更新日:2025/11/23
猫のリンパ腫は、
「治療すれば大きく良くなるケース」 と
「難しいケース」 が極端に分かれる腫瘍です。
ネットにはいろんな情報があるけれど、
治療現場の獣医師としては “本当に大切なポイント” は別にあります。
この記事では
- リンパ腫の種類
- それぞれの治療法
- 余命の目安
- 治療費の目安
- 副作用の実際
- どの子にどの治療が合うか
を、最新の知見+臨床経験ベースでまとめています。
✔ 「治療してよかった」
✔ 「治療すれば助かったのに…」
と結果が分かれてしまう病気だからこそ、
正しい知識を一度ここで整理してほしい。
自分は腫瘍の二次診療まで従事していますので猫ちゃんのリンパ腫は数多く経験し、様々な治療を行っています。
過去の猫ちゃんのリンパ腫の治療経過とどのような転帰をたどったかについて経験をお話しします。

正しい理解とネットの誤情報
猫ちゃんのリンパ腫を理解するのはとても難しいです。
ただでさえ難しい病態な上に、診察室では気が動転してしまうことと思います。
猫ちゃんのリンパ腫はその子によって実はさまざまなタイプがあるので、
『猫のリンパ腫』とまとめて考えること自体正しくありません。
ネット上には様々な情報が流れます。
しかし、みんな異なるリンパ腫で異なる治療結果であることがほとんどなので鵜呑みにせず参考にしておくのが賢明です。
猫のリンパ腫の予後の考え方
①高悪性度か低悪性度か
猫ちゃんのリンパ腫は予後の悪い高悪性度リンパ腫(低分化)と予後がマイルドな低悪性度リンパ腫(高分化)に大別されます。
低悪性度リンパ腫は内科的な治療によって年単位で頑張ることができます。
高悪性度リンパ腫は治療が大変であり、一般的に猫のリンパ腫と言われるとこれを指していることが多いです。
本コラムでも高悪性度リンパ腫のお話をします。
②どこのリンパ腫か
リンパ腫は血液のガンなので体のあらゆる部位で発生します。
その発生部位によってでる症状や予後がちがいます。
FeLVウィルスを有する猫ちゃんは若くてもリンパ腫を発症します。
以下に簡単にまとめます。
縦隔型リンパ腫:胸の中に腫瘍ができるため呼吸が苦しくなる。
多中心型リンパ腫:体(多くは頸部)のリンパ節が腫れるので、喉の違和感や息のしづらさがある。
消化器型:お腹の中に腫瘍ができ、下痢や嘔吐などの消化器症状がでる。
鼻腔内型:鼻の中に腫瘍ができ、鼻血や鼻水、呼吸困難が生じる。
猫の鼻腔に発生する腫瘍はほとんどが悪性で、リンパ腫がも っとも多く、その他に腺癌 扁平上皮癌 未分化癌という上皮系腫瘍が続きます。稀に軟骨肉腫線維腫,骨肉腫などの非上皮系腫瘍の発生も認められ。多くの猫の鼻腔腫瘍は犬の鼻腔腫瘍と同様[…]
その他、発生はやや少ないが腎臓型、中枢神経型、眼窩型、皮膚型などが存在しています。
まとめると、
🟩 小細胞リンパ腫(低グレード)
- 進行が遅い
- 主に「消化器型」に多い
- 内服治療(クロラムブシル+ステロイド)で管理しやすい
- 予後:1.5〜3年以上も十分ありうる
🟥 大細胞リンパ腫(高グレード)
- 進行が早い
- 抗がん剤(CHOP/COP)が必要
- 予後:数ヶ月〜1年弱
🟦 鼻腔型リンパ腫
- 治療次第で比較的良好
- 放射線治療との相性が良い
- 予後:1〜2年、生存例も多い
🟧 縦隔型(胸腔)・腎型・皮膚型など
- 型により難易度が大きく異なる
- 若齢猫の縦隔型は FeLV 陽性多い
- 治療で改善するケースはそれなりにある

治療がうまくいきやすいタイプ(良性経過が期待できるリンパ腫)
◎ 小細胞(低グレード)リンパ腫
➡ 診断さえつけば最強クラスに治療成績が良い。
治療:クロラムブシル+ステロイド
- 副作用が非常に少ない
- 自宅で管理しやすい
- 年単位の寛解が期待できる
◎ 鼻腔型リンパ腫
➡ 放射線との相性がよく、改善例が多い。
- 腫瘍が縮小
- 呼吸が楽になる
- 通院頻度は短期間集中的
進行が早く難しいタイプ
❌ 大細胞(高グレード)リンパ腫
- 抗がん剤が必須
- 寛解すれば大きく改善する
- しかし再発も多い
❌ 多臓器浸潤型(肝臓・腎臓・脾臓など)
- 体調が落ちている場合は治療が難しいことも
治療方法まとめ(表で比較)
| 治療 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| クロラムブシル+ステロイド | 副作用少ない、長期寛解、通院少ない | 効果判定に時間がかかる |
| 抗がん剤(CHOP/COP) | 大幅な改善が期待できる | 通院多い、副作用管理必要 |
| 放射線治療 | 鼻腔型最強、局所制御◎ | 施設が限られる、費用高い |
| ステロイドのみ | 食欲改善、短期QOLアップ | 効果が持たない |
| 緩和ケア | 自宅中心、負担が少ない | 腫瘍進行は止まらない |
抗がん剤治療の実際(プロトコール・通院・副作用)
◆ 主なプロトコール
- CHOP(最も効果が高い)
- COP(通院負担が少し軽い)
◆ 通院スケジュール
- 週1〜隔週
- 2〜3ヶ月を1クール
- 血液検査は毎回必須
◆ 副作用(猫は犬より出にくい)
- 食欲不振
- 下痢・嘔吐
- 白血球減少
- まれに腎臓への影響
治療中は痩せないために十分な栄養管理が大切です。
腫瘍治療中の猫にに現実的に選ばれているフードをまとめまています。
▶︎ 腫瘍の猫に配慮したフードの考え方を見る
※本記事は、獣医師の立場から高タンパクなキャットフードの必要性と、どんな猫に向いているのかを解説しています。普段我々は病気の療法食としてロイヤルカナンやヒルズなどの療法食を処方しますが、それ以外の目的や腫瘍の際の栄養、食欲[…]
◆ 効果判定のタイミング
➡ 2〜4週間で“改善しているかどうか”を評価
反応が無ければ治療変更
余命の目安(治療あり/なし比較)
| タイプ | 治療あり | 治療なし |
|---|---|---|
| 小細胞リンパ腫 | 1.5〜3年以上 | 数ヶ月 |
| 鼻腔型リンパ腫 | 1〜2年 | 数ヶ月 |
| 大細胞リンパ腫 | 6〜12ヶ月(反応良い場合) | 数週間〜2ヶ月 |
| ステロイドのみ | 1〜3ヶ月 | 数週間 |
⭐ “どのタイプか” が最重要。
迷ったときの判断ポイント
✔ その子は高グレードか?低グレードか?
✔ 痛み・嘔吐など“辛さ”はどうか?
✔ 通院は現実的に可能か?
✔ 生活の質をどこまで維持したいか?
✔ 金額・時間の負担はどうか?
→ この5つで治療方針の8割は決まる。
よくある質問(FAQ)
Q. 何歳まで治療できますか?
→ 年齢ではなく “身体の状態” で判断します。16歳でも可能なことも多い。
Q. 副作用は心配?
→ 猫は犬より抗がん剤に強い。副作用は人の抗がん剤ほど重くない。
Q. 完治しますか?
→ 完治ではなく“寛解”を目指します。
Q. どのタイミングで緩和ケアに切り替える?
→ 食べられない・痛みが強い・通院がストレスになってきた時。
1年半頑張った消化器型の猫ちゃんのはなし
この子は、数日前から下痢と吐き気、食欲の低下があり痩せてきたとのことでした。
すぐに血液検査とエコー検査を行い、お腹の中の腸に大きな腫瘍があり、
ご飯が通らなくなっていたため、数日後に腸の一部を切除する手術を行いました。
細胞と組織の検査で高悪性度リンパ腫と診断し、追加の抗がん剤治療を手術後10日から開始しました。
このとき、手術後は見た目上はとても元気で、症状もなくなり、エコー検査でも腫瘍は見られなくなっていました。
それなのに抗がん剤を行った理由は、見えていなくても、体に潜んでいるのがリンパ腫だからです。これを寛解状態と言い、完治とは分けて考えます。
残った見えない腫瘍細胞たちを殺滅するために抗がん剤を始めました。
行ったのは週に1回(UW-25/CHOPプロトコール)抗がん剤を投与するものです。
この猫ちゃんは副作用があまり出ず、ごくたまに吐いたり、食欲が半分になることがありましたが、腫瘍があった時と比べると格段に元気に約半年間の抗がん剤を乗り切りました。
抗がん剤の副作用が強く出てしまう場合はステロイドのみの治療に移行する場合もあります。
【更新:2025年12月12日】わんちゃん猫ちゃんはとても長生きになるとともに腫瘍を患う確率も高まりました。実は、近年ヒトと同様に死因の第一位はがんになりました。これは獣医療が進歩し、ネット含め良い[…]
その後、元気いっぱいで、腫瘍も存在しないため薬をすべてやめて、1ヵ月に1回の検査だけになりました。これを休薬ー寛解といいます。
寛解は、見た目上腫瘍が見えないことを指し、腫瘍細胞が眠っているような状態です。完治とはことなります。
しかし、その後、約1年を過ぎたころ、エコー検査でお腹の中のリンパ節が腫れていることがみつかり、細胞の検査でリンパ腫が再発(再燃といいます)していることが判明し、同じ抗がん剤を再開しました。
すぐに腫瘍は小さくなりましたが、2ヵ月後には抗がん剤しているにもかかわらず腫瘍が大きくなり、
抗がん剤を変更し様々な抗がん剤治療を行いましたが、治療開始から約1年半後にリンパ腫によって亡くなりました。
リンパ腫は、再発すると一度目の抗がん剤より効き目が落ち、腫瘍細胞が強くなるのです。
この猫ちゃんは消化器型のリンパ腫ではとてもよく頑張り、この1年半は大往生です。
この猫ちゃんは抗がん剤治療で頑張れた子の一般的な流れです。
飼い主さまと猫ちゃんの気持ち
リンパ腫治療は副作用ばかりに目が行くことが多いですが、消化器型のリンパ腫は腫瘍のせいで吐き気や下痢になり、とっても苦しみます。
この猫ちゃんも、治療中に抗がん剤の吐き気なども週に何度か経験しましたが、よっぽど楽だったと思います。
一番楽なのは寛解期間ですが、抗がん剤中も腫瘍での苦しみと比べると幾分快適に過ごしていました。
もちろんこれには個体差があります。いかにして抗がん剤と腫瘍と共存するかがポイントです。
飼い主さんはとても長くて短い大変な1年半だったと思います。しかし、猫ちゃんと共に戦い切ったという気持ちが強く、亡くなったことは悲しいものの、単純な悲しみとは違う感情を抱かれているようでした。命と本気で向き合ったからこそ感じることができる命の重みを、儚さを感じられ、一切の後悔はありませんでした。
ペットはいつも先に旅立ってしまいますが、人生の縮図であり、その命から学ぶことは多いです。
正解は一つではなく、最高の治療を受けさせてあげることでもありません。
共に考え、ともに戦い、後悔のない過ごし方をすることだと思います。
まとめ
- 猫のリンパ腫は 種類で治療成績が大きく変わる
- 小細胞リンパ腫は年単位の改善が期待できる
- 大細胞型は抗がん剤が必要
- 鼻腔型は放射線が最強
- 副作用は思ったより少なく治療しやすい
- 誤情報に惑わされず“正しい判断”をすることが大切
猫ちゃんと飼い主さんにとって 最善の選択が明確になる ように、
獣医師目線で一つひとつ丁寧に解説しました。
獣医師の視点で、
腫瘍治療中の猫に現実的に選ばれているフードをまとめまています。▶︎ 腫瘍の猫に配慮したフードの考え方を見る
※本記事は、獣医師の立場から高タンパクなキャットフードの必要性と、どんな猫に向いているのかを解説しています。普段我々は病気の療法食としてロイヤルカナンやヒルズなどの療法食を処方しますが、それ以外の目的や腫瘍の際の栄養、食欲[…]