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獣医師が伝える犬猫の病気や治療の考え方

猫の乳腺腫瘍(乳がん)|症状・診断・治療・予後を腫瘍科獣医師が徹底解説

更新日:2025/12/9

猫の乳腺腫瘍は雌猫では3番目に多い腫瘍であり、

特に避妊手術が遅かった(12ヵ月齢以降)猫ちゃんでは比較的多く遭遇します。

猫の乳腺腫瘍(Mammary Gland Tumor:MGT)は、
悪性(がん)である割合が非常に高い腫瘍 です。

およそ 80〜90%以上が悪性腫瘍(乳腺癌) とされ、
進行が早く、リンパ節や肺へ転移しやすいという特徴があります。

しかし、早期発見・早期手術(広範囲切除) によって
生存期間が大きく延びる ことが複数の研究で示されています。

この記事では、
猫の乳腺腫瘍の症状・診断・治療・手術方法・予後 を腫瘍科獣医師の視点で詳しく解説します。

猫の乳腺腫瘍とは?

乳腺組織に発生する腫瘍の総称で、
猫では 悪性の乳腺癌であるケースが大半 を占めます。

発生部位:

  • お腹側に左右4対(計8個)の乳腺
    どこにでも腫瘍ができます。

高齢の避妊していないメスに多いですが、避妊済みでも発生します。

良性と悪性の違い(猫は悪性が多い)

種類特徴
良性(腺腫など)猫では非常にまれ
悪性(乳腺癌)80〜90%以上、進行が速い

犬とは異なり、猫では 良性の乳腺腫瘍はごく少数 です。

そのため、
しこり=早期に検査・治療が必要な可能性が高い と考えます。

初期症状と進行した症状

■ 初期症状

  • 米粒〜小豆サイズのしこり
  • 片側だけ触れることも、両側に複数できることもある
  • 痛みは少ない

多くの飼い主は “ただのしこり” と見過ごしてしまいます。


■ 進行した症状

  • 急に大きくなる
  • 皮膚を破って出血する
  • 硬くなる
  • リンパ節の腫れ
  • 咳(肺転移)
  • 食欲不振

短期間で変化するのが特徴です。

見た目 初期~末期

初期は乳腺の部分に小さなしこりが触知されるだけなので発見が遅れることもあります。

乳頭が赤く腫れて気にして舐めていたり、表面がじゅくじゅく(潰瘍化)してくることがあります。

50%以上の猫では1カ所ではなく複数しこりが存在しています。

進行が早い理由

猫の乳腺癌は:

  • リンパ管に沿って広がりやすい
  • 肺や肝臓へ転移しやすい
  • 局所浸潤が強い
  • 再発しやすい

という生物学的特徴を持つため、時間が勝負の腫瘍 です。

診断

乳腺腫瘍は「診断+転移確認」が必須です。

  • 触診
  • 細胞診(確定にならないことが多い)
  • レントゲン(肺転移)
  • 超音波(腹腔内の転移確認)
  • CT検査(広がり評価、手術計画)
  • 血液検査

最終診断は 切除後の病理検査 によって確定します。

流れとしては、未避妊または避妊手術が遅かった猫ちゃんの乳腺にしこりを認める場合に乳がんを疑い、細胞診検査を行います。

細胞診検査では異形成(悪性を疑う所見)のある乳腺細胞が認められます。

猫の乳腺腫瘍は90%が悪性の乳がんではありますが、確定診断は切除後の病理検査で診断されます。

乳がんを疑った場合、転移している可能性があるため(猫では約50%がリンパ節転移している)、全身精査を行っていきます。

特にチェックすべきことは、各種画像検査においてリンパ節および肺転移の有無、血液検査において内臓がしっかりしているか、貧血の有無などです。

ステージ

ステージは、腫瘍の大きさ(T)、リンパ節転移(N)、肺などの遠隔転移(M)それぞれを評価して決まります。

【T】腫瘍の大きさのポイントは2cm。2cmより小さい場合T1、2~3cmをT2、3cm以上の場合をT3と評価します。

リンパ節転移(N)がない場合はN0、ある場合はN1とします。

レントゲン検査などで遠隔転移がない場合をM0、ある場合をM1とします。

これに基づき、ステージは1~4に分かれます。

最も進行している場合は、遠隔転移がある場合(M1)でありその場合はステージ4になります。

リンパ節に転移が生じていたり(N1)、腫瘍が大きい場合(T3)はステージ3とし、腫瘍の大きさによってステージ1,2に分けます。

これらステージを分ける理由は、進行度を評価することで、治療方針を決定、相談するためです。

治療

治療の基本は外科手術です。

ステージが1~2の場合はまだ転移が認められないので根治を目指して手術を検討します。

ステージが3(一部)~4の場合は転移が認められるため、手術の目的は緩和目的となります。

緩和目的とは、完全に腫瘍を体から根絶させる目的ではなく、腫瘍を取れる限りとってあげることで腫瘍による痛み、不快感、出血などの苦しみを緩和することです。

猫ちゃんの乳がんの治療の最も大きなポイントはここにあります。

標準治療:外科手術(乳腺切除)

猫の乳腺腫瘍の治療の中心は 外科手術 です。

■ 基本は「広範囲切除」

腫瘍周囲に広くマージンを取り、場合によっては

  • 片側乳腺切除(ユニラテラル)
  • 両側乳腺切除(ステージにより)
    が推奨されます。

■ 小さいうちに切除すると予後が延びる

腫瘍サイズが 2cm未満 の場合、
生存期間が大きく伸びることが複数研究で示されています。

■ リンパ節切除(センチネル)

転移評価のために推奨されることがあります。

抗がん剤治療の役割

猫の乳腺癌は再発や転移が起こりやすいため、
外科治療後に 補助化学療法(アジュバント療法) を行うことがあります。

使用される薬:

  • ドキソルビシン
  • カルボプラチン
  • シクロホスファミド

※ 腫瘍の悪性度・転移状況により判断します。

放っておいたらどうなる?

手術などの治療をせずに放置すると、乳がんの場合(90%)は確実に数か月以内に腫瘍が大きくなり、自壊してジュクジュクしたり、出血したり、転移したりします。

そのため、各種検査において全身の状態がまだしっかりしている場合は手術を検討してあげたい病気の一つになります。

手術

猫ちゃんは左右に4~5対乳腺が存在していますが、乳がんの場合はしこりが1カ所であっても乳腺全体に腫瘍が入り込んでいることが想定されるため、

すべての乳腺を取り除く乳腺全摘出が推奨されます。

しかし、一度に左右の全ての乳腺を摘出するのは、体力や手術による侵襲、合併症が大きいため、多くの場合は2回に分けて片側乳腺切除術を実施します。

手術は痛みを伴うので数日入院にて鎮痛管理を行います。

手術後に注意する点は、手術後の痛み、出血に伴う貧血、切除後の浮腫み等に伴う呼吸困難などです。



数日の入院にてそれらの合併症がなければ退院でき、1週間ほどすると次第に腫瘍の不快感から解放され元気な姿に戻ることが多いです。

病理検査結果を確認し、残った乳腺の切除はおよそ1か月後に実施することが多いです。

予後(生存期間)

予後は 腫瘍の大きさ・悪性度・転移の有無 によって大きく変わります。

■ 良い予後が期待できる条件

  • 腫瘍サイズ 2cm未満
  • 早期発見・早期切除
  • 転移がない
  • 完全切除できた場合

■ 平均的な生存期間の目安(研究データより)

  • 2cm未満:2年以上の長期生存も多い
  • 2〜3cm:1年前後
  • 3cm以上:数ヶ月〜1年未満のことがある
  • 転移あり:数ヶ月

※ 症例によるばらつきは大きいです。

再発・転移しやすい場所

  • 局所再発(同じ側)
  • リンパ節(鼠径・腋窩)
  • 肝臓

術後は定期的な再診(1〜3ヶ月間隔)が不可欠です。

よくある質問(FAQ)

Q. しこりが小さい場合は様子見でもいい?
→ 猫は悪性率が非常に高く、様子見は推奨されません。

Q. 片側と両側、どちらが必要?
→ 腫瘍の場所・広がり・悪性度により判断します。

Q. 抗がん剤は必ず必要?
→ 病理結果を基に検討します。症例ごとに異なります。

Q. 避妊手術は効果がありますか?
→ 猫では避妊後の発生率低下は犬ほど明確ではありませんが、早期避妊には一定の予防効果があるとされています。


■ まとめ(この記事の要点)

  • 猫の乳腺腫瘍の 80〜90%以上は悪性(乳腺癌)
  • しこりを見つけたら早期検査が必須
  • 診断には画像検査と病理検査が重要
  • 標準治療は 広範囲外科切除
  • 腫瘍サイズ2cm未満の早期手術で予後が大きく改善
  • 抗がん剤治療を併用する場合もある
  • 術後は再発・転移チェックのため定期検査が必要

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