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獣医師が伝える犬猫の病気や治療の考え方

犬の膀胱移行上皮癌/腫瘍の症状・手術・余命

更新日:2025/11/24

犬の血尿・頻尿・排尿トラブルで、最も注意すべき腫瘍が
膀胱移行上皮癌(TCC) です。

TCC は

  • 進行が遅いことが多い
  • しかし治りにくく再発しやすい
  • 完全切除が難しい部位にできやすい
  • 内科治療が中心になる
  • 適切な治療で1年以上の延命も可能

という特徴を持っています。

この記事では “腫瘍科レベルの診療内容” を
飼い主さん向けにわかりやすくまとめています。

膀胱の腫瘍は尿路(尿の通り道)にできる腫瘍の約7割を占め、

とてもよく遭遇します。

この腫瘍は基本的に悪性であり、

周りの臓器に広がったり、転移したりしやすい腫瘍です。

では、この腫瘍を早期発見するためにどうすべきか。放っているとどうなるのか。すべき治療についてお話ししていきます。

膀胱移行上皮癌(TCC)とは?

TCC(Transitional Cell Carcinoma)は
膀胱の粘膜(移行上皮)から発生する悪性腫瘍

犬の泌尿器腫瘍の約 70% を占め、特に中高齢で多い。

◆ 特徴

  • 進行は比較的ゆっくり
  • しかし再発が非常に多い
  • 完全切除できる場所にできにくい
  • 内科治療(薬)が中心
  • 治療により 半年〜1年以上の延命が期待 できる

注意すべき症状(早期〜中期〜末期)

🟩 初期

  • 血尿(薄いピンク〜鮮血)
  • 頻尿
  • トイレの回数が増える
  • 膀胱炎と区別がつかない

🟧 中期

  • 排尿姿勢が長い
  • 少量ずつしか出ない
  • 尿に粘りがある
  • お腹の張り

🟥 末期

  • 尿が全く出ない(完全閉塞)
  • 腎臓に尿が溜まる(水腎症)
  • 痛み・嘔吐・ぐったり
  • 急性腎不全 → 命の危険

“血尿=膀胱炎” と決めつけるのは危険。

症状

膀胱の移行上皮癌の症状は、

・血尿

・頻尿

・尿漏れ

・排尿困難

などです。

この症状は膀胱炎や膀胱結石の症状とほとんど変わらないので注意が必要です。

では、早期発見診断のためにどのような検査が必要でしょうか?

よくある誤診:「膀胱炎と思っていたらTCC」

TCCの最も多い経緯がこれ。

✔ 抗生剤を飲んでも血尿が治らない

→ TCCを強く疑う

✔ 膀胱の“首”にしこりがある

→ TCCの好発部位

✔ 超音波でポリープが見える

→ 腫瘍のことが多い

膀胱炎と違い、
TCCは痛みが少ないのが特徴で、気づきが遅くなる。

早期発見と診断

上記のような症状が見られた場合はすぐに腹部の超音波検査を行います。

この際に確認することは、

・膀胱~尿道の腫瘤の有無と場所

・リンパ節(腸骨リンパ)の腫れ(転移)

・腎臓の形態

これらを確認し、

膀胱の腫瘍を疑うのか、その場合転移はしてそうか、腎臓の機能は侵されていないかを確認します。

しかし、この画像検査だけで癌であると言いきることはできません。

次にすべき検査は尿/細胞検査です。

尿道にカテーテルを挿入し腫瘤から細胞を採取し、癌なのかどうかの検査をします。

この検査方法には

・細胞診検査

・病理検査(セルパック)

・遺伝子検査(BーRAF)

があり組み合わせて行います。

診断の流れ|検査で何がわかる?

🟩 超音波(エコー)検査

  • 腫瘍の位置・大きさ
  • 膀胱炎との鑑別
  • 尿道への浸潤の有無
    最も重要

🧪 尿検査

  • 血尿・細菌感染
  • 癌細胞が混じることも

🧬 BRAF遺伝子検査(非常に有用)

  • 尿から腫瘍遺伝子を検出
  • TCCの診断に高い感度

🟦 CT/MRI(できれば推奨)

  • 腫瘍の広がり
  • リンパ節転移
  • 手術適応の判断

🟥 生検(腫瘍の一部を採取)

※ 尿漏れ(播種)のリスクがあるため、場所による

TCCになりやすい犬種・リスク因子

🐶 高リスク犬種

  • スコティッシュテリア
  • シェルティ
  • ウエスティ
  • ビーグル
  • コッカースパニエル
  • ボストンテリア

◆ その他のリスク

  • 高齢
  • 女性にやや多い
  • 除草剤・化学物質に触れる生活環境
  • 肥満

治療

膀胱の腫瘍の治療には大きく分けて2つあります。

それは、癌を切除する外科治療と抗がん剤などを使用する内科治療です。

それぞれをまとめます。

外科治療

膀胱腫瘍を外科治療する場合は下記3つの選択肢があります。

①膀胱部分切除

これは、癌が膀胱の先端にできている場合です。

膀胱の先端は尿の通り道から遠いので部分的に全てとりきることができます。

②膀胱全摘出

多くの膀胱癌は尿の通り道(尿管)の近くに発生します。

そのため部分的に切除すると尿の通り道を残すことができないので、このような場合は膀胱を全て摘出し、尿の出口をお腹の皮膚に開けてお腹から排尿するような手術をします。

③尿管/道ステント

腫瘤の摘出が困難な場合であって、尿の通り道が塞がってしまっている場合は尿の通り道を確保するためのステントを設置します。

ステントはカテーテルを使ってトンネルを確保するのうなイメージです。

まずはこれらの外科治療を行うかを検討し、

行わない場合は以下の内科治療を検討します。

内科治療

膀胱癌の内科治療には大きく分けて2つあります。

①NSAIDs(消炎鎮痛剤)

②抗がん剤

です。

①NSAIDsは膀胱腫瘍がもっていて増殖に関与しているCOX2と呼ばれる遺伝子を阻害することで腫瘍が縮小します。

NSAIDsとはヒトでゆうバファリンなどの解熱鎮痛剤です。犬の膀胱腫瘍に対しては、

・ピロキシカム(バキソ)

・フィロコキシブ(プレビコックス)

などを使用します。

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②抗がん剤は

さまざまなプロトコールが存在し、絶対的なひとつの抗がん剤が決まっているわけではありません。

最もよく用いられる抗がん剤は

・ミトキサントロン

・カルボプラチン

・ビンブラスチン

の3つです。

よく使う抗がん剤・分子標的薬(詳細)

◆ Palladia(トセラニブ)

  • TCCで使用頻度が高い
  • 経口薬
  • 副作用は少なめ
  • 長期維持が可能

◆ ビンブラスチン

  • 注射
  • 2週おき
  • NSAIDsと併用が一般的

◆ ミトキサントロン

  • 効果は高いが副作用も出やすい
  • 定期的な血液検査が必要

抗がん剤治療に関しては下記のコラムをご覧ください。

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また近年トセラニブ(パラディア)による治療も効果を認めると報告され始めています。

トセラニブ(パラディア)とは?

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余命

犬の膀胱癌はその悪性度や進行具合によってさまざまですが、平均余命は、

無治療で約2ヶ月

NSAIDs単独で約6ヶ月

抗がん剤治療で約12ヶ月

外科治療で12~15ヶ月と報告されています。

膀胱癌は非常に煩わしい腫瘍ではありますが、

何もできないとゆうことは少なく、

内科治療や外科治療を組み合わせていくことで長く一緒に頑張ることも可能です。

最新データ:TCCの予後(余命)

各治療の生存期間中央値(MS=Median Survival)↓

治療内容生存期間の目安
何も治療しない約1〜2ヶ月
NSAIDs単独約4〜6ヶ月
ビンブラスチン+NSAIDs約6〜10ヶ月
Palladia+NSAIDs約9〜12ヶ月
複合治療(数種類組み合わせ)約12〜18ヶ月
ステント併用(閉塞防止)QOLの改善が大きい

最新報告では
“適切な治療で1年以上生きる子が増えている”

生活の質(QOL)を守るためにできること

  • トイレの回数を増やす(清潔に)
  • 水飲み場を増やす
  • ご飯を食べやすい形にする
  • 痛みや炎症を抑える治療を継続
  • ステントで排尿を確保
  • 緩和ケアへ切り替えるタイミングを相談

TCCは長期戦やから、
“今を快適にすごす工夫” がめっちゃ大事。

よくある質問(FAQ)

Q. 膀胱炎とどう見分ける?

→ 抗生剤で治らない血尿はTCCを疑う。

Q. 手術すべき?

→ 完全切除がほぼ不可能なため、内科治療が中心。

Q. 高齢でも治療できる?

→ 通院可能&全身状態が安定していれば可能。

Q. 緩和ケアだけでもいい?

→ もちろんOK。「その子らしさ」を守る治療も正解。

まとめ

  • 膀胱移行上皮癌(TCC)は再発しやすい悪性腫瘍
  • 発見が遅れがち(膀胱炎と似ている)
  • 診断には エコー+BRAF検査 が非常に有用
  • 内科治療が中心(NSAIDs+抗がん剤)
  • 最新治療で 1年以上の生存が十分可能
  • QOLを保ちながら長期管理していくことが大切

TCCは“完全治癒”が難しくても、
治療選択で生きる時間と質が大きく変わる腫瘍です。


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