更新日:2025/11/23
お腹のなかで最も大きい臓器は肝臓です。
そして最も多くの仕事をしているのも肝臓です。
そんな肝臓には、年を重ね高齢犬になると様々な
できものができます。
お腹のエコー検査をしてもらい、肝臓に影がある、
できものがある、肝臓の数値が高い、
と言われたことはありませんか?
肝臓腫瘍は
- 良性か悪性か?
- 破裂のリスクは?
- 手術すべき?
- 抗がん剤は効く?
- 末期はどんな症状が出る?
- 余命はどれくらい?
これらを一つ一つ整理して正しく判断することが大切です。
この記事では腫瘍科獣医師として、
肝臓腫瘍の種類・症状・末期サイン・検査・治療・余命まで徹底解説します。
良性?悪性?
肝臓に影があると言われた場合すべて癌なのでしょうか?
肝臓腫瘍には“良性”と“悪性”がある
肝臓のしこりはすべてがんではありません。
🟩 良性(転移しない)
- 肝細胞腺腫
- 結節性過形成
- 血腫(出血でできた塊)
手術で完治を狙えるケースが多い。
🟥 悪性(がん)
- 肝細胞癌(HCC) → 一番手術の成功率が高い
- 血管肉腫(HSA) → 急変・破裂しやすい
- 胆管癌
- 転移性腫瘍(他のがんが肝臓に飛んだもの)
肝臓の腫瘍は良性と悪性の比率がおよそ半々と言われている。
→ “肝臓の塊=がん”ではない
症状と診断
多くの場合は無症状でたまたま検査にて見つかります。
肝臓のしこりが大きくなった場合はお腹が張ったように見えることもあります。
犬の肝臓腫瘍の種類と特徴(重要)
肝臓腫瘍の中でも「治しやすいもの」と「難しいもの」がある。
🟩 肝細胞癌(HCC:高分化型)
最も多い悪性腫瘍。
しかし 手術で取り切れれば完治も可能。
特徴:
- 成長が遅い
- 単発であることが多い
- 左右の葉なら摘出しやすい
→ 良性のような経過をとることもある
🟥 血管肉腫(HSA)
- 破裂しやすい
- 進行が早い
- 肺や腹腔に転移しやすい
- 予後が悪い
→ 早期診断と積極的治療が必要
🟨 胆管癌
- 再発しやすい
- 手術の難易度が高い
- 抗がん剤が効きにくい
🟦 結節性過形成(良性)
- 中高齢犬に多い
- 手術で治る
- 経過観察が可能なことも
肝臓腫瘍の症状|初期〜末期まで
初期は無症状のことが多い。
◆ 初期
- 無症状
- 健康診断で見つかる
◆ 中期
- 食欲不振
- 水をよく飲む
- 吐く
- 体重減少
- 元気がない
- お腹が張る(腹水)
◆ 末期(最も重要)
- 歩かない・ぐったり
- 呼吸が早い
- 黄疸
- 貧血(破裂して出血)
- ふらつき
- 意識がもうろう
- 隠れる/動かない
末期は痛み・倦怠感・出血が重なって非常につらい状態になる。
急変の危険:破裂(出血)のサイン
肝臓腫瘍は破裂し、腹腔内出血を起こすことがある。
◆ 破裂のサイン
- 急にぐったり
- 歯茎が白い
- 立てない
- お腹が大きくなる
- 呼吸が速い
- 意識が沈む
- 倒れる
→ 夜間でもすぐ病院へ。輸液・輸血が必要になる。
検査|CT・エコー・血液検査で何がわかる?
🟩 エコー検査(最重要)
- 塊の大きさ
- 良性らしさ/悪性らしさ
- 出血の有無
- 血管浸潤の兆候
🟦 CT検査(可能なら強く推奨)
- どの肝葉にあるか
- 切除が可能か
- 血管との関係
- 肺転移の有無
- 手術難易度の判定
🧪 血液検査
- 肝酵素(ALT/ALP/GGT)
- 貧血の有無
- 炎症
- 血小板
- 黄疸の程度
※ 肝酵素が正常でも腫瘍の可能性はあるため注意。
治療と余命
検査においてしこりが切除可能であった場合は、
完治する可能性も高く、長生きすることが可能です。
塊状のしこりを完全に取りきることができた場合は、
生存期間は平均1460~1836日と言われています。
また、再発率は0~10%程度と極めて低いです。
ただし、手術は簡単ではなく、手術中に大出血を引き起こし術中に死に至る可能性も少なからず存在している手術です。その確率は5%といわれています。
基本的に根治を目指せる治療は外科治療しかありません。放射線な抗がん剤はあまり効かないでしょう。
手術すべき?抗がん剤は効く?
🟩 1. 手術(肝葉切除)
最も効果的な治療。
特に 肝細胞癌は手術で完治する可能性が高い。
手術のメリット
- 完全切除で完治も可能
- 破裂リスクが無くなる
- 症状が改善する
手術が向くケース
- 単発の腫瘍
- 大きくても片側の肝葉に限局
- 全身状態が安定している
🟥 2. 抗がん剤(あまり効きにくい)
肝細胞癌・胆管癌は抗がん剤が効かないことが多い。
例外:血管肉腫(HSA)
→ ドキソルビシン治療を行うことが多い。
🟨 3. 緩和ケア
手術が難しい場合:
- 痛み止め
- ステロイド
- 食欲増進剤
- 腹水コントロール
- 血圧管理
- 鎮静・補液
QOL(生活の質)を守ることが最優先。
末期のサインと最期の迎え方
◆ 末期の症状
- 何も食べない
- 水も飲まない
- 呼吸が速い/浅い
- 隠れて出てこない
- ぐったり動かない
- 黄疸
- 貧血(白い歯茎)
◆ 最期に近いサイン
- 意識低下
- 大呼吸(深くゆっくり)
- けいれん様の動き
- 体温低下
余命(ステージ別の目安)
| 腫瘍の種類 | 手術あり | 手術なし |
|---|---|---|
| 肝細胞癌(HCC) | 1年以上(完治例も多い) | 数ヶ月 |
| 血管肉腫(HSA) | 3〜6ヶ月 | 1〜2ヶ月 |
| 胆管癌 | 6ヶ月前後(再発多い) | 数週間〜数ヶ月 |
| 良性腫瘍 | 手術で完治 | 破裂しなければ長期生存 |
よくある質問(FAQ)
Q. 高齢ですが手術できますか?
→ 検査で全身状態が問題なければ可能。
Q. 手術しない選択は?
→ 緩和ケア中心でQOLを守ることが目的に。
Q. 肝酵素が高い=腫瘍ですか?
→ 高い子もいるが、正常でも腫瘍の可能性は十分ある。
Q. CTは絶対必要?
→ 必須ではないが、手術判断には非常に有用。
まとめ
歳を重ね急に腫瘍を宣告され、絶望的な気持ちになることがあると思います。
しかし、腫瘍の種類によっては治療によって長生きすることができます。
この肝臓の腫瘍もそのひとつです。
そう言われても、ほとんどの場合は加齢性の良性変化であり、一部の悪性腫瘍も治療することが可能です。
ただし、血管肉腫やリンパ腫など一部の極めて悪性腫瘍が肝臓にできる場合もありますので、
正しい診断と治療をすることが望まれます。
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- 肝臓腫瘍は良性と悪性が半々
- 特に肝細胞癌は手術で完治が期待できる
- 血管肉腫は破裂しやすく早期判断が重要
- 末期は症状が一気に悪化するため早めの対応が必要
- 手術/緩和ケア/抗がん剤、それぞれの適応を知ることが大切
肝臓腫瘍は、
早期発見と適切な治療で救える命が大きく変わる病気です。
「うちの子も当てはまるかも…」と不安になったり、さらに知りたいことがあったら
ごんた先生AI相談室 で気になることをぜひ直接聞いてみてくださいね🐾