猫ちゃんの口腔内にできる悪性腫瘍のなかで最も発生率が高く、最もやっかいな腫瘍が扁平上皮癌です。
初期の症状は口内炎と見分けがつかないために発見が遅れることも多く、また発見が早くても進行が早く強いのがこの腫瘍です。
猫の口腔内のできる扁平上皮癌の詳しいお話は下記のコラムを参考にしてください。
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今回は、猫の口腔内の扁平上皮癌の内科的な治療、つまり抗がん剤についてお話しします。
鎮痛治療と抗腫瘍効果のNSAIDs
まずはじめに、扁平上皮癌の特徴として『骨を破壊する』があります。
口腔内の粘膜に発生し一見すると口の中だけのできものに見えて、レントゲンやCT検査を行うと多くの場合は顎の骨を破壊しています。
この破壊は画像で認められる場合もあれば、摘出後の組織レベルで確認されることもあります。
つまり、骨を壊すのが好きな腫瘍ということになります。
その時考えないといけないことは、骨を壊す=骨折することは『痛い』ということです。
口内炎のように口腔粘膜が腫れているだけでも痛いのに、顎の骨が壊れると更なる痛みを伴います。
そのため、猫の扁平上皮癌においては鎮痛治療は必ずセットで考えてあげなければいけません。
その際に使用する消炎鎮痛剤=NSAIDs(エヌセイズ)はヒトの頭痛薬などに使用されている薬であり、とても強い鎮痛効果があるのでよく使用します。
またこのNSAIDsは鎮痛効果に併せて扁平上皮癌の抗腫瘍効果も持ち合わせていることがわかっています。
それはCOX阻害作用、血管新生阻害作用とよばれる働きのよって、この薬剤の投薬により扁平上皮癌の猫ちゃんの寿命が延びることが確認されています。
そのため、使用にあたって内臓(特に腎臓や胃)に問題がない場合は、鎮痛効果および抗腫瘍効果を期待して使用することが多いです。
また、強い痛みは1つの薬では押さえられないことが多いのでその他の鎮痛薬も併用します。
その他の鎮痛剤に関しては下記のコラムにまとめています。
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猫の扁平上皮癌に対する抗がん剤
扁平上皮癌は犬猫に限らず抗がん剤が効きづらい腫瘍のひとつです。
そのため抗がん剤の治療のみで扁平上皮癌をやつけることは困難と言えます。
しかし、腫瘍を切除した後など、なるべく再発を遅らせる目的などで補助的に抗がん剤治療を行うことがあります。
その際に使用されるのは日本ではカルボプラチンと呼ばれる抗がん剤です。しかし、明らかな効果を認めた報告はありません。
そのなかで近年開発され、猫の扁平上皮癌に対する効果が期待されている抗がん剤のひとつに『パラディア(トセラニブ)』があります。
猫の扁平上皮癌とパラディア(トセラニブ)
パラディアとは分子標的薬と呼ばれ近年開発された新しい抗がん剤です。
元々は、肥満細胞腫と呼ばれる別の悪性腫瘍に開発された薬ですが、扁平上皮癌などのほかの腫瘍にも効果を示すことがわかり始めています。
実際に口腔内の扁平上皮癌にパラディアを投与した猫ちゃんが、投与しなかった猫ちゃんに比べて明らかな延命効果が認められたという報告も認められ始めています。
またパラディアはその他の抗がん剤と比べて副作用が少なく、週に3回内服をするという点でも治療しやすい薬になります。
逆に言うと、口が痛いのに内服をしないといけないという点にデメリットがあるかもしれません。
その点は、下記の必殺技を駆使して乗り切ることにしましょう。
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パラディアの効果やさらに詳しい内容は下記のコラムで説明してます。
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まとめ
いずれにせよ、扁平上皮癌は手ごわいということ。
しかし、最期までできることはあるということ。
そのなかの光のひとつにパラディアという薬があります。ただしこの薬はまだデータが多くないので良くも悪くも今後の更なるデータを必要としています。
口腔内の扁平上皮癌が見つかり、『顎をとりましょう』と言われたけどそれは辛い、
でも何かしてあげれることはないかな、そんな飼い主様に少しでもお役に立てれば幸いです。
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