猫の乳腺腫瘍は雌猫では3番目に多い腫瘍であり、
特に避妊手術が遅かった(12ヵ月齢以降)猫ちゃんでは比較的多く遭遇します。
避妊手術と乳腺腫瘍との発生率については↓で説明します。
見た目 初期~末期
初期は乳腺の部分に小さなしこりが触知されるだけなので発見が遅れることもあります。
乳頭が赤く腫れて気にして舐めていたり、表面がじゅくじゅく(潰瘍化)してくることがあります。
50%以上の猫では1カ所ではなく複数しこりが存在しています。
診断
診断は、未避妊または避妊手術が遅かった猫ちゃんの乳腺にしこりを認める場合に乳がんを疑い、細胞診検査を行います。
細胞診検査では異形成(悪性を疑う所見)のある乳腺細胞が認められます。
猫の乳腺腫瘍は90%が悪性の乳がんではありますが、確定診断は切除後の病理検査で診断されます。
乳がんを疑った場合、転移している可能性があるため(猫では約50%がリンパ節転移している)、全身精査を行っていきます。
特にチェックすべきことは、各種画像検査においてリンパ節および肺転移の有無、血液検査において内臓がしっかりしているか、貧血の有無などです。
ステージ
ステージは、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節転移(N)、肺などの遠隔転移(M)それぞれを評価して決まります。
【T】腫瘍の大きさのポイントは2cm。2cmより小さい場合T1、2~3cmをT2、3cm以上の場合をT3と評価します。
リンパ節転移(N)がない場合はN0、ある場合はN1とします。
レントゲン検査などで遠隔転移がない場合をM0、ある場合をM1とします。
これに基づき、ステージは1~4に分かれます。
最も進行している場合は、遠隔転移がある場合(M1)でありその場合はステージ4になります。
リンパ節に転移が生じていたり(N1)、腫瘍が大きい場合(T3)はステージ3とし、腫瘍の大きさによってステージ1,2に分けます。
これらステージを分ける理由は、進行度を評価することで、治療方針を決定、相談するためです。
治療
治療の基本は外科手術です。
ステージが1~2の場合はまだ転移が認められないので根治を目指して手術を検討します。
ステージが3(一部)~4の場合は転移が認められるため、手術の目的は緩和目的となります。
緩和目的とは、完全に腫瘍を体から根絶させる目的ではなく、腫瘍を取れる限りとってあげることで腫瘍による痛み、不快感、出血などの苦しみを緩和することです。
猫ちゃんの乳がんの治療の最も大きなポイントはここにあります。
放っておいたらどうなる?
手術などの治療をせずに放置すると、乳がんの場合(90%)は確実に数か月以内に腫瘍が大きくなり、自壊してジュクジュクしたり、出血したり、転移したりします。
そのため、各種検査において全身の状態がまだしっかりしている場合は手術を検討してあげたい病気の一つになります。
手術
猫ちゃんは左右に4~5対乳腺が存在していますが、乳がんの場合はしこりが1カ所であっても乳腺全体に腫瘍が入り込んでいることが想定されるため、
すべての乳腺を取り除く乳腺全摘出が推奨されます。
しかし、一度に左右の全ての乳腺を摘出するのは、体力や手術による侵襲、合併症が大きいため、多くの場合は2回に分けて片側乳腺切除術を実施します。
手術は痛みを伴うので数日入院にて鎮痛管理を行います。
手術後に注意する点は、手術後の痛み、出血に伴う貧血、切除後の浮腫み等に伴う呼吸困難などです。
数日の入院にてそれらの合併症がなければ退院でき、1週間ほどすると次第に腫瘍の不快感から解放され元気な姿に戻ることが多いです。
病理検査結果を確認し、残った乳腺の切除はおよそ1か月後に実施することが多いです。