更新日:2025/11/24
健康診断で ALT・AST・ALP・GGT の数値が高いと言われると
「肝臓が悪いの?」「すぐ治療が必要?」
と不安になる飼い主さんは多いです。
しかし実際には
“肝酵素が高い=肝不全” ではありません。
- 食べ物・肥満
- 薬の副作用
- ストレス
- 胆嚢トラブル
- 肝腫瘍
- 膵炎の影響
など、原因は非常に幅広いです。
この記事では腫瘍科×内科の臨床経験をもとに
肝酵素の意味・上がる原因・検査の流れ・治療の判断基準
をわかりやすく解説します。
肝酵素(ALT/AST/ALP/GGT)とは何の数値?
🟩 ALT(GPT)
- 肝臓の細胞が壊れると血液中に出てくる
⇒ 肝細胞障害の指標
⇒ 最も重要な数値
🟥 AST(GOT)
- 肝臓・筋肉・赤血球にある酵素
⇒ ALTと比較して判断する
⇒ 筋肉炎症でも上がる
🟧 ALP
- 胆管・骨・腸・肝臓に関連
⇒ 成長期の犬で高い
⇒ ステロイドでも上がる
⇒ 胆嚢炎・胆管閉塞のヒント
🟦 GGT
- 胆管の炎症に敏感
⇒ 胆嚢炎、胆管閉塞のサイン
どこまでが正常?参考基準値の目安
※機器・施設で差があるためあくまで目安
| 項目 | 犬 | 猫 |
|---|---|---|
| ALT | 10〜100 U/L | 20〜100 U/L |
| AST | 10〜50 U/L | 20〜40 U/L |
| ALP | 20〜150 U/L(犬は高く出やすい) | 20〜70 U/L |
| GGT | 0〜10 U/L | 0〜5 U/L |
◆ “3倍以上の上昇” は精査推奨
ALTが正常上限の 3倍以上 → 肝細胞障害の可能性
ALP/GGTが高い → 胆嚢トラブルの可能性
肝数値が高い=肝不全?
ではありません。
よく肝臓が悪い=肝不全と考えて肝臓用のご飯とかを勧める獣医師がいますが間違いです。
AST,ALP,GGT,ALTは肝臓の機能を示すのではなく肝臓の障害や病態の程度を反映します。
肝臓の機能を示す数値はALB、ビリルビン、アンモニア、BUN,コレステロール、TBAと呼ばれる数値でこれらが複数異常値の場合は肝機能不全の可能性はあります。
ではALT,ALP,GGT,ASTが高値の場合は何を意味し原因は何でしょうか。
ALT、GOT=逸脱酵素が高い?
逸脱酵素とは細胞膜の透過性亢進や細胞破壊により血中に遊出するものでALTやGOTの高値は肝臓の細胞がダメージを受けていることを意味します。
これらが高値を示す場合にはさまざまな原因が考えられますが、
基本的に肝臓に負担がかかっている場合には簡単に上昇します。
例えば、高脂肪高たんぱく食などおやつやヒトのご飯を食べているだけでも高値を示します。
そのほかは肝障害や中毒、腫瘍、血管異常など肝臓での様々な原因があり、原因を特定するために超音波検査やCT検査、肝生検検査などを組み合わせて行います。
ALP、GGT=誘導酵素が高い?
誘導酵素とは胆汁うっ滞やステロイド(犬)など様々な原因によって生成される酵素です。
この数値が高値を示す場合は、
・胆管閉塞、胆嚢炎
・肝炎
・腫瘍
・肝リピドーシス
・膵炎
・肥満
・クッシング
・甲状腺機能低下症
・骨疾患
・その他腹腔内疾患
など肝臓以外の原因でも高値を示すので、明らかな高値が持続する場合は全身の精査を必要とします。
元気なものの肝臓の数値が異常がある場合は焦らずひとつひとつ原因を除外していくことが何より大切です。

肝酵素が高くなる“よくある原因”
🟩 ① 食事・肥満・脂肪肝
- 高脂肪食
- おやつの与えすぎ
- 運動不足
→ ALT/ALPが上がりやすい
→ ダイエットで改善することが多い
🟧 ② 薬の副作用
- ステロイド
- NSAIDs(痛み止め)
- 抗てんかん薬
- 抗生物質の一部
→ 投薬歴を確認することが重要
🟦 ③ 胆嚢炎・胆泥症・胆管閉塞
- 黄疸
- 嘔吐
- 食欲不振
→ ALP・GGT上昇がヒント
🟥 ④ 肝臓腫瘍(肝細胞癌・胆管癌・転移)
ALT/ASTが高い
+
超音波でしこり
→ 精密検査が必要
🟪 ⑤ 膵炎(犬で特に多い)
膵炎 → 胆管や肝臓に炎症が波及
→ 急性ALT/ALP上昇
🟫 ⑥ 感染症
- レプトスピラ(犬)
- ウイルス感染(猫)
🟫 ⑦ その他
- 貧血
- 心臓病
- 高齢性の変化
- 甲状腺/副腎ホルモン異常
犬と猫で原因が違うポイント
🐶 犬
- 胆嚢炎・胆泥症がとても多い
- 膵炎から肝酵素上昇しやすい
- ステロイドでALPが爆上がりしやすい
- 肝細胞癌は“手術で完治が狙える”腫瘍
🐱 猫
- **脂肪肝(肝リピドーシス)**が多い
- 胆管肝炎(胆管炎・肝炎)が多い
- 膵炎を併発しやすい
- 薬物代謝が弱いので薬剤性が多い
どの数値が上がっているかで原因がわかる
✔ ALT↑ ALT>AST
→ 肝細胞障害(脂肪肝・腫瘍・薬・炎症)
✔ ALP↑ GGT↑
→ 胆嚢炎/胆管閉塞/ステロイド
✔ AST↑+筋酵素↑
→ 筋疾患も鑑別
✔ ALT+ALP両方↑
→ 犬では膵炎・胆嚢炎が多い
診断の流れ|いつ超音波?いつCT?
🟩 ① 血液検査
- ALT/AST/ALP/GGT
- 肝機能(Alb/ビリルビン/アンモニア)
🟨 ② 超音波検査(ほぼ必須)
- 肝臓の形
- しこり
- 胆泥・胆嚢炎
- 膵炎の有無
🟥 ③ CT検査(腫瘍を疑うとき)
- 肝細胞癌・胆管癌・転移の評価
- 手術可否の判断
🟦 ④ その他
- ホルモン検査
- 感染症検査(レプトスピラなど)
- 生検(必要な場合)
治療が必要なケース・不要なケース
🟩 治療不要(経過観察可)
- ALTが基準値の1〜1.5倍
- 犬のALP単独上昇(ステロイド性)
- 肥満・高脂肪食が原因
- 食欲・元気が問題ない
→ 1〜3ヶ月で再検査
🟥 治療が必要
- ALTが3倍以上
- 黄疸
- 嘔吐・元気消失
- 体重減少
- 超音波で腫瘍や胆嚢炎が疑わしい
- 膵炎を合併している
家庭でできるケア(食事・サプリ・生活)
🟩 食事
- 低脂肪
- 高タンパク(猫)
- 肝臓サポート食(療法食)
🟦 サプリ
- ウルソ(胆汁酸代謝改善)
- SAMe
- ミルクシスル
- ビタミンE
※ 獣医師の指示で使用
🟧 生活
- 肥満管理
- ストレス軽減
- 薬の飲み合わせに注意
- 運動は無理のない範囲で
よくある質問(FAQ)
Q. ALTが高い=肝臓が悪い?
→ NO。脂肪肝・膵炎・胆嚢炎・薬の影響でも上がる。
Q. 犬のALPだけ高いけど大丈夫?
→ 犬はステロイドや年齢で上がりやすい。
Q. 猫でALPが上がるのは危険?
→ 猫はALPが上がりにくいため 胆管炎・脂肪肝の疑いが強い。
Q. 黄疸があるときは?
→ 胆管閉塞や重度肝障害の緊急サイン。すぐ受診。
Q. サプリだけで治せる?
→ 原因による。腫瘍や胆嚢炎はサプリだけでは改善しない。
まとめ
- ALT/AST/ALP/GGTの上昇=“肝不全”ではない
- 最も多い原因は 食事・胆嚢炎・膵炎・薬
- 犬と猫では原因が全く違う
- ALTが3倍以上なら精査推奨
- 超音波で多くの原因がわかる
- 腫瘍や胆管閉塞は早期の判断が必要
肝酵素が高いときは、
「数値だけで判断しない」 ことが最も大切。
原因を見極めれば、ほとんどの子が改善できます。