更新日:2025/12/9
犬の乳腺腫瘍は、中高齢の未避妊雌において最もよく発生する腫瘍で、ときに命を脅かす悪性腫瘍です。
しかし、犬の場合はこの腫瘍は早期に予防することもでき、早期発見・治療をすることで完治することも可能な腫瘍です。
特に 避妊していない犬では発生率が非常に高く、半数以上が悪性(乳がん) といわれています。
早期に見つけて治療を行うことで、
命に関わる腫瘍を防げる可能性が大きく上がります。
この記事では、
犬の乳腺腫瘍の特徴、良性・悪性の違い、しこりの見つけ方、検査、治療方法、手術のタイミング、予後
を獣医師がわかりやすく解説します。

犬の乳腺腫瘍とは?メス犬に多い腫瘍
犬の乳腺腫瘍は、乳腺組織にできるしこりの総称です。
大きく 良性腫瘍 と 悪性腫瘍(乳がん) に分かれます。
- 約50%:良性
- 約50%:悪性(転移するタイプ)
避妊手術を受けていない犬では発生率が高く、
高齢になるほどリスクは上昇します。
良性と悪性の違いは見た目では判別できない
しこりの触り心地だけで「良性・悪性」を判断することはできません。
良性に見えて悪性のこともある
- 小さくても悪性の場合がある
- 転移してから気づくこともある
- しこりの数が増えることがある
見た目や硬さ、形では判断できないため、
検査での診断が必須 です。
犬の乳腺腫瘍の病態
未避妊の犬において最も発生の多い乳腺腫瘍は、その子によってとても様々な挙動をします。
良性の場合はすぐに命に関わりませんが、悪性の場合は進行が早く、肺などに転移を認め命に関わることも少なくありません。
その良性と悪性の比率は1:1といわれていて、この比率は年齢や犬種、腫傷のサイズなどにより変動します。
また、この腫瘍は雌性ホルモンと強い関連が認められていて、避妊手術の有無が発生に強く相関します。
では、完全に予防するにはどのように、いつ避妊すればいいでしょうか。
避妊手術のタイミングと予防
乳腺腫瘍の発生する確率は、避妊手術のタイミングと相関すると言われています。
多くのわんちゃんは生後半年過ぎて性成熟し、1年以内前後に1度目の発情を経験します。
一度目の発情前に避妊手術を実施した犬の乳腺腫瘍発生率は、0.5%
2回目の発情までに手術を行った犬では8%,
2回目の発情以降で手術を行った犬では26%と言われています。
なので、乳腺腫瘍を予防するためには、
可能な限り早くに避妊手術をすることが望まれます。
可能な限りとは、手術は全身麻酔なので、その子の身体と心の成長状況を加味してということです。
乳腺腫瘍の主な症状(しこりの見つけ方)
- お腹〜胸の乳腺ラインにしこり
- 小豆〜ゴルフボール大まで大きさはさまざま
- 片側だけ or 両側に複数できる
- 触ると動く場合も、硬く固定されている場合もある
- 進行すると皮膚が破れる(潰瘍化)
【ポイント】
毎月、自宅で乳腺を触ってチェックする習慣がとても大切です。
なぜ乳腺腫瘍ができるの?(避妊手術との関係)
乳腺腫瘍は ホルモン(エストロゲン)と強く関係 しています。
避妊手術のタイミングと発生率の関係
- 初回発情前の避妊 → 発生率 0.5%
- 1回目発情後 → 約 8%
- 2回目発情後 → 約 26%
- 成犬以降 → 予防効果はほぼない
つまり、
若い時期の避妊が乳腺腫瘍の最大の予防策 になります。
検査方法|良性か悪性かを調べる
診断の流れは次の通りです。
1. 触診・視診
しこりの数、左右差、皮膚の状態をチェック。
2. X線(レントゲン)
肺への転移の有無を確認。
3. 超音波検査
しこりの性状、リンパ節の状態を確認。
4. 細胞診(針で細胞を採る検査)
悪性を疑う指標にはなるが、確定診断ではない。
5. 病理検査(手術で切除した腫瘍を検査)
唯一の確定診断方法。
良性・悪性の判定、悪性度、転移リスクなどがわかります。
診断とステージ
乳腺腫瘍に罹患する多くのわんちゃんはお腹のしこりを主訴に病院を受診
されるか、定期検診時に触診によって乳腺脈傷を発見することが多いです。
未避妊の雌犬で、お腹の乳腺付近にコリっとしたしこりがある場合は乳腺腫瘍である可能性が極めて高いです(良悪は不明)。
病院において触診を行い、細胞診検査を実施することで乳腺腫瘍であることを仮診断します。
乳腺腫瘍であった場合は、手術を検討しますが、手術前にはステージングを行い、体のどこかに転移していないかなどをチェックします。
乳腺腫瘍のステージは以下の5つに分かれます
ステージ1:腫瘍が3cm以下
ステージ2:腫瘍が3~5cm
ステージ3:腫瘍が5cm以上
ステージ4:リンパ節転移がある
ステージ5:肺などに遠隔転移がある
転移がある場合、つまりステージ4以上の場合は悪性の乳腺腫瘍であることを示唆します。
治療方法|乳腺腫瘍の第一選択は手術
犬の乳腺腫瘍は、薬では治せません。
治療の中心は 腫瘍の切除(手術) です。
手術の種類
- 腫瘍部分の摘出
- 乳腺片側をまとめて切除
- 両側乳腺切除(ケースにより)
腫瘍の大きさ・数・位置・進行度で適切な手術法が異なります。
手術の目的
- 腫瘍の根治
- 進行を遅らせる
- 潰瘍化(出血・感染)の防止
早期発見で小さいうちに切除するほど、
治療の成功率は高くなります。
化学療法(抗がん剤)は必要?
悪性のタイプ(特に高悪性度)では、
術後に化学療法を行うケース があります。
効果が期待できる腫瘍タイプ
- 炎症性乳癌
- 高悪性度の癌
- リンパ節転移があるケース
ただし、すべての乳腺腫瘍に必要というわけではありません。
腫瘍の性質や進行具合により判断します。
手術しない場合のリスク
- 徐々に大きくなる
- 潰瘍化して出血・におい・感染
- 他の乳腺へ広がる
- 肺やリンパ節に転移
- 痛みが出る
特に悪性の場合、
放置は命に関わります。
手術のタイミングはいつがいい?
以下に当てはまる場合は、早めに手術が推奨 されます。
- しこりが1cm以上になった
- 大きくなってきている
- 触ると硬い
- 数が増えてきた
- 10歳以上の未避妊犬
腫瘍は “待てば待つほど手術が大がかりになる” ため、
早期治療がとても重要です。
治療~手術と費用~
手術が困難となる炎症性乳癌を除いて、治療の第1選択は外科的切除になります。
良性の場合は手術によって根治します。
悪性の場合は、病理組織学的検査の結果に基づいて、悪性度、脈管浸潤の有無、完全切除の有無等を確認し、追加の治療を検討します。
術式には腫瘤のみを切除するものから左右の乳腺を全摘出するものまでありますが、
腫瘍が完全切除されるのであれば術式による治療成績に差はないとされています。
そのため、予想される悪性度、ステージ、腫癌の数、年齢や一般状態を考慮して術式を決定します。
手術費用は手術内容によりますが一般的には10~20万円前後です。
治療~抗がん剤~
病理組織学的検査で悪性、脈管浸潤がある場合やステーシ4~5の場合には.術後に化学療法を考慮します。
しかし、犬の乳腺腫瘍において有効な抗がん剤はまだ確立されてはいません。
そのなかでも、手術後に抗がん剤治療を行い長期生存できた犬の報告もありますので、可能な場合は考慮します。
よく用いる抗がん剤はドキソルビシンやカルボプラチンという抗がん剤を約3週間に1回投与する方法です。
予後
犬の乳腺腫瘍は、種類によって予後が大きく変わります。
一般的な傾向
- 良性 → 手術で治ることが多い
- 悪性 → 大きさ・悪性度・転移で予後が変動
- 炎症性乳癌 → 進行が速く予後不良
【しこりが小さいほど治りやすい】のが一番のポイントです。
転移をしていない場合は一般的に予後は良好です。
悪性の場合は予後はさまざまで、転移の有無や病理組織学的検査、悪性度のよって様々な転帰をとります。
転移がある場合は平均余命は1年を下回ってしまいます。
食事療法
腫瘍には食事はとても大切です。その理由も含め下記のコラムにまとめています。
【病気別】犬猫の栄養管理と食事選択 ~腫瘍に負けないごはんは?犬・猫に“肉”を与えていい?生肉の危険性・加熱の利点・手作り食の注意点~
よくある質問(FAQ)
Q. 良性なら手術しなくてもいい?
A. 将来的に大きくなることが多く、破裂のリスクもあるため手術が推奨されます。
Q. 避妊手術と同時に乳腺腫瘍の手術はできる?
A. 状況により可能です。獣医師と相談してください。
Q. 多発しているが全部取らないといけない?
A. 腫瘍数・位置により手術範囲が変わります。
Q. もう高齢だけど手術できる?
A. 体調が安定していれば可能なことが多いです。
まとめ
- 犬の乳腺腫瘍はメス犬で非常に多い腫瘍
- 良性・悪性は見た目では判断できない
- 早期発見が重要
- 避妊手術は最大の予防策
- 確定診断は「病理検査」のみ
- 治療の基本は手術
- 小さいうちに切除するほど予後が良い
- 放置すると転移・潰瘍化など命に関わる
愛犬の体を守るため、
月1回の「乳腺チェック」を習慣にしましょう。
正しい知識をもって、避けれる病気を避け、早期に治療を行うことで乳腺腫瘍は勝てる腫瘍です。
雌のわんちゃんにとって少しでも参考になれば幸いです。
以下に獣医師の視点から、
治療中の犬に現実的に選ばれているフードをまとめまています。
▶︎ 犬に配慮したフードの考え方を見る
※本記事は獣医師の視点から、毎日安心して与えられるドッグフードを厳選して紹介します。病気の治療ではなく、将来の健康を守るための食事選びを目的としています。普段我々は病気の療法食としてロイヤルカナンやヒルズなどの療法食を処方しますが[…]