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獣医師が伝える犬猫の病気や治療の考え方

猫の肝臓腫瘍(肝腫瘍)と手術|肝葉切除の適応・診断・予後

更新日:2025/12/5

猫ちゃんが食欲不振や嘔吐を認め、皮膚粘膜や尿が黄色くなっている、そんなとき血液検査をすると黄疸を認め、エコー検査で肝臓にできものができている。

比較的よく遭遇する状況です。

猫の肝臓に「しこり」「影」が見つかるとき、
可能性として考えられるのが 肝臓腫瘍 です。

猫の肝腫瘍は犬と異なり、

  • 良性腫瘍も多い
  • 画像では良悪性の判別が難しい
  • 手術が予後を大きく改善する
  • 肝葉切除は比較的安全で成功率が高い

という特徴があります。

本記事では、
症状・診断・CT評価・手術の流れ・術後経過・予後(生存期間)
腫瘍科獣医師の視点でわかりやすく解説します。

猫の肝臓のできもの

猫ちゃんは犬と比べて肝臓には原発性の癌が多く 、肝臓への転移病変が多い犬とは対照的
です 。

猫に発生する肝腫瘍の特徴は、
犬よりも良性腫瘍が多い という点です。

● 良性

  • 肝細胞腺腫(最も多い)
  • 肝のう胞
  • 結節性過形成

● 悪性

  • 肝細胞癌(Hepatocellular carcinoma)
  • 胆管癌(Cholangiocarcinoma)
  • リンパ腫(肝浸潤による腫大も含む)
  • 転移性腫瘍(他臓器→肝臓)

画像(エコー・CT)では良性と悪性の区別が難しく、
“単発で明確な腫瘤”の多くは手術適応となります。

犬と比べ猫ではこの中でも圧倒的に胆管癌が多く、肝細胞腫瘍は少ないと言われています。

そのためここからはその胆管癌について詳しくまとめていきます。

胆管がんとは❔

胆管がんとは肝臓のなかにある胆管と呼ばれる肝臓で作った液の胆汁を運んでいる管が腫瘍化したできものです。

この胆管がんには悪性の胆管癌と良性の胆管腺腫が約半々で存在し、稀にリンパ腫や肥満細胞腫と呼ばれる猫で多く発生する腫瘍が併発することもあります。

主に高齢でみられるとが多く、良性の胆管細胞腺腫の発症が多く、

肝胆道系腫瘍の 50%以上にのぽるとされていますが、悪性転化の可能性も言われており良性悪性の判断は困難です。
肝臓の中には嚢胞状の構造を示し、周囲の臓器を圧迫するまで大きくなることで、

胃などを圧迫し食欲不振や嘔吐などの症状を引き起こします。

胆管細胞癌は 80%と多くの症例で転移がみられ腹膜、肺、 リンパ節への転移が多いが,横隔膜、脾臓、 膵臓、など様々な臓器への転移も報告されています 。

よくある症状

初期には無症状のことも多く、検診で偶然見つかることがあります。

  • 食欲低下
  • 体重減少
  • 嘔吐
  • 元気がない
  • 黄疸
  • 腹水
  • お腹の張り

腫瘤が大きいほど症状が出やすくなります。

診断方法(エコー・CT・血液検査)

✔ 血液検査

  • ALT/AST 上昇
  • ALP/GGT 上昇
  • ビリルビン上昇
  • 貧血・炎症所見

※腫瘍があっても正常値のことがあります。

✔ エコー検査

  • 腫瘤の位置
  • 形状
  • 血流
  • 他の肝葉との関係

✔ CT検査(非常に重要)

手術前に最も役立つ検査です。

わかること:

  • 腫瘍の浸潤範囲
  • 主要血管との位置関係
  • 他肝葉の状態
  • 肺転移の有無
  • 手術の可否

CTは安全な手術計画に不可欠です。

胆管がんを疑い診断するためには、身体検査、血液検査、エコー検査、細胞診検査が必要です。

身体検査では特別な異常は認めませんが、まれに腫瘍に伴った全身性の脱毛(腫瘍随伴性脱毛)を認める場合があります。

血液検査では、肝酵素値の上昇な ど非特異的な異常がみられることが多く、ビリルピンの上昇がみられることもあります。

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エコー検査が最も大切で、多くは肝臓の中に嚢胞構造が認められ、複数存在していることがあります。肝臓内にいくつ、どの程度、どのように存在しているかが手術などの治療方針を決定するうえで大切となります。必要に応じてCT検査も検討します。

細胞診の検査では胆管癌の場合は特徴的な上皮系の細胞集塊が認められます。肥満細胞腫やリンパ腫などのほかの腫瘍が存在しないか確認します。この検査で良性悪性を決定することまでは困難です。

胆管がんの治療方針と外科手術

胆管がんが疑われる場合はまず何よりも手術が可能かどうか、が大切です。

手術が可能かどうかは、

・腫瘤の数と位置

・大きな血管の走行

・転移や全身状態

・輸血の可否

をもとに検討します。

肝臓の手術は出血が多く予想されるため、犬の場合約2割、猫の場合約4割の手術で輸血を必要とするので、必ず輸血の準備が必要となります。

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また手術は可能な施設や外科医が限られていますので、十分な相談と腫瘍医へのセカンドオピニオンも検討いただくことで適切な治療を考えることが可能です。

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手術が難しいケース

すべての肝腫瘍が手術可能とは限りません。

以下の場合は難易度が高まります。

  • 複数肝葉に多発している
  • 主要血管(門脈・肝静脈)に浸潤
  • 重度の肝不全
  • 広範な腹膜播種
  • 高齢で麻酔リスクが高い

手術不能例では
内科管理・緩和ケア・抗がん剤(腫瘍の種類により) を検討します。

術後の経過・合併症

● 術後の経過

  • 数日で食欲が戻る猫が多い
  • 数週間で通常生活に戻れる
  • 術後の痛みは十分にコントロール可能

● 主な合併症

  • 出血(最も重要)
  • 貧血
  • 胆汁漏出(稀)
  • 感染
  • 肝酵素の一時的な上昇

入院期間は一般的に 3〜7日 程度です。

手術が困難な場合と末期

手術を検討した結果手術が困難な場合は腫瘍に対してできること、例えば抗がん剤や放射線治療などの有効な治療の報告はなく、対症治療が中心となります。

起こりうることと最後の最後までできることとして、

・食欲不振や嘔吐ーできものが胃などを圧迫して起こっていることが多いので栄養管理や胃腸薬を使用します。

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・肝性脳症ー肝機能低下によって毒素が体にたまるので肝臓を保護する薬や発作などを起こさないようにします。

・門脈圧亢進(血管圧迫)による腹水や出血ー腹水を抜いたり利尿剤、輸血などによってケアします。

予後

良性腫瘍の場合には外科的切除により予後良好と考えられます。そのため診断で述べたように、肝臓にがんがあるからもうできることはない、ではなくしっかり検査をしてどのような部分にどうできているのかをしっかり見定めて考える必要があります。

胆管細胞腺腫(良性)で 8例の限局性.、2例の多発性の症例で外科的切除を行い10例中 9例で完全切除ができ予後が良好だったとの報告があります(生存期間中央値22カ月)。多発性であっても胆管細胞腺腫の場合は完全な外科的切除により予後が良好であると考えられます。また経過観察した場合の悪性転化の可能性や腫瘍の増大によ る外科的切除のリスク増加を考慮すると,胆管細胞腺腫は早期に外科的切除することが推奨されます。

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まとめると、予後は腫瘍の種類により大きく異なります。

🟩 良性腫瘍(肝細胞腺腫)

手術で完治。寿命まで生活できることが多い。

🟧 肝細胞癌(単発)

  • 完全切除で 数年生存も可能
  • 転移率は低め

🟥 胆管癌(胆管細胞癌)

  • 悪性度が高く再発しやすい
  • 術後生存は 数ヶ月〜1年 のことが多い
  • 術後に抗がん剤を併用する場合もある

🟦 転移性腫瘍

原発腫瘍の種類に依存する。

放置した場合のリスク

  • 腫瘍破裂による腹腔内出血
  • 貧血
  • 体重減少
  • 食欲低下
  • 黄疸
  • 腹水
  • 進行による痛み
  • 多臓器障害

肝腫瘍が大きい場合の破裂は生命に関わるため、
放置は推奨されません。

飼い主が気づきやすいサイン

  • 体重が減ってきた
  • 食欲が落ちる
  • 元気がない
  • 嘔吐
  • お腹が張る
  • 黄疸(白目や耳が黄色い)
  • 触ると嫌がる

これらの症状は肝臓の問題を示唆します。

よくある質問(FAQ)

Q. 高齢でも手術はできますか?

健康状態が許せば可能です。心臓・腎臓の状態を事前に評価します。

Q. 手術後に薬は必要ですか?

良性腫瘍の場合は不要なことが多いです。
悪性の場合、腫瘍の種類により内科治療を併用することがあります。

Q. 手術しない選択肢はありますか?

可能ですが、腫瘍が大きくなると破裂リスクが高まります。

Q. CT検査は必須ですか?

安全な手術のためにほぼ必須と考えられています。

まとめ

  • 猫の肝腫瘍は 良性〜悪性まで幅広い
  • 画像では良悪性の判別が難しい
  • 単発の腫瘤は手術を検討すべきケースが多い
  • 肝葉切除は比較的安全性が高く、
    良性腫瘍では 治癒が期待できる
  • CT検査が手術判断の鍵となる
  • 放置すると破裂・出血など重大なリスクがある

「肝臓にしこりが見つかった」
その時点で早期の評価と治療方針の検討が重要です。

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