院ののち元気に退院しました。
脾臓摘出の手術は、大きな腫瘍ができているとお腹を大きく開けるので、侵襲が少し高くなります。
この子はできものはとても小さかったので傷口も比較的小さく手術時間も1時間ほどで終わりました。
手術費用は入院含め約10万円ほどです。
1週間後に病理検査結果が返ってきて、
脾臓の血管肉腫 ステージ1
と診断されました。
手術後の抗がん剤治療
とても早期発見であり、手術で腫瘍はとりきれており、
手術後は肺も肝臓もリンパ節どこにも転移を疑う様子はありませんでした。
しかし、
血管肉腫は極めて悪い腫瘍
ですので、体のどこかに残っているかもしれない腫瘍細胞を殺滅するために、
抗がん剤(ドキソルビシン)を1ヶ月に1回の計6回行いました。
この子は幸いにして副作用はまったくでずに、ずっと元気に半年過ごしました。
無治療経過観察から再発
半年抗がん剤を行い、CT撮影にて転移がどこにもないことを確認して、無治療経過観察としました。
1ヶ月ごとにレントゲンとエコー検査で再発の有無を確認しました。
発症から1年を過ぎた約13ヶ月目、肝臓に小さな影が見つかりました。
そこからこまめに経過観察を続けると、1ヶ月以内に肝臓の複数、お腹のリンパ節に転移を疑う影が増えていき、
発症から14ヶ月目に肝臓の転移病変からの出血により、亡くなりました。
早期発見から摘出、さらに抗がん剤と全力の治療を行い、完治したかのように思えました。
やはり血管肉腫は手強いです。
しかし、
この子の14ヶ月目という時間は血管肉腫の平均を大幅に上回り、極めてよく頑張りました。
犬の1年はヒトの約5~7年に相当します。
ヒトに置き換えると、
極めて悪い腫瘍を相手に約10年も闘病し、
幸せに家族(飼い主)との日々を送れたことになります。
犬猫をヒトのものさしで測ってあれこれ考えてしまうことが多いですが、
ヒトのものさしではなく、動物目線のものさしで考えると世界はまた変わります。
1日でも多く家族と時間を過ごすことが犬猫にとっていかに貴重なことか考えさせられます。
血管肉腫とは?
血管肉腫(HSA)は、血管の細胞が腫瘍化して増殖する悪性腫瘍です。
血管は全身を巡っているため、腫瘍はどこにでも発生し得ます。
特に
- 脾臓
- 肝臓
- 心臓(右心房付近)
に多く、これらの臓器は “破裂すると大量出血を起こす” という特徴があります。
そのため、症状が出た瞬間にはすでに緊急状態であることも多く、
「もっと早く気づいてあげられたら」と悔やむ飼い主さんも少なくありません。
しかし、血管肉腫は “症状を出さないまま進行する” のが特徴であり、
早期発見が難しい腫瘍でもあります。
よく発生する部位と特徴
● 脾臓
最も多い発生部位。破裂による腹腔内出血で倒れるケースが多い。
● 肝臓
脾臓と同様、破裂リスクが高い。
● 心臓
右心房付近にできることが多く、心嚢内に出血し、急変する。
● 皮膚・皮下
皮膚に限局したHSAは、予後が比較的良い場合があります。
発生部位で、
「どれくらい生きられるか」
「目指す治療は何か」
が大きく変わります。
主な症状とサイン
血管肉腫の厄介なところは、
直前まで“いつも通り”に見えることが多い点です。
しかし今振り返ると、次のような“小さな違和感”が前兆だったと語られることがあります:
- たまにふらつく
- いつもより寝ている時間が長い
- 食欲にムラがある
- 散歩の途中で立ち止まる
- 歯茎や舌の色が薄い
破裂した場合は急変します:
- 突然立てなくなる
- ぐったりする
- 呼吸が早くなる
- お腹が膨らむ
- 意識が落ちる
もし「何か変だ」と感じたら、早期受診が命を救うこともあります。
診断方法
血管肉腫を正確に評価するためには以下の検査が行われます:
- 身体検査
- 血液検査(貧血・臓器値の確認)
- 超音波検査(腹腔内の腫瘍・出血確認)
- レントゲン(肺転移など)
- CT検査(腫瘍の広がり、手術適応判断)
- 必要に応じて病理検査
特に脾臓の腫瘍では、「破裂する前に偶然見つかった」ケースもありますが、
多くは破裂後の緊急来院です。
治療の選択肢
■ 1. 外科手術
脾臓摘出など、腫瘍のある臓器を取り除く治療。
ただし 手術だけでは根治が難しい ため、完治を目指す治療ではありません。
■ 2. 化学療法
ドキソルビシンなどによる治療で、生存期間を延ばすことがある。
■ 3. 緩和ケア
呼吸管理・痛み管理・輸液・栄養サポートなど、
「苦痛なく過ごす」ことを最優先する選択肢。
どの治療を選ぶにしても、
「その子にとって良い時間をどう作るか」
という視点が重要です。
予後:1年生存という大きな壁
血管肉腫の「1年生存率」は、
最も厳しい腫瘍のひとつです。
- 手術のみ:中央値は 1〜3か月
- 手術+化学療法:中央値 4〜8か月前後
- 1年生存率:10%を切ることもある
しかし、
治療とケアの力で “1年を超えて一緒に過ごせた子” が確かに存在します。
その背景には、
- 小さな体調変化を見逃さない飼い主さん
- その子の体力に合わせた治療計画
- 生活の質を最優先したケア
が確実に影響しています。
「1年生きた」という結果は、
その子と家族の努力と絆の証でもあります。
飼い主ができること:時間の使い方
HSAと向き合うなかで、多くの飼い主さんが語るのは、
“限られた時間をどう過ごすか” という視点です。
具体的には:
- 毎日の食欲・元気・呼吸の変化を丁寧に観察する
- 好きな散歩コースをゆっくり歩く
- 食べたいものを少しでも口にしてもらう
- 無理をさせず、心地よい時間・場所を大切にする
- 苦痛がある場合は早めに医療介入する
- 急変に備え、病院と連絡が取りやすい体制を整えておく
医学的ケアだけでなく、
「あなたと過ごす時間そのもの」が犬にとって大きな支えになります。
治療中の犬に現実的に選ばれているフードをまとめまています。
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よくある質問(FAQ)
Q. 血管肉腫は治りますか?
→ 完治は非常に難しい腫瘍です。ただし治療とケアで、生きる時間と生活の質を大きく変えられます。
Q. 手術はすべき?
→ 破裂リスクがある場合は緊急で必要になることがあります。根治ではありませんが、延命と苦痛緩和につながることがあります。
Q. うちの子は治療せずに過ごしたい。これは間違い?
→ 間違いではありません。治療の目的は“長く生きる”だけでなく、“苦痛なく生きる”ことです。
まとめ
- 血管肉腫は突然発見されることが多く、予後が厳しい腫瘍
- 発生部位で症状・治療・生存期間が変わる
- 早期診断は難しいが、日々の観察が手がかりとなる
- 手術・化学療法・緩和ケアを組み合わせて支えていく
- 1日でも穏やかに過ごせた時間は、その子の頑張りと家族の優しさの結晶
犬にとって、あなたと過ごす日々こそが “生きる力” になります。
たとえ病気が消えなくても、
その時間には確かに “意味” があります。
最期までなるべくお家で過ごすことが何より大切かと思います。
そのような状況の方は選択肢の一つに以下も参考にしてください。
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