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獣医師が伝える犬猫の病気や治療の考え方

犬・猫の放射線治療|受けられる病院は?費用は?効果・副作用・通院回数まで獣医師が徹底解説

更新日:2025/11/23

犬・猫が腫瘍(がん)と診断されたとき、
「放射線治療って受けられるの?効果は?」
「費用はいくら?副作用は?」
と心配される飼い主さんは本当に多いです。

わが子がいきなり『がん』と宣告され、

手術にしますか❔放射線にしますか❔抗がん剤をしますか❔

このような究極の選択肢を提示され頭を抱えたことはありませんか。

急な腫瘍の病気のことでさえ理解が難しいのなかでこのような選択肢に正しく理解したうえで選択できる飼い主様は少ないと思います。

しかし日本では情報が少なく、
放射線治療が実は “とても効果的なのに知られていない” がん治療のひとつになっています。

腫瘍科獣医師として、この記事では

  • 放射線治療が向く腫瘍
  • 治療が受けられる病院
  • 必要な通院回数
  • 費用の目安(大学病院データも反映)
  • 副作用
  • 手術・抗がん剤との比較
  • いつ治療すべきかの判断

を、専門的かつわかりやすくまとめました。

目次

放射線治療とは?(基礎知識)

放射線治療は、
高エネルギーの放射線を腫瘍に照射し、腫瘍細胞を破壊する治療です。

◆ 特徴

  • 外科・抗がん剤と同じ“がんの三大治療”
  • 体の外から照射するため体の負担が少ない
  • 痛みの軽減(緩和)効果が強い
  • 骨・鼻・口腔・皮膚など、局所腫瘍に特に有効

◆ 麻酔が必要

1回数分の短時間麻酔
(犬猫は動かないことが難しいため)

そもそも放射線治療とは❔

まず腫瘍治療の3本柱は『外科』『放射線』『抗がん剤』です。

このどの治療を行うかはその腫瘍の特徴・進行具合・メリット/デメリットによって決定します。

また腫瘍の状況によっては組み合わせて治療を行います。

何より大切なことはいづれの方法であろうと、

腫瘍と闘うために攻撃することは、自分の体の一部も一緒に攻撃することになります。つまり、負担や副作用は避けれません。

そのなかで、外科治療は体にメスを入れ外貌を変化させること、抗がん剤は全身に毒を与え副作用をだすことに対し、

放射線治療は体に傷をつけず、全身への影響も出さずに腫瘍を攻撃することができる治療になります。

レントゲン撮影やCT検査を受けられたことはありますか❔

その際に使用されているようなエックス線も放射線の一種であり、我々は人生で何度も放射線に曝露しているわけです。

違いは、『放射線量』つまり照射する強さの違いです。

放射線治療においては強い照射(〇〇Gy)を局所にすることでその細胞(腫瘍)を攻撃し破壊することができるのです。

では、ほかの治療と比べて、そのメリットとデメリットは何でしょうか❔

メリット/デメリット

放射線のメリットは、

・局所的に強力な抗腫瘍治療が可能
・形態や機能の温存が可能
・全身への影響が少ない

この3つが何より大きいです。

一方で、腫瘍を攻撃する治療には必ずデメリットも存在し、

・放射線障害
・麻酔/鎮静が必要
・施設が必要である

この3つが大きな壁になります。

それぞれについてまとめていきます。

放射線障害

放射線治療における副作用は放射線障害と呼ばれ、すぐに起こる急性障害としばらく経ってからおこる晩発障害の2つに分かれます。

急性障害

・放射線治療中から終了直後に発生(多くは治療開始から2~4週間後)
・ほとんどは可逆的な障害であり治癒する

下の写真の猫ちゃんは放射線照射したことで左眼や左鼻の周りが少し赤くなり、一部毛が抜けています。

この子は軽度ですが当て方によってはもう少し強い皮膚のただれが出ることもあります。

晩発障害

・放射線治療後、長期間経過後に発生(ほとんどは6ヶ月以上経過してから)
・不可逆的な障害

放射線治療後に数年以上長期間生存できた場合には遭遇する可能性があります。

東日本大震災の原子力発電の被曝の際の考え方に近い副作用です。ヒトの放射線治療においては大きな問題にもなりますが、

犬猫において実際には、悪性の腫瘍と闘病し数年以上に生存できることが多くないためこの晩発障害に遭遇することは極めて少ないです。

そのため、放射線障害として実際には照射後の数週間後の皮膚のケアが重要になります。

放射線治療が向く腫瘍(相性が良いがん)

🟩 鼻腔内腫瘍(最も効果が高い領域)

  • 呼吸改善が劇的
  • 生存期間が大きく延びる
  • 多くの大学病院でも推奨

🟧 口腔内扁平上皮癌(SCC)

  • 大きな痛みがある腫瘍 → 痛みが改善
  • 腫瘍縮小が期待できる
  • 手術困難な場合の第一選択肢

🟦 皮膚・軟部組織腫瘍

  • 局所再発が多い腫瘍で効果的
  • 再発腫瘍のコントロールにも良い

🟫 骨腫瘍(骨肉腫など)

  • 痛みの緩和目的で非常に有効
  • 歩けるようになることも多い
  • ビスフォスフォネートとの併用が理想

🟨 リンパ腫の局所病変

  • しこりの縮小+痛み改善

放射線治療が適応の腫瘍

犬猫においてその治療効果とその他の治療選択肢のメリット/デメリットを加味して、

放射線治療を積極的に考慮すべき腫瘍は、

第一に鼻腔内腫瘍(鼻腔内リンパ腫、鼻腔内腺癌/扁平上皮癌)です。

この腫瘍は外科治療で切除が困難であり、抗がん剤だけでは攻撃しづらく、放射線がよく効くからです。メリットが勝つ腫瘍ということになります。

そのほかに、口腔内腫瘍(扁平上皮癌、メラノーマ)も治療効果は高いため選択肢として考慮します。

ただこの腫瘍は外科治療の治療効果も高いため、そのメリット/デメリットを照らし合わせて選択するようにしてください。

口腔内のメラノーマ、扁平上皮癌の治療については下記を参照ください。

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複数回の全身麻酔が必要

放射線治療はその照射計画(緩和的なのか根治的なのかなど)によって複数回照射する必要があります。

少なくとも4回以上は照射することになるのでその都度全身麻酔をかける必要があります。

そのリスクについては下記を参考に考えてあげてください。

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実際の放射線治療の流れ/施設/費用

いざ放射線治療をしようと考える場合の実際の流れをまとめます。

まず、放射線治療が可能な施設へ紹介してもらいます。

日本の動物病院で放射線治療が可能な施設はかなり限られています。

また、実は放射線の治療機械にも2種類(メガボルテージとオルソボルテージ)存在し、

治療する腫瘍や部位によっても紹介可能な施設は限られます。

近隣の獣医系大学病院または腫瘍科をもつ大きな動物病院の一部に設置されています。

近隣で可能な動物病院の選択肢は各地域の動物病院でご確認ください。

費用はその施設により異なりますが、概算としてはすべてまとめて約50万円くらいになります(1カ月で複数回照射した場合)。

照射回数は様々(週に1~5回)ですが、放射線治療は1カ月ほどで終わります。

その後は腫瘍の状況を見て治療を検討していくことになります。

どこの病院で受けられる?全国の対応施設

犬猫の放射線治療ができる施設は日本ではまだ限られています。

◆ 対応施設が多いのは…

  • 大学病院
    • 北海道大学
    • 日本大学
    • 麻布大学
    • 大阪公立大学
    • 山口大学 ほか
  • 一部の民間二次診療施設

↪関西ではジャーメック大阪、京都ARなど、関東ではどうぶつの総合病院(埼玉)、日本小動物医療センター(埼玉)などです。

治療の流れ(通院回数・麻酔・期間)

◆ 1. 初診・検査

  • CT
  • 血液検査
  • 病期判定

◆ 2. 治療計画(専用ソフトで線量計算)

◆ 3. 照射

  • 1回数分
  • 全身麻酔(短時間)

◆ 4. 回数

腫瘍の種類によって変わる。

🔵 多分割照射(標準)

  • 10〜15回
  • 週2〜5回
  • 3〜4週間

🟠 寡分割照射(通院負担が大きい時)

  • 2〜6回
  • 高線量で短期間
  • 鼻腔・口腔腫瘍でよく使う

費用はいくら?(実際の大学病院データ)

🟦 北海道大学獣医病院(公開情報より)

  • 4〜6回:28〜42万円
  • 15回:62〜76万円
    (初診料・検査料は別)

🟥 民間・二次診療施設

  • 多分割(10〜15回):45〜70万円
  • 寡分割(3〜6回):20〜40万円

🟩 追加費用

  • CT:2〜6万円
  • 血液検査:5,000〜1.5万円
  • 麻酔費用:回数分

※ 腫瘍の種類・体重・施設で変動。

効果はどれくらい?(腫瘍別の期待値)

🟩 鼻腔内腫瘍

改善率:70〜90%
生存期間:1〜2年が目標

🟧 口腔SCC(猫)

  • 食べやすくなる
  • 痛みが大幅に減る
  • 腫瘍縮小が期待できる
  • 生存期間数ヶ月〜1年

🟦 骨腫瘍(骨肉腫)

  • 痛み緩和の効果大
  • 歩行改善
  • 効果:数ヶ月続く

🟫 皮膚・軟部腫瘍

  • 再発腫瘍のコントロールに有効
  • 完全寛解もあり

副作用は?短期と長期の違い

✔ 短期(照射した部位の皮膚炎)

  • 赤み
  • 脱毛
  • かゆみ
    → 2〜4週間で軽快

✔ 長期(まれ)

  • 皮膚の色素沈着
  • 顎骨壊死(口腔腫瘍)
    → 線量を調整することで回避可能

全体的に、副作用は人よりかなり少ないのがポイント。

手術・抗がん剤との比較(表)

治療メリットデメリット
手術完治を狙える、効果が早い場所により不可能、再発も
抗がん剤全身治療に有効、寛解期待反応しにくい腫瘍あり
放射線治療局所腫瘍に最強、痛み改善施設が少ない、麻酔必要

放射線治療が向かないケース

  • 進行しすぎて全身状態が悪い
  • 麻酔リスクが高い
  • 全身転移が多い
  • 通院が困難

とはいえ“緩和目的”では可能な場合もあるため、
主治医と相談するのがベスト

よくある質問(FAQ)

Q. 高齢でも受けられる?

→ 身体の状態が安定していればOK。

Q. 痛みは出る?

→ ほぼ出ない。むしろ痛みが減る。

Q. 入院は必要?

→ 基本は外来でOK。

Q. 抗がん剤と併用できる?

→ 併用が一般的。効果が高まることもある。

まとめ

  • 放射線治療は 犬猫のがん治療の重要な選択肢
  • 特に 鼻腔腫瘍・口腔SCC・骨腫瘍 に効果的
  • 施設は限られるが、治療効果の高さは大きい
  • 費用は 20〜70万円 と幅はあるが価値は高い
  • 副作用は人より少なく、多くの子でQOL改善が期待できる

放射線治療は
「もう無理かな…」を「まだ頑張れる」に変えてくれる治療
迷ったら、一度主治医と相談してみてください。

・その腫瘍は何なのか❔

・どんな腫瘍なのか❔

・どのくらい進行しているのか❔

・腫瘍と闘うのか❔

・どう闘うのか❔

を考えます。

その総合判断のなかで放射線のメリットが高い場合は前向きに検討しましょう。

腫瘍と闘う場合はどんな治療もデメリットは伴います。ここで目をつぶってしまうと腫瘍をやつけることはできません。

そのデメリットを越えるメリット、それは腫瘍をやつけることでの本人の幸せと少しでも長く一緒に居れる家族の幸せが見込める場合です。

答えはひとつではありません。

獣医師の視点で、
腫瘍治療中の犬に現実的に選ばれているフードをまとめまています。

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