更新日:2025/12/6
猫の「膵炎(すいえん)」は、実はとても見逃されやすい病気です。
犬の膵炎ほど激しい嘔吐が出ないことも多く、「なんとなく元気がない」「食べない」といった曖昧な症状だけで進行してしまうこともあります。
膵臓は食べ物の消化を助ける酵素を出し、血糖値を調整する重要な臓器。
ここに炎症が起こると、全身の調子が崩れ、命に関わるケースもあります。
この記事では
猫の膵炎の症状・検査・治療・予後・自宅での注意点 を、できるだけわかりやすくまとめました。
猫ちゃんはよく吐く動物ですが、猫ちゃんの頻回の嘔吐はさまざまな病気のサインでもあり軽視すべきではありません。
猫ちゃんの嘔吐がよく見られてお悩みの飼い主様は先に下記のコラムで吐き気の評価をしてみてください。
猫が吐いてます。様子見ていいですか? ~頻度・タイミング・病気・様子の見方~

猫の膵炎とは
膵炎は、膵臓に炎症が起きる病気で、
- 急性(突然症状が出る)
- 慢性(じわじわ悪化する)
があります。
猫では「慢性膵炎」が多く、症状が非常にわかりにくいのが特徴です。
また、
- 肝臓
- 胆管
- 腸
など周辺臓器と同時に炎症が起きる 三臓器炎(トライアディティス) も猫でよく見られます。
膵炎の症状
膵臓は膵酵素という消化酵素を消化管に分泌しています。
この膵酵素はとても刺激性が強く、炎症を引き起こしやすい消化液ですので、それが膵臓周囲に漏出することで強い炎症を引き起こします。
これはヒトも同じです。
症状は犬やヒトほど典型的な症状は出ず、
・活動性の低下
・食欲不振
・慢性嘔吐
などなんとなくしんどそうな症状しか出ないことが多く、見逃されやすいです。
他院で治りが悪い猫ちゃんのご紹介を受け、拝見するとこの膵炎であることはとても多いです。
つまり、特筆すべき強い症状がないけれど、だらだらと食欲不振や元気低下、嘔吐が続く場合は慢性の膵炎が疑われます。
猫に多い“わかりにくいサイン”
猫の膵炎は、犬のような激しい嘔吐が必ず出るとは限りません。
以下のような“あいまいな変化”が多く、見逃されやすい病気です。
● よくある症状
- 食欲が落ちる、食べない
- 元気がない
- ぐったりする
- 体重が減る
- 隠れる時間が増える
- 毛づやの低下
● みられることがある症状
- 嘔吐・吐き気
- 下痢
- 腹痛(うずくまる、背中を丸める姿勢)
- 脱水
- 黄疸
- 低体温または高体温
症状が軽くても油断はできません。
「なんとなく調子が悪い状態が続く」ことが膵炎の大きな手がかりです。
膵炎が起こる原因
猫の膵炎は原因が特定できないことも多いですが、次のような要因が関わるとされています。
- 慢性的な腸や肝臓の炎症
- 胆管のトラブル
- 感染症
- 外傷
- 脂肪代謝の異常
- 免疫異常
- ストレス
- 高齢や持病
「三臓器炎(肝臓・膵臓・腸の同時炎症)」は猫でよくみられ、膵炎だけではなく複数臓器が同時に悪くなるケースもあります。
診断に使う検査
膵炎の診断は、ひとつの検査だけでは難しく、複数の情報を組み合わせます。
● 血液検査
- 炎症の有無
- 脱水
- 電解質異常
- 膵炎特異的マーカー(fPLI)
などを確認します。
● 超音波検査(エコー)
- 膵臓の腫れ
- 周囲の炎症
- 胆管・肝臓・腸との関連
などを評価します。
● X線検査
膵炎そのものは映りにくいですが、ほかの病気の除外に役立ちます。
● その他(必要に応じて)
- CT
- 精密血液検査
- 合併症の評価
猫の膵炎は診断が難しいため、複数検査の総合判断が重要です。
膵炎の治療
膵炎は原因治療が難しいことも多く、
「症状を和らげ、膵臓が回復するまで支える治療」
が中心となります。
■ 点滴療法
- 脱水の改善
- 血流の改善
- 電解質補正
膵炎治療の基本になります。
■ 吐き気止め・胃腸薬
- 食欲の改善
- 嘔吐予防
- 胃腸の保護
■ 痛み止め
猫は痛みを隠すため、腹痛が強くても表に出ないことがあります。
痛み管理は非常に重要。
■ 食事療法
- 消化の良い食事
- 食欲が落ちている場合は強制給餌を避け、嗜好性の高い食事を少量から
■ 抗生剤(必要な場合のみ)
炎症が細菌性と判断された場合に使用。
■ ステロイド(慢性の場合)
慢性的な炎症が強い場合に用いることがあります。
■ 入院が必要なケース
- 食べられない
- ぐったりしている
- 黄疸がある
- 脱水が強い
- 合併症が疑われる
症状に応じて治療は大きく変わります。
予後(回復の見込み)
猫の膵炎の予後は、
- 重症度
- 治療開始のタイミング
- 合併症の有無
によって変わります。
● 軽度〜中等度の膵炎
適切な治療で回復することが多いです。
● 重度の膵炎
命にかかわることがあり、入院治療や集中的なケアが必要になることがあります。
● 慢性膵炎
症状をコントロールしながら「うまく付き合う」治療が中心になります。
再発予防と自宅ケア
- 食欲・元気・排泄のチェック
- 急な嘔吐やぐったりに注意
- 食事は無理なく、少量ずつ
- 脂肪分の多い食事・おやつに注意
- 脱水を防ぐ(飲水量の確保)
- 多頭飼育の場合、ストレスを減らす環境づくり
- 定期的な血液検査・エコーでモニタリング
膵炎は再発しやすい病気のため、日々の観察が大切です。
よくある質問(FAQ)
Q. 嘔吐がなくても膵炎の可能性はありますか?
→ はい。猫は胃腸症状が軽く、食欲低下だけのことも多いです。
Q. 食欲が戻ったら治ったと言える?
→ いいえ。元気に見えても炎症が続いていることがあり、経過観察が必要です。
Q. 慢性膵炎は治らない?
→ 「完治」よりも「コントロール」が目標です。症状を抑えつつ良い生活を維持できます。
糖尿病との関係
膵臓は前述のように消化酵素を作り、分泌している臓器ですが、併せてインスリンを分泌し血糖値の調整を行っている臓器でもあります。
そのため、膵炎で膵臓の機能が低下すると、インスリンの分泌も低下することで糖尿病を一時的に発症することがあります。
糖尿病を発症すると、水をよく飲むようになり、血糖値が高くなります(血糖値200以上程度)。
猫の場合はヒトや犬と違い、この糖尿病は膵炎に伴う一過性のものなので、膵炎の改善とともに治ることもあれば、そのまま糖尿病を患うこともあります。
糖尿病は基本的に毎日注射でのインスリン投与を必要とします。
糖尿病についてはまた別のコラムでお話しします。
猫の糖尿病 ~症状・診断・治療~
まとめ
- 猫の膵炎は症状がわかりにくく、見逃しやすい
- 食欲不振・元気消失が続く場合は早めの受診を
- 診断には血液検査・エコーなど複数の検査が必要
- 点滴・痛み管理・吐き気止めなどの支持療法が中心
- 再発しやすいため、自宅ケアと定期検査が重要
「数日様子を見る」が命取りになることもあります。
小さな変化でも気づいたら、早めに動物病院に相談してください。
猫の膵炎は特異的な症状がなく、だらだらと続くので診断されていないこともおおく見逃されがちです。
しかし、本人は悪心や腹痛などを感じているので適切な治療を必要としています。
おうちでの症状で気になる場合は一度動物病院で見ていただければと思います。
少しでもご参考になり、見逃しが減ると幸いです。
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