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獣医師が伝える犬猫の病気や治療の考え方

犬・猫の「がんの痛み」徹底解説|症状の見抜き方・鎮痛剤の使い分け・緩和ケアの実際を獣医師が解説

更新日:2025/11/23

犬や猫の「がんの痛み」は、
進行度に関係なく必ず向き合うべき症状 です。

しかし動物は痛みを訴えられないため、
飼い主さんが 「痛いサイン」 に気づけるかどうかで、
その子の生活の質(QOL)が大きく変わります。

腫瘍科の現場で多くの子を診てきた経験から、
本記事では 痛みの見抜き方・鎮痛薬の選択・緩和ケア・治療のバランス
臨床の視点でわかりやすく解説します。

動物は言葉を話すことができません。

目次

がんはなぜ痛みを引き起こすのか

がんの痛みは多くの要因が重なっています。

◆ 腫瘍そのものによる痛み

  • 神経の圧迫
  • 骨の浸潤
  • 腫瘍の炎症
  • 口腔腫瘍による咀嚼痛・接触痛

◆ 治療による痛み

  • 手術後の痛み
  • 放射線治療の炎症
  • 抗腫瘍薬による粘膜炎(まれ)

◆ 体勢・代償による二次的な痛み

  • 片側をかばう → 肩・腰が痛くなる
  • 呼吸困難 → 肋間の痛み

痛みの症状・サイン

犬猫が痛みを示すときのサインとしては

・体を小刻みに震わしている

・動きたがらない

・ハアハアとパンティングをしている(犬)

・触ると体に力が入る、逃げる、怒る、鳴く

・耳を後ろに向け、目つきがいつもと違う

などです。

このようなサインを示し、痛みが予測される場合は積極的に鎮痛薬を飲ませてあげるべきです。

動物にとってその瞬間の痛みをとってあげることはヒトの何倍も大切です。

犬猫の「痛みのサイン」チェックリスト

動物は痛みを隠すため、以下のサインに早く気づくことが重要です。

🐾 行動の変化

  • 階段を嫌がる
  • 散歩に行きたがらない
  • 触られるのを嫌がる
  • じっとして動かない

🐾 食事の変化

  • 固いものを食べなくなる
  • 一口食べてやめる
  • 食べる速度が遅くなる(口腔腫瘍)

🐾 身体のサイン

  • 震える
  • 呼吸が速い
  • 落ち着きがない
  • 夜にうろうろする

🐾 感情・鳴き声の変化

  • 不機嫌
  • 唸る
  • 小さく鳴く/呼ぶ

「いつもと違う」=痛みの可能性大
これが腫瘍科の診察で本当に多い。

鎮痛の大切さ

犬猫の鎮痛治療が大切である理由としては、

・苦痛から解放してあげること

・動物は今を生きる生き物であること

つまり、ヒトのように先の回復を見据えて我慢などできず、今の生活の質が大切であること。

・痛みは全身の回復に影響すること

食欲や免疫力、回復力に直結する。

がんの痛み

ヒト医療において言われていることですが、進行がん患者の2/3は強い疼痛を示されるということがわかっています。

がん自体の痛みや神経圧迫、骨転移など様々な理由でがんは体を痛めるためです。

そのため犬猫のがん治療ではなるべく早期から鎮痛治療を実施してあげるべきと考えます。

例えば、猫ちゃんで多い痛い腫瘍に扁平上皮癌があります。

腫瘍の治療の有無にかかわらず鎮痛治療は必ずしてあげるべきです。

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鎮痛治療の基本方針

(人医療の WHO 三段階ラダーを動物向けにアレンジ)

がんの痛みは
“弱い痛み → 中等度 → 強い痛み” の3段階で治療を使い分けます。

◆ ステップ1:軽度の痛み

  • NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)
  • サプリメント(グルコサミン等)

◆ ステップ2:中等度の痛み

  • NSAIDs + 補助鎮痛薬(ガバペンチンなど)
  • 弱オピオイド(ブプレノルフィンなど)

◆ ステップ3:強い痛み

  • 強オピオイド(フェンタニル、モルヒネ等)
  • 骨転移 → ビスフォスフォネート(ゾレドロン酸など)
  • 神経痛 → ガバペンチン増量

使用する鎮痛剤

よく使用する鎮痛剤には下記のものがあります。

・非ステロイド性消炎剤(NSAIDs)

・モルヒネ

・フェンタニルパッチ

・ガバペンチン

・プレガバリン

・レペタン

・トラマドール

・ビスフォスフォネート(ゾメタ)

それぞれの特徴と使用方法について説明します。

非ステロイド性消炎剤(NSAIDs)

ヒトでバファリンのような頭痛薬で普段からよく使用している鎮痛剤です。

我々が普段内服している消炎鎮痛剤は犬猫には中毒を引き起こすため、少し違う種類を用います。

犬猫でよく使用および処方する解熱鎮痛剤には、

・フィロコキシブ(プレビコックス)

・メロキシカム(メタカム)

・ロべナコキシブ(オンシオール)

などがあります。

これらの鎮痛剤の鎮痛作用は強く、一度の内服で24時間作用が持続します。

ただし、副作用として腎不全(特に猫)や胃潰瘍を生じる可能性があるため内服期間や状態には注意が必要です。

モルヒネ / フェンタニルパッチ

麻薬指定されている鎮痛剤であり、鎮痛剤の中では最も鎮痛作用が強く極めて強力な鎮痛作用を有します。

麻薬であるため、使用には厳密な管理が必要であり、処方されることはまずありません。

入院中や手術に主に使用されています。

ただし、通院中の犬猫で重度の疼痛が予想される場合は、

フェンタニルパッチと呼ばれる湿布のように皮膚に張るタイプのフェンタニルを使用することがあります。

フェンタニルパッチ

皮膚を毛刈りし湿布と同じ要領で張り付けて帰宅します。

使用後約12時間で作用し始め、その効果はおよそ3~4日間持続します。

効果が切れた際は必ず動物病院で張替えを行います。

ガバペンチン /プレガバリン

補助鎮痛剤に分類される鎮痛剤です。

上記の鎮痛剤と比べると単独での鎮痛効果は比較的弱く、他の鎮痛剤と併用して使用します。

もともとは発作を抑える薬剤であるため、神経痛によく効き、少しボーっとする副作用があります。

鎮痛目的では使用用量は少なく、命に関わる副作用は稀です。

レペタン/トラマドール

非麻薬性オピオイドと呼ばれる鎮痛剤であり、その言葉通り麻薬ではないが、とても強力な鎮痛作用を有することから獣医師はよく使用します。

レペタンは注射薬であり、病院での注射や液体としての内服薬として使用することもできます。また座薬も存在しており使用用途は幅広いです。

副作用も少ないため安全に使用することができます。

ただし、作用時間が6~8時間と短いため、1日に複数回の投与が必要となります。

ビスフォスフォネート(ゾメタ)

骨を破壊するような腫瘍の際に使用する点滴剤です。

骨を壊す破骨細胞と呼ばれる細胞を抑制することで、骨の破壊を抑え、高い鎮痛効果をが期待できます。

骨が破壊されている場合は高カルシウム血症を引き起こしている場合が多いため、この薬剤を投与することで高カルシウム血症を改善することもできます。

高カルシウム血症は気づかれることが少ないですが腫瘍の犬猫で極めて多い病態であり、

命にも関わる病態であるので、その治療に関しては注意が必要です。

犬猫の高カルシウム血症とその治療

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骨転移・神経浸潤など “強い痛み” への治療

✔ 骨転移(例:骨肉腫、乳腺腫瘍の骨転移)

  • ビスフォスフォネート
  • 放射線治療
  • オピオイド
  • NSAIDs
    痛み軽減率が非常に高い

✔ 神経浸潤(例:口腔SCC、脊椎腫瘍)

  • ガバペンチン
  • 放射線治療
  • ステロイド

✔ 末期腫瘍の痛み

  • フェンタニルパッチ
  • ブプレノルフィン
  • ステロイド
  • 自宅管理中心へ切替

非薬物療法|生活の中ですぐできる痛み対策

🏠 ① 生活環境の改善

  • 滑らない床にする
  • 暖かい場所に休ませる
  • ベッドを柔らかくする

🍲 ② 食事の工夫

  • 嗜好性の高い食事
  • やわらかい食事
  • 匂いを立たせる(温める)

🧼 ③ ケア衛生

  • 口腔腫瘍 → 臭いや壊死のケア
  • 皮膚腫瘍 → 乾燥防止・出血ケア

🐕‍🦺 ④ 介護・アシスト

  • 抱き上げ方
  • 散歩時間の調整
  • 夜間の介護

緩和ケア・終末期ケアにおける痛み管理

終末期は
「痛みを取る」=「その子らしい時間を取り戻す」 こと。

終末期に有効な薬

  • フェンタニルパッチ
  • ブプレノルフィン
  • ステロイド
  • ガバペンチン

一番大切なのは…

  • 食べられること
  • 呼吸が楽であること
  • 家族のそばにいられること

治療ではなく QOL(生活の質) を最優先に。

よくある質問(FAQ)

Q. がんは必ず痛い?

→ 痛くないこともあるが、多くは何らかの痛みを伴う。

Q. 鎮痛薬を使うと寿命が縮む?

→ ほぼ誤解。痛みのストレスの方が寿命に悪影響が大きい。

Q. 高齢でも鎮痛薬は使える?

→ 使える。腎・肝の状態に合わせて調整すればOK。

Q. 麻薬系は怖い?

→ 強い痛みには必要。適切に使えば安全。

Q. どのタイミングで強い薬に変える?

→ 「痛みのサイン」が出た時点で早めに変更が理想。

まとめ

  • がんの痛みは早期発見・早期治療が最重要
  • NSAIDs → 補助鎮痛薬 → オピオイド と段階的に使用
  • 骨転移・神経痛は専門的治療で大幅改善可能
  • QOLを守るには 鎮痛治療が腫瘍治療と同じくらい大切
  • 飼い主さんは「痛みの小さなサイン」を見逃さないことがポイント

痛みをしっかり取ってあげることで、
犬猫が “その子らしい時間” を取り戻せる。
これが腫瘍科の痛み管理の本質です。


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