わが子がいきなり『がん』と宣告され、
手術にしますか❔放射線にしますか❔抗がん剤をしますか❔
このような究極の選択肢を提示され頭を抱えたことはありませんか。
急な腫瘍の病気のことでさえ理解が難しいのなかでこのような選択肢に正しく理解したうえで選択できる飼い主様は少ないと思います。
今回はそのような飼い主様が特に理解しがたくイメージがつきにくい放射線治療について、
犬猫の放射線治療の
・メリット/デメリット
・放射線治療効果が高い犬猫の腫瘍
・放射線治療が可能な施設と流れ/費用
についてお話しします。
そもそも放射線治療とは❔
まず腫瘍治療の3本柱は『外科』『放射線』『抗がん剤』です。
このどの治療を行うかはその腫瘍の特徴・進行具合・メリット/デメリットによって決定します。
また腫瘍の状況によっては組み合わせて治療を行います。
何より大切なことはいづれの方法であろうと、
腫瘍と闘うために攻撃することは、自分の体の一部も一緒に攻撃することになります。つまり、負担や副作用は避けれません。
そのなかで、外科治療は体にメスを入れ外貌を変化させること、抗がん剤は全身に毒を与え副作用をだすことに対し、
放射線治療は体に傷をつけず、全身への影響も出さずに腫瘍を攻撃することができる治療になります。
レントゲン撮影やCT検査を受けられたことはありますか❔
その際に使用されているようなエックス線も放射線の一種であり、我々は人生で何度も放射線に曝露しているわけです。
違いは、『放射線量』つまり照射する強さの違いです。
放射線治療においては強い照射(〇〇Gy)を局所にすることでその細胞(腫瘍)を攻撃し破壊することができるのです。
では、ほかの治療と比べて、そのメリットとデメリットは何でしょうか❔
メリット/デメリット
放射線のメリットは、
・局所的に強力な抗腫瘍治療が可能
・形態や機能の温存が可能
・全身への影響が少ない
この3つが何より大きいです。
一方で、腫瘍を攻撃する治療には必ずデメリットも存在し、
・放射線障害
・麻酔/鎮静が必要
・施設が必要である
この3つが大きな壁になります。
それぞれについてまとめていきます。
放射線障害
放射線治療における副作用は放射線障害と呼ばれ、すぐに起こる急性障害としばらく経ってからおこる晩発障害の2つに分かれます。
急性障害
・放射線治療中から終了直後に発生(多くは治療開始から2~4週間後)
・ほとんどは可逆的な障害であり治癒する
下の写真の猫ちゃんは放射線照射したことで左眼や左鼻の周りが少し赤くなり、一部毛が抜けています。
この子は軽度ですが当て方によってはもう少し強い皮膚のただれが出ることもあります。
晩発障害
・放射線治療後、長期間経過後に発生(ほとんどは6ヶ月以上経過してから)
・不可逆的な障害
放射線治療後に数年以上長期間生存できた場合には遭遇する可能性があります。
東日本大震災の原子力発電の被曝の際の考え方に近い副作用です。ヒトの放射線治療においては大きな問題にもなりますが、
犬猫において実際には、悪性の腫瘍と闘病し数年以上に生存できることが多くないためこの晩発障害に遭遇することは極めて少ないです。
そのため、放射線障害として実際には照射後の数週間後の皮膚のケアが重要になります。
放射線治療が適応の腫瘍
犬猫においてその治療効果とその他の治療選択肢のメリット/デメリットを加味して、
放射線治療を積極的に考慮すべき腫瘍は、
第一に鼻腔内腫瘍(鼻腔内リンパ腫、鼻腔内腺癌/扁平上皮癌)です。
この腫瘍は外科治療で切除が困難であり、抗がん剤だけでは攻撃しづらく、放射線がよく効くからです。メリットが勝つ腫瘍ということになります。
そのほかに、口腔内腫瘍(扁平上皮癌、メラノーマ)も治療効果は高いため選択肢として考慮します。
ただこの腫瘍は外科治療の治療効果も高いため、そのメリット/デメリットを照らし合わせて選択するようにしてください。
口腔内のメラノーマ、扁平上皮癌の治療については下記を参照ください。
【口腔内メラノーマ】
高齢のわんちゃんがつぎの症状を示している場合は、よく口の中を覗いてみてください。・よだれが増えた・生臭い口臭がする・血混じりのよだれこれらを認める場合は、口の中に腫瘍ができている可能性もあります。[…]
【口腔内扁平上皮癌】
近年、猫ちゃんはとても長生きであり15歳を超えて元気な子も珍しくなくなってきました。しかし、高齢化猫社会になるとともに腫瘍で悩む猫も増えています。なかでもリンパ腫と並んで猫に多い腫瘍に『扁平上皮癌』があります。[…]
複数回の全身麻酔が必要
放射線治療はその照射計画(緩和的なのか根治的なのかなど)によって複数回照射する必要があります。
少なくとも4回以上は照射することになるのでその都度全身麻酔をかける必要があります。
そのリスクについては下記を参考に考えてあげてください。
犬猫の避妊去勢手術や歯石除去などの、予防的手術における麻酔リスクや考え方を前回お話ししました。下記にまとめていますので、見られていない方は先にご覧になると理解しやすかと思います。犬猫の麻酔リスクの考え方ht[…]
実際の放射線治療の流れ/施設/費用
いざ放射線治療をしようと考える場合の実際の流れをまとめます。
まず、放射線治療が可能な施設へ紹介してもらいます。
日本の動物病院で放射線治療が可能な施設はかなり限られています。
また、実は放射線の治療機械にも2種類(メガボルテージとオルソボルテージ)存在し、
治療する腫瘍や部位によっても紹介可能な施設は限られます。
近隣の獣医系大学病院または腫瘍科をもつ大きな動物病院の一部に設置されています。
近隣で可能な動物病院の選択肢は各地域の動物病院でご確認ください。
費用はその施設により異なりますが、概算としてはすべてまとめて約50万円くらいになります(1カ月で複数回照射した場合)。
照射回数は様々(週に1~5回)ですが、放射線治療は1カ月ほどで終わります。
その後は腫瘍の状況を見て治療を検討していくことになります。
まとめ
ここまで詳しめにまとめてきましたが、まずうちの子が腫瘍を宣告された場合、
・その腫瘍は何なのか❔
・どんな腫瘍なのか❔
・どのくらい進行しているのか❔
・腫瘍と闘うのか❔
・どう闘うのか❔
を考えます。
その総合判断のなかで放射線のメリットが高い場合は前向きに検討しましょう。
腫瘍と闘う場合はどんな治療もデメリットは伴います。ここで目をつぶってしまうと腫瘍をやつけることはできません。
そのデメリットを越えるメリット、それは腫瘍をやつけることでの本人の幸せと少しでも長く一緒に居れる家族の幸せが見込める場合です。
答えはひとつではありません。
今回の内容が少しでもその子と家族にとって最善となる治療を考えるうえで参考になれば幸せです。
また、いずれの治療をするうえにおいても、
小さな身体の犬猫の治療にあたって、
薬や治療と同じだけ栄養の管理も大切になります。
ステロイドなどの薬ばかりのんで痩せたり、
食べる量が少なくて痩せたり、
食べて良いご飯が限られたり。
幸せの基本である食事も併せて見直すことが、犬猫の真のHappinessに繋がります。
お家の子は栄養は足りていますか?犬猫は言葉を話せません。犬猫が十分な栄養摂取ができているかは正確な知識をもって、客観的に評価する必要があります。なぜ『栄養』のことを取り上げるかというと、特に、病気を[…]