更新日:2025/12/9
スコティッシュフォールドの「折れ耳」はとても人気がありますが、
その特徴は 遺伝性の骨軟骨異常(軟骨異形成症:Osteochondrodysplasia / OCD) と深く関わっています。
折れ耳はかわいらしい見た目を作る一方で、
痛み、関節の変形、歩行異常、生涯にわたる管理が必要になる可能性 がある遺伝的な特徴です。
この記事では、
スコティッシュフォールドの遺伝、骨の病気、症状、診断、治療、飼育の注意点 を
獣医師がわかりやすく解説します。
最近は猫ちゃんを飼われている方が多く、飼育頭数は犬を上回り始めています。
なかでも、写真のような垂れ耳のスコティッシュちゃんはとても愛嬌があり可愛いので、好きな品種のひとつです。
ただ、この垂れ耳のスコティッシュちゃんは可愛いものの、垂れ耳遺伝子と関節の病気が関連しており、悩ましいことが多いですので、今回はこの病態に関して病態や治療、予防についてお話しします。

垂れ耳遺伝子と関節の病気
スコティッシュフォールドはスコットランドの農家の猫とブリティッシュショートヘアーの間に生まれた突然変異の雌猫を起源として交配され始めた純血種です。
スコティッシュフォールドは垂れ耳と立ち耳がいますが、垂れ耳の遺伝子と軟骨形成異常の疾患が遺伝的に強い関連があり、垂れ耳どおしの交配によって産まれた猫ちゃんは強くこの症状がでます。
そのため、最近は垂れ耳のスコティッシュどおしの交配はなるべく避けるようにしています。
この垂れ耳のスコティッシュフォールドが罹患する関節の病気を進行性の骨軟骨異形成症といいます。
スコティッシュフォールドの折れ耳は「遺伝子」が原因
折れ耳の猫は Fgf5(FGF5とは別の、一般的にはTRPV4遺伝子変異) と呼ばれる遺伝的変化により、
軟骨の発育が弱いことで耳が前に折れています。
つまり折れ耳は、
- 単なる特徴ではなく
- 軟骨の成長に異常がある「遺伝性の骨の病気」と関連
しています。
遺伝の仕組み(重要)
折れ耳 = 優性遺伝子(Fd)
立ち耳 = 劣性遺伝子(fd)
組み合わせで特徴が決まります。
| 親の組み合わせ | 子猫の特徴 |
|---|---|
| 折れ耳 × 立ち耳 | 多くは折れ耳になる(最も推奨される組み合わせ) |
| 折れ耳 × 折れ耳 | 重度の骨軟骨異形成症が出る危険性が非常に高い |
| 立ち耳 × 立ち耳 | 折れ耳は生まれない |
ブリードの世界では
折れ耳同士を交配してはいけない
という国際的なルールがあるほどです。
骨軟骨異形成症とは
軟骨が正常に発達しない病気で、
耳だけでなく 全身の関節の軟骨が変形しやすくなる 遺伝疾患です。
とくに影響しやすい部位:
- しっぽ
- 足(かかと・手首・足首)
- 脚の長骨
- 背骨周り
- 全身の関節
成長とともに症状が出るため、子猫時代は気づかれず、
1〜2歳頃から痛みや歩き方の異常として目立ち始めます。
症状は、歩様異常や痛み、あまり動きたがらないなど様々です。
この症状は5カ月齢から6歳の間に発現することがほとんどで、その罹患年齢や重症度、進行速度はその子のよって様々です。
つまり、垂れ耳遺伝子をもつスコティッシュフォールドは遅かれ早かれ、軽度から重度様々な関節の問題を引き起こすことになるのです。
骨軟骨異形成症(OCD)の主な症状
症状の重さには個体差がありますが、次のような特徴がみられます。
よく見られる症状
- うさぎ跳びのような歩き方
- 段差を嫌がる
- 高くジャンプできない
- 足を引きずる・跛行
- 触ると痛がる
- 尾の可動性が低い(しっぽが硬い)
- 関節が太く見える
- じっとしている時間が長い
痛みが強い場合、生活に大きく支障が出ます。
OCDが重くなる理由(折れ耳 × 折れ耳の危険性)
折れ耳遺伝子(Fd)を2つ持つ組み合わせ
Fd/Fd(折れ耳×折れ耳交配)
では症状が重度になります。
特徴
- 関節が若い頃から強く変形
- 歩行困難
- 慢性的な痛み
- 生涯治療が必要
- 生活の質(QOL)が低下
多くの国で 折れ耳同士の繁殖は禁止または強く非推奨 です。
診断方法
以下の情報と検査を組み合わせて診断します。
- 歩き方の異常
- 関節の可動域の低下
- しっぽが硬い
- 関節・骨の触診
- レントゲン検査(関節の変形を確認)
- CT検査(詳細評価)
とくにレントゲンでは:
- 関節の形が丸く太く見える
- 骨の増殖(骨棘)
- 脛骨・大腿骨など長骨の変形
などが診断の決め手になります。
治療は?
遺伝子にコードされる病気ですので、完全に起こさなくする予防/治療法は基本的にありません。
治療のメインは症状の緩和ケアになります。
主な治療
- 消炎鎮痛薬(NSAIDs)
- 痛み止めの併用
- 関節サプリメント
- 体重管理(負担軽減)
- 段差を避ける生活環境
- 定期的なレントゲンチェック
重度の場合:
- 骨の切除(専門医による手術)
- 関節固定
- 外科的な矯正
が必要なこともあります。
まず生活の質が低下するほどに重度の骨変形を起こしており、内科的な治療に反応が乏しいほど痛みが激しい場合は、痛みを引き起こす骨を除去する外科的な手術や、痛みを緩和するための放射線治療があります。
この放射線治療は近年報告され始めた治療であり、2~4週間に一度の放射線照射を計6回行うことで、約2年以上痛みを起こさなくなったとの報告があります。費用は施設により異なりますが、一回当たりおよそ5~10万円が相場でしょうか。
しかし臨床経験上ここまでの治療を必要とすることは少なく、多くの場合は飲み薬やサプリメントによって痛みや運動性を緩和することによって生活の質を保てることがほとんどです。
そのため、骨軟骨異形成症を起こしているスコテイッシュちゃんは症状をみながら痛み止めの薬と関節を守るサプリメントを内服されています。
生活の中でできるケア
- 軽い運動はOK、激しい運動は避ける
- 高い場所へのジャンプを減らす(ステップ使用)
- 爪切りをこまめに行う
- 滑らない床材を敷く
- 太らせない(最重要)
- 寒さで痛みが悪化するため暖かい環境を保つ
生活環境の調整が痛みの軽減に大きく影響します。
スコティッシュフォールドを迎える前に知るべき重要ポイント
- 折れ耳は「かわいい特徴」ではなく 骨軟骨異形成症に由来
- 遺伝病のため、重症化する可能性がある
- 立ち耳スコティッシュでも軽度症状が出ることがある
- 責任あるブリーダーは折れ耳×折れ耳を繁殖しない
- 迎える際は親猫の情報を確認することが大切
理解した上で迎えることで、
猫の負担の少ない生活を整えることができます。
よくある質問(FAQ)
Q. 折れ耳でも健康な子はいますか?
A. はい。症状が軽い子・ほとんど出ない子もいますが、遺伝的なリスクは必ずあります。
Q. しっぽが硬いのは病気ですか?
A. 軟骨異形成症の典型的なサインのひとつです。
Q. 歩き方が変なのですが治りますか?
A. 完治は難しいですが、治療と環境改善で痛みを軽減できます。
Q. 遺伝子検査は必要?
A. 将来のリスク評価に有用ですが、症状の有無は検査だけで完全には判断できません。
まとめ
- 折れ耳は遺伝的な「軟骨異形成症」と関連する特徴
- 骨や関節が変形し、痛み・歩行障害が出ることがある
- 重症例は生涯治療が必要
- 折れ耳×折れ耳の繁殖は重症化し極めて危険
- 治療は痛みコントロール・生活環境の調整が中心
- 正しい知識を持つことが、猫のQOLを守る第一歩
スコティッシュフォールドは穏やかで愛らしい性格ですが、
遺伝的な骨の問題を正しく理解してケアすることがとても大切です。
猫ちゃんはとても強い動物なので、ヒトや犬のようにあまり弱みを見せません。スコティッシュちゃんも可愛らしい外貌の反面、とても心が強い品種なので、痛みがあっても症状に気づけていないことがほとんどです。
動きづらさや運動量の低下は加齢ではなく、関節の痛みであることが多いです。
動物は言葉を話せませんので気づけていないことがとても多いです。
以下に獣医師の視点から、
治療中の猫に現実的に選ばれているフードをまとめまています。
▶︎ 猫に配慮したフードの考え方を見る
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