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獣医師が伝える犬猫の病気や治療の考え方

犬の咳(せき)の原因と治療|心臓・気管・肺の病気を獣医師が徹底解説~気管虚脱と咳~

更新日:2025/12/9

中高齢の犬猫(特に犬)において咳をし始めることは多く、その原因としては気管虚脱であることが多いです。

しかし、中高齢における咳は肺の腫瘍など肺の問題であることもあり、正しい診断とケアが必要となります。

お家の子は咳していませんか❔

どのような咳をしていますか❔

犬の咳は、
気管・肺・心臓・感染症など、さまざまな病気のサイン です。

「散歩のあとにケホッとする」
「夜だけ咳が多い」
「なかなか治らない」

このような咳の裏に、
気管虚脱・気管支炎・僧帽弁閉鎖不全症・肺炎・肺水腫 などが隠れていることがあります。

この記事では、
犬の咳の主な原因・病院での検査・治療・家庭での注意点 を獣医師がわかりやすくまとめています。

犬の咳とは?

咳は、
気道に炎症・刺激・圧迫が起きることで発生する防御反応 です。

犬では次の部位の異常が咳の原因になります:

  • 気管
  • 気管支
  • 心臓(特に僧帽弁閉鎖不全症)

特に小型犬では 気管虚脱 が多く、
高齢犬では 心臓病による咳 もよく見られます。

犬の咳の主な原因(分類して解説)

■ ① 気管・気道の病気

  • 気管虚脱(小型犬で多い)
    → ガーガー、ガチョウのような咳
  • 気管支炎
    → 朝や興奮時に多い
  • 誤嚥性気管支炎
  • 異物(骨片、草など)

■ ② 肺の病気

  • 肺炎
  • ケンネルコフ(感染症)
  • 肺水腫(心臓病関連)
  • 腫瘍(肺がん、転移)

肺の病気では、
「ゼーゼー」「呼吸が早い」など呼吸困難を伴いやすいことが特徴です。


■ ③ 心臓の病気

特に 僧帽弁閉鎖不全症(高齢の小型犬) で咳が見られます。

症状:

  • 夜・早朝に咳が出る
  • 運動後に苦しそう
  • 呼吸が浅く早い
  • 咳が長く続く

この病気は進行すると 肺水腫(命に関わる状態) を起こすため、早期診断が重要です。

危険な咳のサイン(早めに受診すべき)

以下の症状がある場合は、できるだけ早めの受診が必要です。

  • 息が荒い
  • 横になれない
  • 舌が紫っぽい
  • 咳が止まらない
  • 咳と同時に失神する
  • 発熱がある
  • 食欲が落ちている

呼吸困難は緊急症状 です。

病院で行う検査

咳の原因により検査内容は変わります。

  • 身体検査(心雑音・気管の反射)
  • レントゲン(気管・肺・心臓の評価)
  • 心臓エコー(僧帽弁の逆流・心拡大)
  • 血液検査(感染症、炎症)
  • 気管支鏡(異物・病変の確認)
  • CT検査(肺の詳細評価)

心臓病か肺の病気かを見極めることが治療の第一歩 です。

咳の原因別治療

■ ① 気管虚脱

  • 体重管理
  • 咳止め
  • 気管支拡張薬
  • 炎症を抑える治療
  • 重症例では外科治療(ステントなど)

■ ② 気管支炎

  • 抗炎症薬
  • 咳止め
  • ネブライザー
  • アレルギーが関与する場合もある

■ ③ 感染症(ケンネルコフなど)

  • 抗生剤
  • 咳止め
  • 安静

※ 子犬・高齢犬では重症化に注意。


■ ④ 肺炎

  • 抗生剤
  • 点滴
  • 酸素室
  • 必要に応じて入院治療

■ ⑤ 心臓病(僧帽弁閉鎖不全症)

  • 心臓薬(血管拡張・強心薬など)
  • 利尿剤(肺水腫の改善)
  • 塩分の調整
  • 定期的なエコー検査

心臓病の咳は「心臓薬なしでは改善しない」ことが多い です。


■ ⑥ 肺水腫(緊急)

  • 酸素治療
  • 利尿剤
  • 入院管理

命に関わるため、すぐに治療が必要です。

気管虚脱とは❔

気管虚脱は気管の扇平化により、

咳や呼吸困難などの呼吸症状をともなうようになる疾患のことを指します。

気管は本来筒のような構造であり、靱帯によってその構造が保たれていますが、

加齢とともに靱帯が緩むため扁平化します。

気管が扁平化すると、気流の乱流により、気道を刺激し咳を誘発し、

気道内の浮腫や炎症を助長するため、負のスパイラルとなり咳が続きます。

気管虚脱の症状と診断

気管虚脱はすべての品種に発生しますが、発生しやすい犬種があります。

とくに多い犬種として、

・ヨークシャー・テリア

・ポメラニアン

・プードル

・マルチーズ

などの小型犬種が多く、肥満の子は悪化しやすく、

発症年齢は1歳~5歳とさまざまです。

症状は数秒から数分間にわたって続く乾いた咳であり、

ガチョウのようないびき音とよく言われます。

お家でできる診断は、上記の所見に加えて、

喉の気管を外から少し押して刺激し、すぐに咳が誘発されるかの確認です。

これをカフテストといいます。気管虚脱では、この誘発試験で咳が容易に誘発されます。

また、レントゲン検査において呼吸に伴って気管が細くなっているかどうかを確認し確定診断します。

このレントゲンでは、肺の腫瘍や肺炎などほかに咳を誘発する病気がないか確認します。

それってホントに気管虚脱❔

よく咳をしているから気管虚脱だ、とレントゲンも撮らずに決めつける人もいますが、気管虚脱以外でも咳はします。

気管虚脱以外の可能性も考慮すべきなのは、

・元気食欲の低下や呼吸様式の変化を伴う

・中高齢で急に咳が出始めた

・猫がコンコン咳をする

・一日中止まることなく湿ったような咳をする

・心臓病をもっている

これらの場合は肺炎や心臓病、肺腫瘍などの可能性もありますのでかならずレントゲン検査を行いましょう。

気管虚脱の治療

治療は咳や呼吸困難の度合いにより内科治療
あるいは根治を目指した外科治療のどちらかを選択します。

外科治療では扁平化した気管を形成する気管外プロテーゼあるいは気管内ステントの装着手術を行いますが、

手術リスクが高く、手術可能な施設も限られているため、姑息的な内科治療がメインになります。

内科治療として、

まず重症度に関わらず気管虚脱の子全頭行うべきこととして、

・体重のコントロール(最も大切)

・興奮させない

・涼しい生活環境づくり

を行います。

それでも夜が眠れないほど咳がでたり、舌の色が紫色になるほど咳が続く場合は、

・気管支拡張薬

・ステロイド剤(気管粘膜の腫れを抑える)

・鎮咳薬(麻薬性)

・精神安定剤

などの内服薬を随時追加しコントロールします。

多くの場合は命に関わることは少ないですが、

ときに死につながる場面があります。

気管虚脱で死ぬ❔

基本的に気管虚脱のみで命に関わり、寿命が短くなることは少ないです。

しかし、ときに気管虚脱が原因で命に関わる場合があります。

それは、肥満による上部気道閉塞(いびき)を伴い、発作や熱中症が重なった場合や、

喉頭炎や気管支炎を伴い重症化した場合です。

臨床上命に関わる時として多いのは、前者の、

持病として気管虚脱をもち、肥満で熱中症や発作を起こし呼吸困難になった場合です。

気管虚脱の子はなるべく痩せることが大切です。

該当する場合は、気管虚脱持ちで熱中症により若くして亡くなったこのコラムをご覧ください。

熱中症の重度の後遺症により回復できなかったフレブルのお話

家庭でできるケア

  • 太りすぎを防ぐ
  • 散歩中の強い引っぱりを避ける(気管刺激)
  • ハーネスを使用する
  • 寒暖差を避ける
  • 乾燥しすぎない環境にする
  • 咳が増えるタイミングを記録する

慢性の咳は 生活環境の調整で楽になるケース も多いです。

よくある質問(FAQ)

Q. 咳止めだけでは治りませんか?
→ 原因が治らない限り、咳止めだけでは一時的な改善です。

Q. 咳が一日に数回あるだけなら大丈夫?
→ 気管虚脱や心臓病の初期のサインのことがあります。

Q. 咳とくしゃみの違いは?
→ 咳=呼吸器の奥、くしゃみ=鼻・上部気道の反射です。

Q. 咳が出たらすぐレントゲンが必要?
→ 原因を絞るため、ほとんどのケースで役立ちます。

まとめ

・犬の咳は気管・肺・心臓など多くの病気が原因

・小型犬では気管虚脱、高齢犬では心臓病が多い

・呼吸が苦しそうなら緊急受診

・検査はレントゲン・エコーが中心

・原因別に薬・酸素治療・外科など治療方法が異なる

・家庭での体重管理・環境調整も重要

気管虚脱は基本的に付き合う病気で、命に直結することは少ないです。

しかし、適切な体重や生活環境を整えてあげれなければ、犬猫は苦しく、快適に眠ることができません。

おうちの犬猫が咳をしている場合は、今回の内容を踏まえしっかり観察し、管理していただければと思います。

呼吸が荒く酸素室が必要なことも多いです。

そのような状況の場合は以下を参考にしてください。

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