更新日:2025/11/24
犬の首周りに
- しこりがある
- のどの横が腫れている
- 呼吸がゼーゼー
- 声がかすれてきた
といった症状があるときに疑うべき病気のひとつが 甲状腺腫瘍(甲状腺癌) です。
犬の甲状腺腫瘍は
7〜9割が悪性(甲状腺癌) と言われていますが、
✔ “外科手術ができれば長期生存が十分に狙える腫瘍”
でもあります。
この記事では腫瘍科獣医師として
症状・検査(エコー/CT)・治療法
(手術/抗がん剤/放射線)・予後・余命の目安 を
分かりやすくまとめます。
甲状腺はヒトと同じくのどぼとけの近くに存在する臓器で、
体にとって大切な様々なホルモンを分泌している内分泌臓器です。
わんちゃんにおいてこの臓器が大きくなっている場合はその90%は悪性、
つまり甲状腺癌であると言われています。
犬の甲状腺腫瘍とは?
甲状腺腫瘍は、
首の左右にある甲状腺にできる腫瘍 のこと。
🟥 約70〜90%が悪性
= 甲状腺癌(Carcinoma)
進行すると肺に転移しやすい。
🟩 良性(腺腫)もあるがまれ
大きくなる前に見つかることが多い。
🟧 片側・両側どちらにも発生可能
片側のみが多いが、両側のこともある。
よくある症状
🟥 首のしこり
最も多い症状。
飼い主が“触って気づく”ことが多い。
🟥 呼吸がゼーゼー
腫瘍が気管を圧迫して息がしにくくなる。
🟥 声のかすれ
反回神経が圧迫されて声が変わる。
🟥 嚥下が難しい
ご飯が飲み込みにくくなる。
🟥 咳
気管・食道圧迫の影響。
🟧 甲状腺ホルモン異常(まれ)
- 低下:だるい、体重増加
- 上昇:落ち着きがない、体重減少
※犬ではホルモン変化は少ない。
転移しやすい場所
犬の甲状腺癌は
血行性転移(血液に乗って広がる) が多い。
転移しやすい順:
- 🟥 肺(最も多い)
- 🟥 リンパ節
- 🟧 肝臓
- 🟧 骨
※診断時点で 20〜40% はすでに転移があると言われている。
診断方法(血液・エコー・CT)
✔ ① 血液検査(甲状腺ホルモン)
- T4(総サイロキシン)
- fT4
- TSH
腫瘍があっても
→ 正常なことが多い(9割以上)
✔ ② 触診
腫瘍が 動くか/動かないか が重要。
- ✔ 動く:早期(手術しやすい)
- ✘ 固い&動かない:血管・周囲組織へ浸潤
✔ ③ 超音波検査(首)
- 腫瘍の大きさ
- 気管や血管への圧迫
- 反対側の甲状腺の状態
- 周囲リンパ節
✔ ④ CT検査(最重要)
手術前には必須レベル。
CTで分かること
- 手術が可能かどうか
- どこまで広がっているか
- 気管・食道・血管への浸潤
- 肺への転移
甲状腺癌の診断
甲状腺癌は頸部ののどぼとけ近くに発生しますが、
その他にも同じ場所に発生する腫瘍があるので、まずはその腫瘍が甲状腺癌であることを
画像診断(頸部超音波検査、CT検査)と細胞診検査によって行います。
甲状腺癌とよく間違われる頚部の腫瘍には
・リンパ腫
・血管肉腫
・脂肪腫
・肥満細胞腫
・軟部組織肉腫
などで、これらの見分けは細胞診検査で行いますが、腫瘍に経験豊富な獣医師の判断が必要となることもあります。
ステージ
甲状腺癌の治療を考える上で進行ステージはとても大切です。
ステージは1~4まで存在しており、
1)腫瘍の大きさが2センチ未満で転移がない
2)リンパ節転移がある
3)腫瘍の大きさが5センチ以上ある
4)他の臓器(遠隔)転移がある
の4つです。
治療と余命
治療としては
①外科的摘出
②放射線治療
③内科治療(抗がん剤)
の3つが主になります。それぞれの治療はメリットとデメリットがありますので、その子の年齢や全身状態、進行ステージを加味して考えます。
基本的には可能な限り①外科的摘出を行います。
理由として、外科的摘出を行った場合の余命は2~3年以上期待でき、
転移を認めている場合でも転移病変の進行は比較的ゆっくりであるためです。
治療法|手術が最も有効
犬の甲状腺腫瘍は
手術できれば長期生存率が高い ことで知られている。
🟩 手術が有効な理由
- 腫瘍をすべて取りきれる
- 肺転移がなければ完治も狙える
- 片側摘出ならホルモン投与不要のことが多い
🟥 手術の難易度
腫瘍が 動かない(固定されている) 場合は
大血管(頸動脈/頸静脈)へ浸潤している可能性があり、
難易度が上がる。
また、甲状腺癌は大きくなると気管を圧迫するようになるため、呼吸困難を防ぐためにも実施します。
しかし、あまりに大きすぎて摘出が困難な場合は
②放射線治療
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または
③抗がん剤治療 を検討します。
手術が難しい場合の治療(放射線・抗がん剤)
🟦 ① 放射線治療(特に大型腫瘍)
- 腫瘍の縮小が期待できる
- 気管圧迫の改善
- 手術困難例の“第一選択”になることも
🟨 ② 抗がん剤
甲状腺癌は抗がん剤が効きにくいが、
転移がある場合や全身療法が必要な場合に使用。
よく使う薬
- ドキソルビシン
- カルボプラチン
- Palladia(トセラニブ)※分子標的治療薬
甲状腺癌に効果を認める抗がん剤として、パラディアがあります。
パラディア(トセラニブ)治療
パラディアは肥満細胞腫という腫瘍に開発されましたが、近年さまざまな腫瘍への効果が見つかっており、
甲状腺癌や扁平上皮癌においても腫瘍縮小が期待されます。
以下にまとまっています。
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予後(生存期間のデータ)
研究データでは:
🟩 手術で完全切除できた場合
生存期間:3年以上も多い
長期生存(5年以上)の報告もある。
🟧 放射線のみ
平均 1〜2年
🟥 転移あり(肺)
- 進行は遅め
- 生存は半年〜1年程度が多い
- Palladia で延命が期待できるケースもある
放置するとどうなる?
- 呼吸が苦しい
- 食べにくい
- 腫瘍がどんどん大きくなる
- 気道閉塞
- 肺転移で呼吸不全
- QOL(生活の質)が大きく低下
甲状腺腫瘍は 放置は絶対にNG.
飼い主が気づきやすいチェックポイント
- 首にしこり
- 触ると硬い
- 呼吸がゼーゼー
- 咳
- 食べにくそう
- 声が変わる
- 体重減少
- 活動量低下
※片側だけ腫れることが多い。
よくある質問(FAQ)
Q. 両側でも手術できる?
→ 可能。ただしホルモン剤の内服が必要。
Q. 手術後に薬は必要?
→ 片側だけなら不要のことが多い。
Q. 高齢でも手術できる?
→ 心臓・腎臓の状態が安定していれば可能。
Q. 転移があったら治療できない?
→ いいえ。放射線・Palladia で延命できるケースもある。
まとめ
- 犬の甲状腺腫瘍は 70〜90%が悪性
- 最も多い症状は 首のしこり
- 診断には CTが必須
- 手術ができれば長期生存が期待できる腫瘍
- 手術困難例は 放射線 が有効
- 抗がん剤は補助的(転移時)
- 放置は危険:気道圧迫・転移・呼吸不全
甲状腺腫瘍は
“早期発見で未来が変わる腫瘍”
甲状腺癌は悪性の腫瘍ではありますが、
進行は比較的ゆっくりであり、呼吸困難などクビの局所で悪さをしないうちに治療をしてあげることで
長生きすることも可能です。
悪性腫瘍だから、クビの手術はリスクが高いから、との理由で諦める前に腫瘍専門のセカンドオピニオン診療もぜひご検討ください。
