更新日:2025/11/23
猫の口腔内扁平上皮癌(SCC)は、痛みが強く、進行が早く、完治が非常に難しい腫瘍です。
その中で
「Palladia®(パラディア/トセラニブ)」は効くのか?
どんなケースで使うべきなのか?
副作用は?費用は?どれくらい持つの?
飼い主さんが一番知りたい部分を、腫瘍科の臨床経験ベースで “実際に使うとどうなるか?”まで含めて解説します。
猫ちゃんの口腔内にできる悪性腫瘍のなかで最も発生率が高く、最もやっかいな腫瘍が扁平上皮癌です。
初期の症状は口内炎と見分けがつかないために発見が遅れることも多く、また発見が早くても進行が早く強いのがこの腫瘍です。
猫の口腔内のできる扁平上皮癌の詳しいお話は下記のコラムを参考にしてください。
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今回は、猫の口腔内の扁平上皮癌の内科的な治療、つまり抗がん剤についてお話しします。
Palladia®とは?
成分:トセラニブ(Toceranib)
犬の肥満細胞腫(MCT)に承認されている分子標的薬(キナーゼ阻害剤)で、
腫瘍がもつ血管新生や増殖シグナルを抑える働きがあります。
◆ 作用機序
- 腫瘍の血管を作りにくくする
- 腫瘍細胞の増殖を抑える
- 一部の腫瘍で“縮小”または“進行停止”が起こる
猫ではオフラベル使用(適応外)ですが、腫瘍科領域では慎重に使われています。
猫の扁平上皮癌での位置づけ(結論)
🟥 結論:メイン治療ではない。補助的に効果が期待できるケースがある。
理由
- SCCは抗がん剤・分子標的薬の効果が総じて“弱い”
- 手術 or 放射線ほどの改善は得られない
- ただし一部の猫で 進行抑制・痛み軽減・生活の質改善がみられる
▶ “効く猫もいる。が、全員には効かない。
進行が早い腫瘍の足止めとして使うイメージ。”
鎮痛治療と抗腫瘍効果のNSAIDs
まずはじめに、扁平上皮癌の特徴として『骨を破壊する』があります。
口腔内の粘膜に発生し一見すると口の中だけのできものに見えて、レントゲンやCT検査を行うと多くの場合は顎の骨を破壊しています。
この破壊は画像で認められる場合もあれば、摘出後の組織レベルで確認されることもあります。
つまり、骨を壊すのが好きな腫瘍ということになります。
その時考えないといけないことは、骨を壊す=骨折することは『痛い』ということです。
口内炎のように口腔粘膜が腫れているだけでも痛いのに、顎の骨が壊れると更なる痛みを伴います。
そのため、猫の扁平上皮癌においては鎮痛治療は必ずセットで考えてあげなければいけません。
その際に使用する消炎鎮痛剤=NSAIDs(エヌセイズ)はヒトの頭痛薬などに使用されている薬であり、とても強い鎮痛効果があるのでよく使用します。
またこのNSAIDsは鎮痛効果に併せて扁平上皮癌の抗腫瘍効果も持ち合わせていることがわかっています。
それはCOX阻害作用、血管新生阻害作用とよばれる働きのよって、この薬剤の投薬により扁平上皮癌の猫ちゃんの寿命が延びることが確認されています。
そのため、使用にあたって内臓(特に腎臓や胃)に問題がない場合は、鎮痛効果および抗腫瘍効果を期待して使用することが多いです。
また、強い痛みは1つの薬では押さえられないことが多いのでその他の鎮痛薬も併用します。
その他の鎮痛剤に関しては下記のコラムにまとめています。
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猫の扁平上皮癌に対する抗がん剤
扁平上皮癌は犬猫に限らず抗がん剤が効きづらい腫瘍のひとつです。
そのため抗がん剤の治療のみで扁平上皮癌をやつけることは困難と言えます。
しかし、腫瘍を切除した後など、なるべく再発を遅らせる目的などで補助的に抗がん剤治療を行うことがあります。
その際に使用されるのは日本ではカルボプラチンと呼ばれる抗がん剤です。しかし、明らかな効果を認めた報告はありません。
そのなかで近年開発され、猫の扁平上皮癌に対する効果が期待されている抗がん剤のひとつに『パラディア(トセラニブ)』があります。
猫の扁平上皮癌とパラディア(トセラニブ)
パラディアとは分子標的薬と呼ばれ近年開発された新しい抗がん剤です。
元々は、肥満細胞腫と呼ばれる別の悪性腫瘍に開発された薬ですが、扁平上皮癌などのほかの腫瘍にも効果を示すことがわかり始めています。
実際に口腔内の扁平上皮癌にパラディアを投与した猫ちゃんが、投与しなかった猫ちゃんに比べて明らかな延命効果が認められたという報告も認められ始めています。
またパラディアはその他の抗がん剤と比べて副作用が少なく、週に3回内服をするという点でも治療しやすい薬になります。
逆に言うと、口が痛いのに内服をしないといけないという点にデメリットがあるかもしれません。
その点は、下記の必殺技を駆使して乗り切ることにしましょう。
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パラディアの効果やさらに詳しい内容は下記のコラムで説明してます。
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どんな猫に使うべき?適応ケース
以下の条件に当てはまる場合、Palladia は選択肢になります。
🟦 ① 手術不可 or 放射線治療ができない
- 顎骨に広く浸潤
- 高齢・持病で麻酔リスクが高い
- 放射線施設が遠い/通院が困難
🟧 ② ステロイド・NSAIDs だけでは痛みや炎症が抑えられない
- 腫瘍の炎症が強い
- 口臭・出血が改善しない
- 食べにくい状態が続く
🟩 ③ 進行スピードを少しでも遅らせたいケース
- 食べ方が悪化
- 顔の変形
- 呼吸・嚥下が心配
- QOL維持を最優先したい
🟫 ④ 放射線治療後の“維持・補助”目的
- 放射線で腫瘍が縮小したあと
- 再増大のスピード抑制目的
治療の効果(期待できる変化)
※「効いた場合」の臨床でよくある改善パターン。
✔ 進行スピードが遅くなる
腫瘍の増大が止まる or 緩やかになる。
✔ 壊死・炎症が少し改善する
出血・口臭が軽減するケースあり。
✔ 食べる量が増える
痛みが減ることで採食改善。
✔ 比較的副作用が少ない
ステロイドとの併用も可能。
🙅 劇的な腫瘍縮小は期待できない
→ “止める・遅らせる” がメイン。
余命の目安(治療あり/なし比較)
猫SCCの予後は個体差が大きいですが、一般的には以下が多いです。
| 状態 | 余命の目安 |
|---|---|
| 治療なし | 数週間〜1ヶ月 |
| ステロイド中心 | 1〜3ヶ月 |
| Palladia 併用(反応あり) | 数ヶ月延長が期待できる |
| 放射線治療あり | 3〜12ヶ月(腫瘍の場所次第) |
※Palladia は “延命・QOL改善の補助治療” という立ち位置が現実的。
投与スケジュールとモニタリング
◆ 基本スケジュール
- 隔日投与(1日おき) が一般的 または月水金投与
- 体重により投与量調整
- ステロイド併用可
◆ 検査頻度
- 投与開始〜1ヶ月:2週に1回
- 落ち着いたら:月1回
- 血液検査(腎・肝・白血球)必須
◆ 効果判定
- 2〜4週間で“進行が止まったか”を評価
- 効果がない場合は早期に中止判断することもある
副作用と対処法
比較的副作用は弱いが、以下は要注意。
🟨 よくある副作用
- 食欲低下
- 軟便・下痢
- 嘔吐
- 体重減少
🟥 要注意(まれ)
- 高度な腎障害
- 肝数値上昇
- 高血圧
- 白血球減少
◆ 対処
- 副作用強い → 休薬 or 投与間隔延長
- 食欲不振 → 食事工夫・制吐剤
- 下痢 → 整腸剤・投薬調整
“副作用の管理ができて初めて Palladia が使える” と考えればOK。
他治療との比較|手術・放射線・ステロイド
🟦 手術
- 最も効果がある
- 完治は難しいが、痛み改善は劇的
- 顎骨浸潤で不可能なことも多い
🟥 放射線治療
- 手術不可の場合の最善治療
- 痛み・腫瘍の大きさ改善
- 数ヶ月〜1年のQOL改善が期待
🟧 ステロイド
- 食欲アップ・炎症軽減
- 即効性がある
- 長期では効果が弱まる
🟨 Palladia(今回)
- 劇的効果は少ない
- “進行を遅らせる”補助治療
- 在宅でできる
- 副作用は比較的管理しやすい
飼い主さんによく聞かれる質問(FAQ)
Q. 完治しますか?
→ しません。QOL改善と延命目的です。
Q. どれくらい費用がかかる?
→ 数千円〜1万円台/週が多い(投与間隔により変動)。
Q. 高齢猫でも使えますか?
→ 腎臓・肝臓が安定していれば可能です。
Q. 併用していい薬は?
→ ステロイド・NSAIDs など多くの薬が併用可能。
Q. 効果がない時はどうする?
→ 2〜4週間で判定し、早めに中止して他の治療へ切り替えます。
まとめ
- 猫の口腔内扁平上皮癌は 完治が難しい腫瘍
- Palladia は 進行抑制・QOL改善の補助治療
- 手術・放射線ができない時の選択肢として有効
- 副作用は比較的軽いが、検査は必須
- 効果に個体差が大きく、過度な期待は禁物
- “少しでも食べる・痛くない時間” を伸ばす治療
猫ちゃんのQOLを第一に
「その子に合った最適なライン」を選ぶことが大切 です。
いずれにせよ、扁平上皮癌は手ごわいということ。
しかし、最期までできることはあるということ。
そのなかの光のひとつにパラディアという薬があります。ただしこの薬はまだデータが多くないので良くも悪くも今後の更なるデータを必要としています。
口腔内の扁平上皮癌が見つかり、『顎をとりましょう』と言われたけどそれは辛い、
でも何かしてあげれることはないかな、そんな飼い主様に少しでもお役に立てれば幸いです。
更新日:2025/11/23猫ちゃんも長生きになり、腫瘍に出会うことは決して珍しくなく、また、不運だ、と片付けることはできません。多くの場合は、長生きできたからこそ腫瘍に患うのです。ヒトも犬[…]

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