前回は猫のリンパ腫の抗がん剤についてお話ししました。
自分は二次診療まで従事していますので猫ちゃんのリンパ腫は数多く経験し、様々な治療を行っています。
今回は、過去の猫ちゃんのリンパ腫の治療経過とどのような転帰をたどったかについて経験をお話しします。
正しい理解とネットの誤情報
猫ちゃんのリンパ腫を理解するのはとても難しいです。
ただでさえ難しい病態な上に、診察室では気が動転してしまうことと思います。
猫ちゃんのリンパ腫はその子によって実はさまざまなタイプがあるので、
『猫のリンパ腫』とまとめて考えること自体正しくありません。
ネット上には様々な情報が流れます。
しかし、みんな異なるリンパ腫で異なる治療結果であることがほとんどなので鵜呑みにせず参考にしておくのが賢明です。
ネットの誤情報に嫌気がさすので、このサイトではなるべく偏見をなくし【本当のところ】をお伝えできればと思っています。
猫のリンパ腫の予後の考え方
①高悪性度か低悪性度か
猫ちゃんのリンパ腫は予後の悪い高悪性度リンパ腫(低分化)と予後がマイルドな低悪性度リンパ腫(高分化)に大別されます。
低悪性度リンパ腫は内科的な治療によって年単位で頑張ることができます。
高悪性度リンパ腫は治療が大変であり、一般的に猫のリンパ腫と言われるとこれを指していることが多いです。
本コラムでも高悪性度リンパ腫のお話をします。
②どこのリンパ腫か
リンパ腫は血液のガンなので体のあらゆる部位で発生します。
その発生部位によってでる症状や予後がちがいます。
FeLVウィルスを有する猫ちゃんは若くてもリンパ腫を発症します。
以下に簡単にまとめます。
縦隔型リンパ腫:胸の中に腫瘍ができるため呼吸が苦しくなる。
多中心型リンパ腫:体(多くは頸部)のリンパ節が腫れるので、喉の違和感や息のしづらさがある。
消化器型:お腹の中に腫瘍ができ、下痢や嘔吐などの消化器症状がでる。
鼻腔内型:鼻の中に腫瘍ができ、鼻血や鼻水、呼吸困難が生じる。
猫の鼻腔に発生する腫瘍はほとんどが悪性であり、リンパ腫がも っとも多く、その他に腺癌 扁平上皮掘 未分化癌という上皮系腫瘍が続く。稀に軟骨肉腫線維腫,骨肉腫などの非上皮系腫瘍の発生も認められる。多くの猫の鼻腔腫瘍は犬の鼻腔腫瘍と同様に局所[…]
その他、発生はやや少ないが腎臓型、中枢神経型、眼窩型、皮膚型などが存在しています。
1年半頑張った消化器型の猫ちゃんのはなし
この子は、数日前から下痢と吐き気、食欲の低下があり痩せてきたとのことでした。
すぐに血液検査とエコー検査を行い、お腹の中の腸に大きな腫瘍があり、
ご飯が通らなくなっていたため、数日後に腸の一部を切除する手術を行いました。
細胞と組織の検査で高悪性度リンパ腫と診断し、追加の抗がん剤治療を手術後10日から開始しました。
このとき、手術後は見た目上はとても元気で、症状もなくなり、エコー検査でも腫瘍は見られなくなっていました。
それなのに抗がん剤を行った理由は、見えていなくても、体に潜んでいるのがリンパ腫だからです。これを寛解状態と言い、完治とは分けて考えます。
残った見えない腫瘍細胞たちを殺滅するために抗がん剤を始めました。
行ったのは週に1回(UW-25/CHOPプロトコール)抗がん剤を投与するものです。
この猫ちゃんは副作用があまり出ず、ごくたまに吐いたり、食欲が半分になることがありましたが、腫瘍があった時と比べると格段に元気に約半年間の抗がん剤を乗り切りました。
抗がん剤の副作用が強く出てしまう場合はステロイドのみの治療に移行する場合もあります。
わんちゃん猫ちゃんはとても長生きになるとともに腫瘍を患う確率も高まりました。その中でも犬猫ともに多く、辛い腫瘍にリンパ腫があります。いきなり我が子がリンパ腫と宣告され、抗がん剤をしますか?ステロイド[…]
その後、元気いっぱいで、腫瘍も存在しないため薬をすべてやめて、1ヵ月に1回の検査だけになりました。これを休薬ー寛解といいます。
寛解は、見た目上腫瘍が見えないことを指し、腫瘍細胞が眠っているような状態です。完治とはことなります。
しかし、その後、約1年を過ぎたころ、エコー検査でお腹の中のリンパ節が腫れていることがみつかり、細胞の検査でリンパ腫が再発(再燃といいます)していることが判明し、同じ抗がん剤を再開しました。
すぐに腫瘍は小さくなりましたが、2ヵ月後には抗がん剤しているにもかかわらず腫瘍が大きくなり、
抗がん剤を変更し様々な抗がん剤治療を行いましたが、治療開始から約1年半後にリンパ腫によって亡くなりました。
リンパ腫は、再発すると一度目の抗がん剤より効き目が落ち、腫瘍細胞が強くなるのです。
この猫ちゃんは消化器型のリンパ腫ではとてもよく頑張り、この1年半は大往生です。
この猫ちゃんは抗がん剤治療で頑張れた子の一般的な流れです。
飼い主さまと猫ちゃんの気持ち
リンパ腫治療は副作用ばかりに目が行くことが多いですが、消化器型のリンパ腫は腫瘍のせいで吐き気や下痢になり、とっても苦しみます。
この猫ちゃんも、治療中に抗がん剤の吐き気なども週に何度か経験しましたが、よっぽど楽だったと思います。
一番楽なのは寛解期間ですが、抗がん剤中も腫瘍での苦しみと比べると幾分快適に過ごしていました。
もちろんこれには個体差があります。いかにして抗がん剤と腫瘍と共存するかがポイントです。
飼い主さんはとても長くて短い大変な1年半だったと思います。しかし、猫ちゃんと共に戦い切ったという気持ちが強く、亡くなったことは悲しいものの、単純な悲しみとは違う感情を抱かれているようでした。命と本気で向き合ったからこそ感じることができる命の重みを、儚さを感じられ、一切の後悔はありませんでした。
ペットはいつも先に旅立ってしまいますが、人生の縮図であり、その命から学ぶことは多いです。
正解は一つではなく、最高の治療を受けさせてあげることでもありません。
共に考え、ともに戦い、後悔のない過ごし方をすることだと思います。
つぎは、完治したリンパ腫の猫ちゃんとのお話をしたいと思います。
前回、猫ちゃんの一般的なリンパ腫のお話をしました。リンパ腫は猫ちゃんにとっても多い腫瘍であり、悩ましい病気ですが、過去に抗がん剤治療によって完治した猫ちゃんがいます。なかなか完治が見込めない病気ですが、猫ちゃんはとても強い[…]