最近は大切に丁寧に飼われているワンちゃんネコちゃんが増え、とっても長寿な子が増えてきました。
獣医療もすすみ様々な病気が早期に診断され、治療選択肢も広がっています。
動物は言葉が話せないので早期発見早期治療には飼い主様の細かな気づきと獣医師の早期診断が不可欠です。
しかし、どれだけよく観察していても多くの場合発見が遅れ、
進行に打ち勝てない病気のひとつに『血管肉腫』があります。
血管肉腫は発見が遅れるうえに、
速いスピードで転移や破裂により命を脅かします。
手術もリスクはあるし、それを乗り切っても短命なことが予想されるし、
痛い思いはさせてあげたくないし、、、とても悩ましいです。
今回は犬猫、とくに大型犬で発生が多い血管肉腫について、
・なぜ発見が遅れるのか
・どんな腫瘍なのか
・どうすべきなのかの本当のところをお話しします。
血管肉腫はなぜ発見が遅れるのか
血管肉腫は血管を構成する細胞が腫瘍化した腫瘍なので、全身のあらゆる臓器で発生します。
また、血管が腫瘍化しているので、
この腫瘍はとても出血しやすく、破裂することによって大出血をひきおこしやすいのです。
発生しやすい臓器は脾臓と心臓です。
(その他、血管がある場所はどこでも発生します)
脾臓と心臓にできた血管肉腫はまたたくまに大きくなり進行します。
ほとんどの血管肉腫は、1カ月もあれば転移や急速に増大します。
しかし、心臓も脾臓も初期は腫瘍ができていても全く症状に出ません。
症状に出て飼い主さんにサインを出すのは多くの場合、
腫瘍が進行し出血や破裂によって体調が悪くなった時や他の臓器に転移して(肺などが多い)症状が出た時です。
つまり、どれだけよく動物を観察できていても見つかった時には腫瘍が進行していることが多いのです。
これは生活環境ではなく、犬種などの遺伝子的な要因などが関与しています。
定期的に健康診断をしているのに、血管肉腫を早期発見できないことはやむ終えないことなのです。
飼い主ご自身を責める必要はありません。
早期診断できるのは、エコー検査などで偶発的に腫瘍が見つかった時です。
発見されるタイミングは2通りで
①偶発的にエコー検査などでできものが見つかった場合
②破裂や転移によって症状が現れ見つかった場合 です。
この①と②で進行ステージが異なり、治療の考え方も変わりますので、それぞれに関してまとめてお話しします。
脾臓の血管肉腫とどう戦う?
①偶発的にエコー検査などで脾臓にできものが見つかった場合
まず脾臓にできるできものは血管肉腫以外にもさまざま存在しています。
そのため小さな脾臓のできもの=血管肉腫の初期 とは限らないのです。
ここが最も難しいところで、エコー検査の見え方や血液検査で血管肉腫を診断することはできないのです。
診断は脾臓を摘出し病理検査を見て初めて診断されます。
手術に踏みきるかどうかの判断ポイントは
犬種、年齢、エコーでのできものの見え方から考え、
悪性腫瘍を疑わない場合は2~4週間で増大がないか経過観察します。
血管肉腫などの悪性腫瘍を疑う場合、
または診断的早期治療の同意がいただける場合は脾臓摘出の手術を行います。
ちなみに、脾臓は、臓器の有無によって生活の質や寿命に影響はない臓器ですが、
免疫に関与している臓器であるため、免疫力を保持することが大切になります。
また、結果として良性の病変ではなかったとしても、血種のように増大によって破裂を引き起こすできものが多いため、
個人的な意見として、疑わしい脾臓腫瘤は摘出をすべきだと考えます。
摘出し血管肉腫と診断された場合は、今後の再発を遅らせるためにどうするかを考えます。
極めて早期の摘出でない限りほとんどの場合が、のちのち違う臓器で再発を認めます。
その再発を遅らせるために行う選択肢は抗がん剤投与です。
一般的に効果があると言われているのはドキソルビシンと呼ばれる抗がん剤を約一か月ごとに投与する方法です。
早期に血管肉腫が摘出され、手術後に抗がん剤を行い、免疫を強く保つことができれば、
血管肉腫の治療では最も頑張ることができるでしょう。
②破裂や転移をしている場合
この場合は慎重に判断する必要があります。
まず、破裂をしている場合は、今の命を救うためには手術をするしかありません。
前述のように破裂している脾臓腫瘍がすべて血管肉腫であるとも限りません。
悩ましいのは転移している場合です。
血管肉腫はとても転移しやすい腫瘍ですので、
大きな脾臓腫瘍が見つかったときに肺や肝臓にすでに転移していることは少なくありません。
抗がん剤などは存在していますが、副作用などのデメリットと明らかな有効性が認められないことから、
転移をしている子への抗がん剤投与はあまりお勧めしません。
出血を抑える止血剤や免疫力を高めるサプリメントや食事がメインになります。
その中で手術をする場合、目的は破裂に伴う出血を予防するまたは乗り切るための、
緩和的な手術および確定診断をつけることになります。
転移している場合は、血管肉腫の場合、
腫瘍に打ち勝つことは厳しい可能性があるので、
どの治療がいかにこれからの本人の生活を楽にさせてあげられるかを考え選択すべきであると考えられます。
ここの選択に正解はありません。
その子にとっての最善を探し、負担が少ないなかでできることを探します。
心臓の血管肉腫とどう戦う?
心臓の血管肉腫も考え方は脾臓の血管肉腫と同じですが、
心臓であるため診断がさらに難しく、
見た目で血管肉腫と判断することはできませんし、生前に診断を確定することは困難です。
そのため、犬種、年齢、血液検査(心臓トロポニンIというマーカー)、腫瘍の発生部位(心臓の右側)を総合的に判断することになります。
他の臓器に転移がなく、心臓に腫瘍が限局している場合は、
前述のドキソルビシンという抗がん剤が効果が見込めます。
また、心臓の血管肉腫は脾臓と違い手術で切除をすることができません。
できる手術としては、心タンポナーデという心臓周囲に液体が貯まらなくするための手術であり、
心臓の腫瘍を摘出する手術ではありません。
心臓の腫瘍から出血することにより心タンポナーデと呼ばれる病態になると、
急激な体調の変化や命に関わることがあるので、上記のような手術を緩和目的で行うこともあります。
脾臓の時と同様に、何が本人の生活を最も楽にしてあげられるかを重視し、
治療選択をすべきであると思います。
破裂・出血時の輸血準備
血管肉腫は極めて高確率に破裂します。
血管肉腫が命に関わるのは、ほとんどの場合、衰弱ではなく、
破裂による出血死です。
そのため治療を行っていくには輸血が不可欠となり、
ドナーの準備が極めて難しく重要となります。
犬のドナー探し
犬猫輸血ドナー ~動物の命を左右する血液バンク~
抗腫瘍ドッグフード
腫瘍のわんちゃんが痩せてしまうのはなぜでしょうか。
それは、腫瘍がエネルギーを大幅に消費して大きくなろうとするからです。
腫瘍は炭水化物をエネルギー源にします。
脂肪は腫瘍にとられにくく、エネルギー効率が高いです。
腫瘍によって痩せていかないための食事管理が極めて大切となります。
下記コラムにすべて記載しています。
【大切】腫瘍の食事管理
【病気別】犬猫の栄養管理と食事選択 ~腫瘍にいいごはん?~
抗腫瘍サプリメント
腫瘍は身体にとって異物です。
そのため自己の免疫力で腫瘍が大きくならないように攻撃しています。これを腫瘍免疫といいます。
腫瘍免疫をあげるためには食事療法と栄養管理が大切となります。
そのひとつにヒトでも用いられるアガリクスはひとつの補助栄養になります。
キングアガリクスは近年抗腫瘍サプリメントとして、腫瘍学会等で紹介され始め注目されています。
あくまで、内服が可能なわんちゃんで余裕があれば考慮すべきと考えられます。
ペット用アガリクスまとめ
血管肉腫は正直かなり手ごわい腫瘍です。
これは飼い方や生活環境は関係ありませんし、この腫瘍に関していえば、発見が遅れることは致し方ないことが多いです。
飼い主である自分を責める必要はありません。
その中で、いまこの子に対して何がしてあげられるかを考え、
最後までできる限りのことをしてあげることが最善だと思います。
つまり、比較的早期(転移がない)である場合は手術を前向きに考え体のサポート(抗がん剤に加え栄養療法や免疫療法)をすること、
手術ができる状況じゃない場合(転移している)は本人の負担のない中でできる栄養管理や免疫強化を行っていくのが最善であると思います。
腫瘍治療は正しい情報をもとに、その子にとって、家族にとって最善となる選択をしていただき、
後悔のない日々を過ごしていただければと思います。
悩みが多い病気だと思いますので、悩まれている方に少しでも参考になれば幸いです。
他にも犬猫について、普段お話しできていない、知ってていただきたい点をお話ししていきます。
また、血管肉腫と長い闘病をしたわんちゃんのお話をまとめましたので、ご参考までに。
血管肉腫と血闘したロットワイラー
【闘病1年】血管肉腫と最後まで闘い続けたロットワイラーのおはなし