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獣医師が伝える犬猫の病気や治療の考え方

犬の脾臓の腫瘍~本当に血管肉腫?手術する/手術しない場合と余命~

更新日:2025/11/23

健康診断や急な体調不良で「脾臓に影がある」と言われると、飼い主さんはとても不安になります。
特に “血管肉腫” という言葉を聞いた瞬間、ほとんどの方がショックを受けます。

しかし、実際には 脾臓の腫瘤=血管肉腫とは限りません。
良性のしこりや、別の腫瘍のことも多く、見つかった時点での判断はとても難しいのです。

この記事では獣医師として、脾臓腫瘍の種類・血管肉腫の特徴・検査・治療・余命・手術判断まで、
飼い主さんが後悔しないために必要な情報をすべてまとめました。

お腹の中で出血しています。

悪性の血管肉腫の可能性が高いです。

余命はあと数日です。

このような急な宣告を受けて頭が真っ白でどうすればいいかわからないということがあるかもしれません。

このような場合の腫瘍科医の考えかたをお話しします。

犬の脾臓腫瘍とは?基本のポイント

脾臓は血液を貯めたり、古くなった赤血球を処理したり、免疫に関わる重要な臓器です。

ここに“しこり”ができると、

  • 良性腫瘍
  • 悪性腫瘍
  • 血腫(血の塊)
  • 過形成(反応性のしこり)

など、多くの病変の可能性があります。

脾臓のしこりは、健康診断の超音波検査で偶然見つかることも多いです

血管肉腫とはどんな腫瘍?

血管肉腫(HSA:Hemangiosarcoma)は、血管の内皮細胞ががん化した腫瘍です。
犬で非常に悪性度が高く、脾臓にできやすい腫瘍のひとつです。

◆ 特徴

  • 進行がとても早い
  • 破裂すると致命的な腹腔内出血を起こす
  • 早期から転移しやすい(肝臓・肺・心臓など)
  • 高齢犬に多い

血管肉腫の好発犬種と部位

血管肉腫は血管の壁が腫瘍化した腫瘍なので年齢を重ねるといかなる犬種でもいかなる部位でも発生します。

しかし、発生しやすい犬種や部位もあります。

腫瘍科獣医師も摘出前に腫瘍の種類を言い当てることはほとんどの場合できません。

そのためこのような起こりやすい犬種か、部位かなど様々な情報をかき集めなるべく正しい判断になるように心がけ治療方法をご相談しています。

血管肉腫の好発犬種と言われているのは、

・シェパード

・ゴールデン/ラブラドールレトリバー

・M.ダックス

・M.シュナウザー

・W.コーギー

などと言われており、実際に臨床上も多く遭遇します。もちろんほかの犬種でも発生します。

発生しやすい部位としては多い順に、

・脾臓

・心臓(右心房)

・皮膚

・肝臓

・後腹膜

・骨

などです。

では、脾臓にできものがある場合はみんな血管肉腫でしょうか。

答えはNO。

多くの獣医師はリスクヘッジとインフォームの流れから最悪を想定してどうしても血管肉腫の可能性を強くお伝えしています。

もちろん脾臓の悪性腫瘍の約半分近くは血管肉腫といわれ、圧倒的に高いですが、それ以外のできもののことも実際には多いため正しく判断し早期に治療してあげることが大切です。

では血管肉腫以外にどのような腫瘍が発生するでしょうか。

脾臓の腫瘍=血管肉腫とは限らない理由

◆ 良性腫瘍も多い

  • 結節性過形成
  • 血腫(出血して固まったもの)
  • 良性血管腫
    (gontasensei.com)

◆ 他の悪性腫瘍のこともある

  • 肥満細胞腫
  • リンパ腫
  • 平滑筋肉腫
    など。

◆ 偶発的な“影”で見つかるケースがある

ワンちゃんが元気で、偶然影だけ見つかる場合、悪性とは限らない。

◆ 超音波だけでは確定できない

破裂リスクがあるため、
脾臓の針生検(FNA)は危険でできない場合が多い。

そのため

手術して取り出して初めて“どの腫瘍か”わかるケースが多い

というのが現実。

脾臓のできもの本当に血管肉腫?【さらに詳しく】

脾臓にはさまざまな腫瘍が発生します。

特に健康診断などでたまたま脾臓に影が見つかった場合などはそれ以外の腫瘍の可能性の方がむしろ高く適切に冷静に判断します。

そのほかの悪性腫瘍としては、

・その他の肉腫(脂肪肉腫、骨肉腫、間質肉腫、線維肉腫、起源不明肉腫など)

・リンパ腫

・肥満細胞腫

・組織球性肉腫

・転移

などであり、その他に良性腫瘍として

・骨髄脂肪腫(意外と多い)

・血種(意外と多い)

・髄外造血(意外と多い)

・結節性過形成

などがあります。

何よりも大切なことは、これら良性の腫瘍でも巨大化したり破裂して致死的になったりします。

つまり、破裂しているから、大きいからと言って血管肉腫と決めつけてあきらめてはいけないということです。

では、血管肉腫が疑われるのはどのような場合でしょうか。

血管肉腫を強く疑う状況

血管肉腫と良性腫瘍の違いには決定的な圧倒的な違いが存在しています。

血管肉腫との特徴として良性腫瘍との圧倒的な決定的な違いは、

まず転移性(80%)が極めて強いこと

脾臓にできものが見つかった時点で約80%の症例が肝臓や心臓(25%)、肺に転移を持っています。

そのため、脾臓にできものが見つかった場合は焦らずまず全身をしっかり検査します。

レントゲン検査や心臓、腹部超音波検査において脾臓と同じような影か複数見つかってきた場合、血管肉腫の可能性は圧倒的に高くなってきます。

また、脾臓にできものがあり腹水(血腹)がある場合も血管肉腫の可能性が高くなります。

では、血腹の際はどう考えるべきでしょうか。

血腹(腹腔内出血)の症状と対処、原因

まず昨日まで元気だった子が以下のような症状を示した場合お腹の中で出血している可能性があります。

・お腹が張っている

・急な起立困難と虚脱

・粘膜の色が白い

・呼吸促拍や意識の低下

これは極めて出血が疑わしい状況です。

すぐに最も近くの動物病院に駆け込みます。

このような腹腔内出血を引き起こす原因として考えられるものは多い順に、

・脾臓破裂(血管肉腫またはその他の良悪腫瘍)

・肝臓(血管肉腫または肝細胞癌)

・副腎(副腎腫瘍)

などです。

大きなできものが脾臓にのみできている場合は破裂していても良性の場合があります。

つぎに、手術をするかどうか考えていくことになります。

この時考えないといけないことは手術が可能かどうか。これを判断するのは血液検査とバイタルサイン(血圧など)です。

検査の流れと手術適応の判断

脾臓腫瘍の検査は以下の順で進みます。

① 血液検査

  • 貧血
  • 血小板
  • 肝酵素
  • DIC の兆候

血液検査で確認するのはまず、

・貧血の程度(20%以下は手術に際して輸血が必要)

・血小板減少(重度では手術困難)

・血液凝固系検査の異常

ここで考えるのは手術をして血が止まるかどうか。輸血が必要かどうか。

それを判断するのは血小板と血液凝固系検査。

血小板が低い場合や血液凝固系検査が複数異常値の場合はDICと呼ばれ極めて致死的な状況にあると判断され、手術のリスクが極めて高くなります。

このDICについては別のコラムでお話しします。

② 画像検査

  • 超音波(腫瘤の性状・出血)
  • レントゲン(転移)
  • 必要に応じて CT(手術判断に有用)

③ 手術できるかの判断

次の状態では手術リスクが上がる:

肝臓や肺に多発転移

重度の貧血

血小板減少

DIC の疑い

では、手術をした場合、血管肉腫だった場合の余命はどのくらいでしょうか。

血管肉腫のステージ(進行度)と余命

血管肉腫にはステージが1~3と存在しそのステージによって余命が異なってきます。

ステージ1:転移がなく脾臓のできものも5センチ以下

ステージ2:脾臓のできものが5センチ以上または破裂しているが転移はない

ステージ3:遠くの臓器に転移している

このステージごとに余命が変わります。脾臓を摘出した場合、

ステージ1:約半年

ステージ2:約2カ月

ステージ3:約1カ月

辛い数字ですが大切なのは現実逃避せず今ある命と向き合い、どう付き合っていくか、

一緒に最後まで一緒に幸せに過すか、一緒に心から考えることです。なので伝えます。

治療と余命

血管肉腫には治療ごとに余命が異なります。

①脾臓摘出のみ

平均約2カ月

1年生きられる確率約10%

②脾臓摘出+抗がん剤(ドキソルビシン、メトロノミック化学療法、サリドマイド)

平均約半年

1年生きられる確率約10%

治療方法(手術・抗がん剤)

◆ ① 脾臓摘出手術(スプリーン摘出)

腫瘤が脾臓に限局している場合、最も重要な治療。

メリット

  • 出血リスクが減る
  • 診断が確定する
  • 一時的に生活の質が改善

デメリット

  • 高齢犬が多く麻酔リスクがある
  • 転移があると根治は難しい
  • 手術費用がかかる

◆ ② 抗がん剤治療

最も使われるのは ドキソルビシン

目的

  • 再発・転移を遅らせる
  • 生存期間を延ばす

副作用

  • 吐き気
  • 下痢
  • 食欲不振
  • 白血球減少

手術を迷うときの考え方(判断のポイント)

飼い主さんは「手術すべきか?」で必ず迷います。

判断材料になるポイントをまとめました👇

◆ 手術をすすめやすいケース

  • 破裂していない
  • 転移がない
  • 他の臓器が健康
  • 年齢以外に大きな問題がない

◆ 手術を慎重に考えるケース

  • 多発転移
  • DICや重度貧血
  • 高齢で麻酔リスクが高すぎる
  • QOLを最優先したい場合

よくある質問(FAQ)

Q. 破裂=必ず手術ですか?

→ 原則緊急手術が必要ですが、全身状態が整わなければリスクが高くなります。

Q. 手術しない選択はありますか?

→ あります。
痛み管理・貧血管理を中心にした緩和ケアを選ぶご家族もいます。

Q. 手術後どれくらい生きられますか?

→ ステージⅠで抗がん剤併用なら 4〜6ヶ月以上 が期待されます。

Q. 高齢でも手術できますか?

→ 心臓・腎臓・肺の検査でリスクを判断します。高齢でも可能なケースは多いです。

まとめ

  • 脾臓のしこり=血管肉腫とは限らない
  • しかし血管肉腫は進行が早いため 迅速な検査 が重要
  • 手術と抗がん剤が予後改善の中心
  • 緊急症状(血腹)があればすぐ受診
  • 高齢でも状態次第で手術可能
  • 飼い主さんと獣医師で「その子の最善」を相談しながら決めることが大切

大切な最も伝えたいことを最後にもう一度言います。

大切なのは焦る状況の中、冷静に正しく診断/判断し(てもらい)

現実逃避せず今ある命と向き合い、どう付き合っていくか、

一緒に最後まで一緒に幸せに過すか、一緒に心から考えることです。

良性の場合は諦めず頑張って乗り越えこれからもずっと一緒に、

血管肉腫でも残された人生と向き合い1日1日大切にその子の最善が何かを考え過ごしてあげてください。

そのためにこの文章が少しでも参考になれば幸いです。




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