更新日:2025/12/14
近年、猫ちゃんはとても長生きであり15歳を超えて元気な子も珍しくなくなってきました。
しかし、高齢化猫社会になるとともに腫瘍で悩む猫も増えています。
なかでもリンパ腫と並んで猫に多い腫瘍に
『扁平上皮癌』があります。
扁平上皮癌はとても悩ましい腫瘍でありますが、
早期に診断し治療することで克服することも期待できます。
猫の「口の中のできもの」や「よだれの増加」「口臭の悪化」は、扁平上皮癌(SCC:Squamous Cell Carcinoma) のサインかもしれません。
扁平上皮癌は、猫の口腔内に最も多い悪性腫瘍で、進行が早く、骨を破壊しながら広がる厄介な病気です。
しかし、早期に気づくことで「治療できるケース」もあり、進行後も生活の質(QOL)を保つケアで過ごしやすさを大きく変えられます。
この記事では獣医師として、以下をわかりやすく解説します👇
・在宅でできるケアと注意点
・早期発見のポイント
・症状の見極め方
・必要な検査と診断方法
・外科・放射線・抗がん剤などの治療選択肢
・治療できない場合の進行と末期の様子
- 0.1 猫の扁平上皮癌(SCC)とは?扁平上皮癌の特徴・発生部位
- 0.2 早期発見のための肉眼と症状
- 0.3 早期発見のサイン(見逃しやすいポイント)
- 0.4 🟧 ① 食べ方が変わった
- 0.5 🟧 ② よだれが増える(粘り気のある涎)
- 0.6 🟧 ③ 口臭が悪化する
- 0.7 🟧 ④ 口の中に「しこり」や「潰瘍」
- 0.8 🟧 ⑤ 体重減少
- 0.9 診断
- 0.10 ① 視診・触診
- 0.11 ② 細胞診(FNA)
- 0.12 ③ 生検(組織検査)
- 0.13 ④ 画像検査
- 0.14 初期の根治的治療
- 0.15 外科手術(切除)が可能であれば最優先の治療になります。
- 0.16 無治療の場合どうなる?
- 0.17 末期に手術以外にできること
- 1 末期症状と QOL(生活の質)を保つケア
- 2 よくある質問(FAQ)
- 3 まとめ|早期発見がカギ。QOLを大切に
猫の扁平上皮癌(SCC)とは?扁平上皮癌の特徴・発生部位
扁平上皮癌は皮膚や粘膜を構成する「扁平上皮細胞」に発生する悪性腫瘍で、
猫の口腔内腫瘍の中で最も多いタイプです。
特に高齢猫での発生が目立ちます。
◆ SCC の特徴
- 口腔内(歯肉・舌下・頬粘膜など)に多い
- 局所浸潤性が強く、顎の骨を破壊しながら増大する
- 転移(肺など)は犬の腫瘍ほど多くない
- 早期発見が非常に難しい
- 気づいた時には進行していることが多い
◆ 発生部位
皮膚(まれ)
歯肉(特に上顎前方・奥歯周囲)
舌下
眼の周り
鼻
猫の口腔内腫瘍の約75%はこの扁平上皮癌であると言われています。
早期発見のための肉眼と症状
発生が多い場所は、
・歯肉
・舌下
であり、
肉眼的には白~ピンク色の結節またはカリフラワーのような見え方をします。
また、極めて初期は、腫瘤ではなく赤い潰瘍として見えることもあります。
早期発見のポイントは、過去に口内炎などで悩んでなかった高齢猫が、
口腔内の歯肉や舌の下に赤いできものがあり、よだれが多い場合は一度早めに動物病院を受診しましょう。
多い症状としては、
・食欲の低下(採食困難)
・よだれ
・食べこぼし
・口臭
・歯のぐらつき
・口腔内からの出血
などです。
扁平上皮癌は初期は局所の症状しか呈さないのが特徴です。

口内炎と症状がほとんど同じですので、
初期は口内炎と思い治療されていることが多いです。
口内炎との違和感がある場合はセカンドオピニオンを希望してください。
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早期発見のサイン(見逃しやすいポイント)
扁平上皮癌は**「口内炎と間違われる」**ことが多いため、飼い主さんが気づく早期サインを整理しました。
🟧 ① 食べ方が変わった
- ドライフードを嫌がる
- 食べるのに時間がかかる
- 左右どちらかの口を気にする
- 食べるときに鳴く、痛がる
(gontasensei.com)
🟧 ② よだれが増える(粘り気のある涎)
腫瘍の刺激や壊死によってよだれが増え、
臭いが強くなることも。
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🟧 ③ 口臭が悪化する
歯周病とは違う、
鉄のような・血のようなにおいがすることもある。
🟧 ④ 口の中に「しこり」や「潰瘍」
歯肉の盛り上がり、出血を伴う潰瘍、凸凹した腫瘤が見える。
(gontasensei.com)
🟧 ⑤ 体重減少
食べたいのに食べられない → 徐々に体重低下。
これは進行のサインでもある。
診断
SCC は一見「口内炎」と区別しにくいため、
確定診断には組織検査が必要です。
診断までの流れをまとめます。
① 視診・触診
口腔内の腫瘤、出血、潰瘍、骨の変形を確認。
(この段階で“要検査”か判断)
② 細胞診(FNA)
簡便にできるが、SCC は細胞が剥がれにくく、
診断がつきにくいことがある。
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③ 生検(組織検査)
最も確実。
局所麻酔または軽い鎮静で実施し、腫瘍の一部を採取して病理検査へ。
④ 画像検査
腫瘍の広がり・骨破壊の有無をチェックするため
- 口腔内レントゲン
- CT検査(手術適応判断に必須)
- 胸部レントゲン(肺転移)
細胞診断または生検による病理組織検査を行い確定診断します。
また、転移は少ないですが、口腔内の骨を破壊していることが多いのでレントゲンやCT検査で骨破壊の有無を確認します。
初期の根治的治療
まず、腫瘍の治療は基本的に外科、抗がん剤、放射線の3本柱が存在しますが、
扁平上皮癌と闘う場合は、まず可能な限り外科です。
手術は、腫瘍から少なくとも2 cm多く切除すべきなので、一部の顎の骨ごと切除します。
口の先の方にできた場合は、外科的切除および放射線治擁により完治が見込める場合もありまず。
根治を目指す場合は、一時的な侵襲や外貌の変化は避けることはできません。
しかし、無治療で様子を見た場合は更に辛い経過をたどるため先を見据えて選択すべきです。
外科手術(切除)が可能であれば最優先の治療になります。
◆ メリット
- 腫瘍組織を大きく減らせる
- 痛み・出血・採食困難を改善
- 再発までの時間が伸びる
◆ デメリット
- 顎の骨に広く浸潤していると切除困難
- 麻酔リスク(高齢猫が多い)
- 術後に一時的な採食補助が必要
無治療の場合どうなる?
様々な理由で腫瘍の摘出手術を行わなかった場合は、
数週間から数か月以内に腫瘍は増大していき、口腔内を大きく占拠し始めます。
そのようになると口腔内の痛みや口の開け閉めができなくなり、採食困難や呼吸困難になります。
とても痛々しいため、早期からできることを前もって考え、治療を選択すべきです。
治療ができない/選択しない場合は、
腫瘍は口腔内で急速に増大します。
◆ 進行パターン
- 腫瘍が大きくなる
- 食べにくくなる
- 顎骨の破壊
- 出血や壊死が進む
- 痛みの増悪
- 鼻腔や眼窩方向に浸潤
(gontasensei.com)
◆ 余命の目安
個体差が大きいですが、
無治療だと数ヵ月前後となるケースが多い。
では、手術以外にできることはなんでしょうか。
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末期に手術以外にできること
まず、腫瘍に対してできることとして手術以外で最も強力な治療は放射線です。
放射線治療はヒトと違い麻酔は必要となりますが、手術と違い外貌の変化を伴わず治療可能であり、
扁平上皮癌は放射線が効く可能性がある腫瘍なので、縮小や増大のペースを遅らせたり、鎮痛効果に期待できます。
手術できないケースでの「次の選択肢」。
◆ 効果
- 腫瘍縮小
- 痛み・出血の改善
- 数ヶ月のQOL向上が期待できる
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◆ デメリット
- 通院頻度が多い
- 施設が限られる
- 重度の口内炎や潰瘍には注意が必要
しかし、週に1回以上の全身麻酔という負担から末期の緩和治療として希望される飼い主様は多くはありません。
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放射線治療を行わない場合にできることは、疼痛管理と栄養管理になります。
扁平上皮癌は急に転移を起こし命に関わるというよりは、
口腔内の腫瘍が徐々に増大し痛みや採食困難となり衰弱してしまうことが多いです。
そのため、しっかりと痛み止めを投与してあげることと栄養管理をしてあげることが大切になります。
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栄養管理としては、自力での食事が困難になる場合は、
経鼻カテーテルや食道や胃瘻チューブを設置し栄養管理をしてあげることができます。
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末期症状と QOL(生活の質)を保つケア
扁平上皮癌は、末期での痛みが非常に強い腫瘍。
そのため「痛みの管理(ペインコントロール)」が最重要。
◆ ① 痛み管理
- NSAIDs
- ステロイド
- オピオイド
- 鎮痛補助薬
- 口の痛みに合わせた麻酔薬ジェルの使用など
◆ ② 栄養サポート
- 柔らかい食事
- 嗜好性の高い食事
- シリンジ給餌も選択肢
- 脱水が進むため水分補給も重要
◆ ③ 出血・臭いへのケア
- 口腔内清拭
- 抗生剤
- 腫瘍壊死部の感染管理
◆ ④ 呼吸困難への対応
腫瘍が鼻や咽頭にまで広がると、
呼吸が苦しくなるケースがあります。
- 加湿
- 横向き姿勢の保持
- 安静環境の整備
扁平上皮癌への内科治療と抗がん剤
扁平上皮癌のもうひとつの腫瘍治療に内科治療として抗がん剤もあります。
詳しくは下記のコラムでまとめていますのでご参考になれば幸いです。
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よくある質問(FAQ)
Q. 高齢猫でも手術できますか?
→ 全身状態が良ければ可能です。
心臓・腎臓・血液検査でリスクを評価します。
Q. 口臭がひどいのは必ず癌ですか?
→ いいえ。
歯周病・口内炎でも起こります。
しかし 腫瘍との鑑別が必要 なので早めの受診を。
Q. 抗がん剤は効きますか?
→ SCC は抗がん剤への反応が弱いです。
主に痛みの緩和や炎症の改善目的で使います。
Q. 放射線治療はどれくらい通いますか?
→ 施設によるが、週1〜2回 × 数回 が一般的です。
まとめ|早期発見がカギ。QOLを大切に
- 扁平上皮癌は 早期発見がとても難しい腫瘍
- 口腔内を普段からチェックする習慣が重要
- 治療できる場合は外科 or 放射線が中心
- 治療できない場合でも、
痛みと生活の質を守るケアが大切
「気づいたら進んでいた」というケースが多い腫瘍。
少しでもおかしいと思ったら、
早めの診察がその子の未来を変える可能性があります。
高齢になった猫ちゃんにとって腫瘍は避けれない敵となります。
裏返すと、多くの場合腫瘍での悩みは長生きしてきた証とも考えられます。
そのなかで、猫の扁平上皮癌はとても発生が多く、治療と経過が悩ましい存在です。
何が正解ということはありません。
今回のお話が、おひとりでも参考になり、よりよい生活となることを願っています。
口の扁平上皮癌のケアとしてできることのひとつに食事管理も大切です。
腫瘍のフードや口腔環境をケアしたフードもあります、少しでも選択肢の参考になれば幸いです。
獣医師の視点で、
腫瘍治療中の猫に現実的に選ばれているフードをまとめまています。
▶︎ 腫瘍の猫に配慮したフードの考え方を見る
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