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獣医師が伝える犬猫の病気や治療の考え方

犬と猫の貧血と輸血ドナー|重度貧血の危険性・輸血が必要なとき・献血の条件を獣医師が解説

更新日:2025/12/6

犬や猫が重度の貧血になると、
呼吸が荒くなったり、ぐったりして動かなくなったりと、命に関わる状態になることがあります。

重度の貧血を救うために必要となるのが 輸血 であり、
そのために健康な犬猫の 献血ドナー が欠かせません。

この記事では、
貧血の危険性・輸血が必要なケース・ドナーの条件・献血の注意点 をわかりやすく解説します。

うちの子が急にぐったり、駆けつけた動物病院で重度の貧血が見つかりました。

これは、臨床上非常によく遭遇します。詳細は下記のコラムをご覧ください。

犬猫の貧血と輸血 ~多い病気や副反応、費用等~

この場合、緊急的な輸血なしに いま を助けることはできません。

ここで、ぶち当たる大きな壁がドナーの問題です。

犬や猫は貧血を引き起こす病気が多いのに対して、ドナーが圧倒的に足りません。

理由として

・日本は中~大型犬が少ないこと

・猫はストレスから供血が難しいこと

・動物は献血バンクが存在しないこと

・一度供血した動物は当分の間供血ができないこと

(動物病院には供血犬猫はせいぜい1~2頭)

などが挙げられ、

なによりも、動物の輸血が困難なこの現状が認知されていないことが問題となります。

今回は犬猫のドナーに関する情報を共有し、

おうちのわんちゃん猫ちゃんの命を守るために、

各地域の飼い主さまの連携の大切さをお伝えしたいと思います。

犬と猫の貧血とは

貧血とは、血液中の 赤血球・ヘモグロビン が不足した状態です。

赤血球は全身に酸素を運ぶ役割を持つため、
数が減ると 体中が酸欠状態 になります。

軽度の貧血なら元気が少しない程度ですが、
重度では 数時間単位で危険な状態 になることがあります。

重度貧血で起こる危険な症状

重度の貧血では、次のような症状が見られます。

  • ぐったりする
  • 呼吸が早い、苦しそう
  • 歩くとふらつく
  • 食欲不振
  • 粘膜(歯ぐき・舌)が白っぽい
  • 心拍数が多い
  • 失神

これらは 緊急対応が必要なサイン です。

貧血が進行すると、心臓が酸欠を補うために高速で働き続け、
心不全や多臓器不全につながることもあります。

輸血が必要になる病気

犬猫で輸血を必要とする代表的な疾患には次のものがあります。

■ 免疫介在性貧血(IMHA)

自分の赤血球を壊してしまう病気。急速に悪化することがあります。

■ 急性の出血

交通事故、外傷、出血性腫瘍(血管肉腫など)による大量出血。

■ 骨髄の病気

白血病、骨髄線維症、リンパ腫などで赤血球が作れなくなる。

■ 猫の溶血性疾患

マイコプラズマ感染、FIV/FeLV関連、薬剤性など。

■ 手術中の大量出血

大きな腫瘍摘出、脾臓疾患など。

貧血の原因が改善するまでの“つなぎ”として輸血が行われます。

輸血の種類と目的

輸血には主に以下の種類があります。

■ 全血

赤血球+血漿すべて含む
大量出血・急性状況で使用。

■ 濃厚赤血球(PCV)

赤血球だけを濃縮したもの。
酸素運搬能力を改善する目的で最もよく使われます。

■ 血漿(FFP)

凝固因子などを補う。
DIC・肝疾患・免疫疾患で使用。

輸血そのものは治療ではなく、
「酸素を運ぶ力を一時的に補って生命維持に必要な時間を稼ぐ」 役割です。

輸血の準備から実施の流れ

動物に重度の貧血が見つかり、輸血をしないといけなくなった場合、次のステップで行います。

①まず動物病院の供血犬猫が供血可能かどうか

大きな動物病院であっても供血犬猫は1.2頭です。

供血は本人の健康が第一であり、また、約5歳前後でドナーを引退しますので、引退後の生活も考慮しないといけません。

そのため、動物病院に十分に供血動物は存在せず、その場合は②へ進みます。

②飼い主様の同居動物やお知り合いのドナーに協力頂く

実際のところ、このパターンが最も多いです。

貧血は緊急状態であるので、迅速にドナーをお探しいただく必要があります。

輸血ができ、命が助かるか否かはここまでが最も重要になります。

そのため、いかに万が一に備えてドナーの確保、つながりを作ることや、ドナー登録の協力体制を構築しておくことが極めて大切となります。

無事にドナーが確保できた場合は

③血液型の一致確認と輸血適合試験を行う

ヒトと同様に犬猫にも血液型が存在します。

犬の場合は初めての輸血の場合はほとんどの場合は輸血は可能となりますが、

猫の場合はA型B型AB型の3つの血液型が存在するため、輸血可能かはこの検査に委ねられます。

適合試験がNGの場合は①②に戻りドナーの再探しとなります。

無事に適合試験がOKの場合

④供血ドナーからの採血

を行います。

この際多くの場合は首の頸静脈という太い血管に太い針を刺して採血を行います。

採血は順調であれば数十分で終わりますが、供血動物が動いてしまうと危険であり、時間がかかるため、麻酔を使い不動化する場合があります。

採血後は貧血の犬猫に輸血していきます。この際に注意する副作用等は別のコラムをご覧ください。

犬猫の貧血と輸血 ~多い病気や副反応、費用等~

輸血ドナーの条件

目の前で苦しむ動物を何としてでも助けたいですが、輸血の際に大切なことはドナーの健康が保たれることです。

ドナーとして献血可能な条件は

● 犬のドナー条件

  • 体重 20kg 以上
  • 1〜8歳
  • 健康でワクチン・フィラリア予防済み
  • 持病なし
  • 温厚で採血に協力できる

● 猫のドナー条件

  • 体重 4kg 以上
  • 1〜8歳
  • ウイルス検査陰性(FIV・FeLV)
  • 健康で採血に耐えられる体力がある
  • 性格が穏やか

● 共通の条件

  • 直近の輸血歴がない
  • 妊娠歴がないのが望ましい
  • 定期的な血液検査で健康確認ができる

安全に採血するため、体格と健康状態が最も重要です。

以上の条件がドナーの条件となります。

ひとつでも満たさない場合は安全が確保されませんのでドナーとしてはふさわしくありません。

献血の流れと採血量

一般的な献血の流れは次の通りです。

  1. 問診・身体検査
  2. 血液検査(PCV、感染症チェックなど)
  3. 採血(犬:200〜400mL、猫:20〜50mL程度)
  4. 休憩・補液
  5. 経過観察

採血量は 安全に耐えられる量のみ を行います。
体調への影響は少なく、半日ほどで元どおりになることが多いです。

献血によるリスクと注意点

献血は比較的安全な医療行為ですが、ゼロリスクではありません。

  • 採血部位の痛み
  • 一時的な疲労
  • 貧血・脱水がある場合は不可
  • 猫ではストレスが大きい場合がある

献血後は十分な休息と水分補給が大切です。

貧血の治療で大切なこと

輸血は 応急処置 であり、根本治療ではありません。

貧血の治療では以下が重要になります。

  • 原因疾患の特定
  • IMHAなら免疫抑制治療
  • 腫瘍なら外科・抗がん剤
  • 腎性貧血なら造血ホルモン治療
  • 持続的なモニタリング

輸血を行った後も、
“なぜ貧血になったのか” の原因を治療することが不可欠 です。

よくある質問(FAQ)

Q. 輸血は安全ですか?
→ 適切に血液型を合わせ、クロスマッチを行えば安全性は高いです。

Q. 1回の輸血で治りますか?
→ 原因次第です。IMHAや腫瘍では複数回必要になることもあります。

Q. 家の子をドナー登録しても大丈夫?
→ 条件を満たし健康であれば、多くは問題なく献血できます。

Q. 献血はどれくらいの頻度で可能?
→ 犬で2〜3ヶ月ごと、猫は3〜6ヶ月ごとが一般的です。

まとめ

ヒトも動物も輸血とはとっても大切な治療になり、代わりとなる治療がありません。

その中で獣医療における輸血は極めて難しく、飼い主様の相互協力や理解、サポートが必要不可欠となります。

ドナーが見つからずなくなく命を落とした犬猫を数多く見てきました。

このコラムを機会にペットの献血の重要さに少しでも関心と理解を持っていただき、

ひとつでも小さな命が救われることを願っています。

また、若い元気な大型犬を飼われている飼い主様、

大人しい健康な大きめの猫ちゃんを飼われている飼い主様は、

ドナーとして協力可能である意思表示をしていただければ幸いです。

あくまで任意です。

ひとつひとつの小さなつながりが今後の貴重なつながりとなると認識しております。

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