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獣医師が伝える犬猫の病気や治療の考え方

犬・猫の抗がん剤治療|効果・副作用・費用・適応腫瘍を獣医師が徹底解説

更新日:2025/11/24

がんと診断されたとき、飼い主さんが一番悩むのが

  • 抗がん剤って必要?
  • 副作用は大丈夫?
  • 動物にも“つらい治療”になる?
  • 費用はいくら?
  • 受けるべきか判断できない

という点です。

結論から言うと、動物の抗がん剤は
「延命+生活の質(QOL)」を最優先に設計されており、
人のように“ボロボロになる”治療はほとんどありません。

この記事では腫瘍科獣医師として、
抗がん剤の役割・副作用・費用・適応腫瘍・治療の流れ
わかりやすく、専門的にまとめました。

犬猫も近年とても長寿な子が増え、犬で15歳越えや猫で20歳近くの子もよく出会うようになりました。

とても素晴らしいことだと思います。

これは飼い主さまの飼育環境の向上と獣医療の発展が寄与しています。

また、犬猫の高齢化に伴って、様々な腫瘍で悩む子が増えるのも事実です。

腫瘍の大きな治療のひとつに抗がん剤がありますが、

実際に腫瘍を患った我が子に抗がん剤治療をするかどうか悩まれていたり、治療中にどうするか悩まれることも多いと思います。

動物の抗がん剤は「人と目的が違う」

🟥 人の抗がん剤

  • 完治・根治目的
  • 強い副作用を許容してでも腫瘍を叩く

🟩 犬猫の抗がん剤

  • 生活の質(QOL)を落とさないことが最重要
  • “つらくない治療” が基本
  • 副作用は人より圧倒的に少ない
  • 多くは外来(通院)で可能

この違いをまず理解しておくことが大切。

抗がん剤治療の考え方

腫瘍の治療は

外科・抗がん剤・放射線

の三本柱で構成されます。

腫瘍と闘うためにはこの治療は欠かすことはできないのです。

そして、このそれぞれひとつひとつ大きなメリットとデメリットが存在しています。

抗がん剤と聞くと抗がん剤=副作用と悪いイメージばかりがわく方が多いでしょう。

しかし、抗がん剤は唯一全身の腫瘍を制御することができる貴重な治療なのです。

治療の目的は何でしょうか?

治療の目的が

うちの子と少しでも長く一緒にいること

であれば、治療のメリット>デメリットが少しでも成立するならば副作用とうまく付き合い、治療をしていく必要があります。

どんな治療にもデメリットやリスクはつきまといますし、腫瘍はそれだけ手ごわいのです。

つまり、いかにうちの子の状態と腫瘍のタイプに対して、抗がん剤を行うことが副作用のリスクを越えて価値のあることかを総合的に考えるのがベストです。

抗がん剤が特に効果を発揮しやすい腫瘍

動物は「効くがん」と「効きにくいがん」がはっきりしてる。

🟩 とても効きやすい腫瘍(抗がん剤が第一選択)

  • リンパ腫(犬・猫)
  • 多発性骨髄腫
  • 一部の白血病

寛解(しこりがゼロ)を目指す治療が可能。


🟧 ある程度効く腫瘍(補助療法として重要)

  • 肥満細胞腫
  • 移行上皮癌
  • 組織球性肉腫
  • 乳腺腫瘍の一部
  • 口腔腫瘍の一部
  • 転移性腫瘍(肺転移など)

🟥 ほとんど効かない腫瘍(別治療が中心)

  • 肝細胞癌
  • 脾臓の血管肉腫
  • 骨肉腫
  • 甲状腺癌
  • 脳腫瘍

手術・放射線治療・緩和ケアを優先。

抗がん剤すべき腫瘍

犬猫で抗がん剤をよく行う腫瘍についていくつかご紹介します。

①リンパ腫

犬も猫もリンパ腫はとっても多い病気です。

そして、抗がん剤の効果がとても強く期待できる腫瘍です。

治療のメリットがデメリットを大きく上回る可能性がある腫瘍の代表になります。

詳しくは別のコラムにまとめます。

【経験談】猫のリンパ腫 ~どうなる?予後は?完治する?実際の抗がん剤治療例~

②肥満細胞腫

犬猫の皮膚にできる悪性腫瘍の発生NO.1の腫瘍です。

この腫瘍はまず外科です。

しかし全身に転移をしている場合は抗がん剤を行います。この腫瘍もとてもよく抗がん剤が効きます。

詳細は別コラムに詳しくまとめます。

~猫の肥満細胞腫~手術?ステロイド?無治療?

③膀胱の移行上皮癌

これも転移や尿路閉塞を引き起こす厄介な腫瘍ですが、抗がん剤が比較的よく効きます。

また1ヶ月に1回の抗がん剤なので、メリットがデメリットを上回る可能性が高い腫瘍です。

④各腫瘍摘出後の抗がん剤

脾臓の血管肉腫や乳腺がん、膀胱や前立腺や肺の腫瘍などの摘出後は全身への転移を遅らせるために抗がん剤を行います。

腫瘍は見た目上手術でとりきれていても、細胞レベルでは体のどこかに残っていますので、それを抗がん剤で殺しきります。

詳しくは下記のコラムをご覧ください。

恐ろしい心臓脾臓の『血管肉腫』 ~破裂?手術?完治?の実際~

① リンパ腫:CHOPプロトコール

最も有名で効果も高い。

  • Cyclophosphamide(シクロフォスファミド)
  • Hydroxydaunorubicin(ドキソルビシン)
  • Oncovin(ビンクリスチン)
  • Prednisone(ステロイド)

治療期間:約25週間
寛解率:80–90%
中央値生存期間:約1年


🟧 ② 猫のリンパ腫:L-アスパラギナーゼ・ビンクリスチン・ステロイド etc.

  • 胸腺型/消化器型で調整
  • 高齢猫でも比較的安全に行える

🟨 ③ 肥満細胞腫

  • ビンブラスチン
  • プレドニゾロン
  • Palladia(トセラニブ)

小〜中型犬でも外来で可能。


🟥 ④ 移行上皮癌(膀胱癌)

  • パロキセレニブ(Palladia)
  • NSAIDs(ピロキシカム)
  • ビンブラスチン

🟦 ⑤ 血管肉腫(HSA)

  • ドキソルビシン単剤
    → 生存期間を数ヶ月延長できる

抗がん剤の種類と副作用と費用

抗がん剤には大きく分けると注射と飲み薬の2つに分かれます。

飲み薬の抗がん剤はあまり使う頻度は多くありませんが、

・悪性度の低いリンパ腫のアルキル化剤

・リンパ腫のロムスチン

・肥満細胞腫に対する分子標的薬

・肥満細胞腫以外への分子標的薬

のほぼ4つです。

ほとんどの抗がん剤は注射で行います。

リンパ腫ではビンクリスチン、シクロフォスファミド、ドキソルビシンという抗がん剤をよく用います。

膀胱の腫瘍ではミトキサントロンやカルボプラチン、乳ガンなどの転移腫瘍にはドキソルビシンやカルボプラチンを投与します。

これらの抗がん剤の副作用の出方はその子ごとに、抗がん剤ごとに全然違います。

しかし、ヒトと同じイメージでは全くありません。

犬猫は自分の意思でご飯を食べてもらい、通院で抗がん剤を投与しますので、ヒトよりも投与量が少なく設定されています。

いかに、抗がん剤の副作用を最小限にしながら腫瘍をやつけ、腫瘍の苦しみから解放できるかに重きを置くことになります。

何も考えずに、抗がん剤は可愛そうだから、、、は人間の都合でしょうか。

これらの抗がん剤は注射薬は1回あたり1万~2万円、

飲み薬は体重によりますが、1回あたり500~数千円が相場となります。

注射頻度は1週から4週ごと、飲み薬は毎日~数週ごとと治療内容により異なります。

詳しくは各コラムでまとめます。

抗がん剤をおすすめしない場合

腫瘍だけに目を向けると抗がん剤は心強い治療になりますが、抗がん剤をすべきでない状況はどのようなときでしょうか?

・本人が強く衰弱し、死と直面している場合

・抗がん剤の効果≪副作用や負担が予想される腫瘍

・治療中によく観察や管理してあげられない飼育環境

・治療によって費用面、生活面から家族の生活が困窮する場合

以上を考慮し、最善となる選択をしていただきたいです。

副作用|どれくらいの確率で出る?

動物の抗がん剤は
副作用の発生率が低い ように設定されている。

◎ 副作用の頻度(犬)

  • 軽度:20〜30%
  • 重度:5%以下

◎ よくある副作用

  • 軟便・下痢
  • 食欲不振
  • 吐き気
  • 白血球減少(好中球減少)
  • 元気消失

◎ 重い副作用

  • 感染症(好中球減少時)
  • 点滴入院が必要な嘔吐・下痢
    まれ

◎ 脱毛について

  • プードル・シーズー・シュナなど一部犬種で見られる
  • 猫はほぼ脱毛しない

治療の流れ|通院頻度・期間・モニタリング

🕒 治療頻度

腫瘍ごとに異なるが、

  • 毎週〜隔週で通院
  • 1回の治療は15〜60分ほど

🧪 モニタリング

  • 血液検査(白血球・腎肝機能)
  • 腫瘍サイズの測定
  • 副作用チェック

🩺 治療期間

  • リンパ腫:25週間
  • 肥満細胞腫:2〜4ヶ月
  • 移行上皮癌:継続(維持療法)

抗がん剤をおすすめしないケース

  • 高齢で全身状態が悪い
  • 心臓病・腎不全が重度
  • 重度の貧血
  • 転移が非常に多く、QOLが維持できない
  • 飼い主さん自身の通院が困難

これらの場合無理に勧めないのが動物医療の基本

QOLを守るために大切な考え方

抗がん剤治療は
「元気に過ごす時間を増やすための治療」。

  • 食べる
  • しっぽを振る
  • 散歩へ行ける
  • 家族のそばにいられる

これらを守ることが最優先。

治療を中止し、緩和ケアに切り替える決断も正しい選択。

よくある質問(FAQ)

Q. 副作用が心配で迷っている

→ 動物の抗がん剤は強さを抑えている。生活の質を保ちながら治療できる。

Q. 仕事で通院が難しい

→ 内服治療中心に切り替えるケースも多い。

Q. 高齢のペットでもできる?

→ 体の状態が安定していれば問題ない。

Q. 緩和ケアだけでもいい?

→ もちろんOK。治療は“その子らしく生きるため”のもの。

まとめ

  • 動物の抗がん剤は人と目的が違う
  • QOLを維持しながら行える治療
  • リンパ腫などよく効く腫瘍が存在する
  • 副作用は人より圧倒的に少ない
  • 費用は1回合計1〜4万円が目安
  • 手術・放射線との組み合わせで効果UP
  • 無理に治療を進めないのが動物医療の基本

大切なのは、
「何がその子にとって一番幸せか」 を一緒に考えて治療方針を決めること。

抗がん剤は奇跡をおこす特効薬であり毒でもあります。

腫瘍治療にはデメリットやリスクは必ず伴います。

強い相手をやつけるために無傷であるのは不可能です。

ボクサーの試合終わりのお顔を見たことありますか?

どんな強い世界階級のボクサーも勝利後にはお顔はぼこぼこです。

いかに傷を小さくケアをしてあげて、傷を負いながらも無事に勝って帰ってこれるように背中を押すか、

傷ついてほしくないから試合を不戦敗にするかの2択です。

親として共に闘いたいか、本人が闘える状態か、勝算があるかを総合的に判断し向かいましょう。

そして、試合中にわが子の雲行きが怪しくなり、我慢できなくなったら思いきって白タオルを投げ入れましょう。

それが、

後悔なくやりきった

ということだと思います。 

次は、抗がん剤の副作用のでかたとケアの方法についてお話しします。

犬猫の抗がん剤治療中の注意点 ~副作用を最小限に~
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