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獣医師が伝える犬猫の病気や治療の考え方

犬猫の全身麻酔とリスク~CT・MRI・手術するか迷うとき~

更新日:2025/12/5

手術を行う際に最も重要なのが
「麻酔リスクを正しく評価すること」 です。

その基準として世界中の獣医・医療分野で使用されているのが
ASA分類(American Society of Anesthesiologists) です。

ASA分類は、
患者の全身状態を 1〜5(+緊急 E) の6段階で評価し、
手術の安全性・麻酔方法・術後管理の必要性を判断するための指標です。

この記事では、各ステージの具体的な意味、
手術可否、麻酔の注意点をわかりやすく整理しています。

犬猫の麻酔リスクの考え方

犬猫の麻酔リスクと死亡率~避妊去勢と歯石除去して大丈夫?~

では、実際に高齢になって全身麻酔をかけて手術や検査を行う場合のリスクはどうでしょうか?

健康な状態で受けた小さい頃の全身麻酔とリスクは同じでしょうか?

今回は、病気になり全身麻酔が必要な際にどのように考えるかについてお話しします。

その子の麻酔リスク評価法

前回もお話ししたようにその子その子で麻酔リスクは異なります。

つまり、一概に

「高齢だから~」

とか

「身体が小さいから~」

とかで麻酔リスクは決まりません。

麻酔リスクは

その子の全身がどのような状態であるか

によって決まります。

これをASA評価と呼び、

重症度によって1~5段階に分かれます。

ASA評価

死亡率に影響を与えるASA評価は以下の5段階に分けられます。

①健康

②軽度の臓器異常を認めるが、機能的な異常はない

例)肝数値が少し異常値である程度

③重度の臓器異常を認め、機能的にも障害を持っている

例)慢性腎不全で、腎数値が高い

④重度の臓器異常を認め、生命の危機にさらされている

例)心臓病があり肺水腫(呼吸困難)を起こしている

⑤瀕死であり、手術の有無に関わらず24時間以内に死亡する可能性が高い

例)腫瘍の末期で多臓器不全を起こしている

全身麻酔をかける際は、その子が、

この5段階のどこに当たるのかを考え、

そのリスクと手術の必要性を照らし合わせます。

言葉を話せない動物であるからこそ、

高齢だからとか可愛そうという主観的な観点だけではなく、

なるべく客観的に適切に治療を考えてあげましょう。

各ステージの解説(1〜5 + E)

🟩 ASA I:健康体

  • 若齢・健康
  • 基礎疾患なし
  • 健康診断で問題なし

例:健康な犬猫の避妊・去勢手術


🟨 ASA II:軽度の基礎疾患あり

  • 軽度の心雑音
  • 初期の腎臓病(IRIS1〜2)
  • 軽い皮膚病
  • 軽度の肥満
  • 安定した内分泌疾患(軽度の甲状腺機能低下症など)

通常の麻酔で問題なく手術可能です。


🟧 ASA III:明らかな全身性疾患あり

麻酔リスクが上がるが、適切な管理で手術可能。

  • 中等度の心臓病
  • コントロールされた糖尿病
  • 慢性腎臓病(中〜重度)
  • 発熱、脱水
  • 貧血
  • 肝疾患の既往
  • 重度肥満

※術前の状態改善が必要なことがあります。


🟥 ASA IV:生命を脅かす疾患あり

麻酔が危険とされるが、治療目的で手術を行う場合もある。

  • うっ血性心不全
  • 重度の腎不全
  • 制御不能の不整脈
  • 重度の呼吸障害(肺水腫など)
  • ショック
  • DICの兆候

ICU管理下での慎重な麻酔が必要。


🩸 ASA V:手術しなければ短時間で死亡する状態

非常に高リスク。

  • 重度ショック
  • 進行した敗血症
  • 重大外傷
  • 穿孔性腹膜炎
  • 臓器破裂

救命目的の手術。

E:緊急手術(Emergency)

ASAに追加して「E」をつけます。

例)

  • ASA II-E(軽度疾患だが緊急手術)
  • ASA V-E(極めて重篤+緊急手術)

全身麻酔の死亡率

先ほど説明したASA分類ごとの死亡率は、

ASAが

①または②の場合 犬0.05%  猫0.11%

③④の場合    犬1.33%  猫1.4%

⑤の場合     非常に致死率は高い

です。

この確率を高いととるか、低いととるかはその人それぞれであるとともに、

その子の手術の必要性によりけりですよね。

また、この死亡率はアメリカの二次施設のデータであり、

日本の動物病院ではこの確率よりは少なくとも上がると予想します。

つまり、全身麻酔を検討する際は、獣医師の技術や病院の設備によっても左右されると認識すべきです。

犬猫でよくある疾患と ASA分類の例

疾患想定されやすいASA
健康な避妊・去勢I
歯石除去(軽度心雑音あり)II
膀胱結石(一般状態良好)II〜III
腫瘍摘出手術(高齢・軽度腎臓病)III
進行した僧帽弁閉鎖不全症III〜IV
急性膵炎III〜IV
肺水腫IV
穿孔性胃腸疾患V-E

※状況によって大きく変わります。

ASA分類は何に役立つのか?

● 手術の可否判断

リスクの説明や、延期・術前治療の判断に使用。

● 麻酔計画

  • 薬剤の選択
  • モニタリングの強化
  • 術後の入院・ICUの必要性

● 飼い主へのリスク説明

客観的な指標のため共有しやすい。

● 術前治療の必要性判断

脱水改善、心不全コントロール、血糖調整など。

ASA分類と手術の判断

🟩 ASA I〜II:通常の麻酔で問題なく手術可能

十分な安全性が期待できます。


🟧 ASA III:リスクを理解したうえで手術を検討

術前治療・安定化を行えば良好な結果が望めます。


🟥 ASA IV:高度な麻酔管理が必要

手術に踏み切る場合は、
ICU・酸素室・高度モニタリングが必須。


🩸 ASA V:救命目的の緊急手術

術後の生存率は疾患により大きく異なります。


麻酔リスクを下げるためにできること

  • 術前検査(血液・レントゲン・心臓エコー)
  • 脱水の補正
  • 電解質異常の是正
  • 心疾患の治療・薬物調整
  • 肝腎疾患の安定化
  • 適切な鎮痛管理
  • 術中の詳細モニタリング
  • 術後の酸素管理・ICU管理

ASA分類はあくまで目安であり、
個々の患者の状態に合わせた最適な準備が成功を左右します。

全身麻酔する際の施設/動物病院の選び方

動物病院の適切な選び方~先生・設備・治療費~

よくある質問(FAQ)

Q. ASA分類は獣医師により異なりますか?

多少の差がありますが、大枠の基準は共通しています。

Q. 高齢だけでASAは上がりますか?

年齢だけではASA分類は上がりません。
あくまで「全身状態」で判断します。

Q. ASA IIIは手術できないのですか?

いいえ、適切な準備と管理を行うことで安全に可能です。

Q. ASA Vの生存率はどのくらいですか?

基礎疾患によりますが、非常に高リスクです。

まとめ

  • ASA分類は麻酔リスク評価の国際基準
  • 1〜5段階(+E)で全身状態を評価
  • 手術の安全性・麻酔計画・術後管理に大きく影響
  • ASA I〜IIは通常通り手術が可能
  • ASA III〜IVは慎重な術前管理が必要
  • ASA Vは救命目的の超高リスク手術
  • 個々の患者状態による評価と最適な準備が最も重要

ASA分類は「手術していいかどうか」だけでなく、
“どうすれば安全に手術できるかを考えるための指標” です。

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